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石井孝明の「温暖化とケイザイをめぐって」

温暖化問題と切り離せない経済。「お金」と温暖化の関係を追う。

北極海から氷が消えたら?〜科学からのメッセージを聞いてみる(その1)

2008年3月 6日

(これまでの 石井孝明の「温暖化とケイザイをめぐって」はこちら

■科学者が示す温暖化の危機

 温暖化と気候変動によって、どのような変化が起こるのでしょうか。不確実なところが多く、学術論文から「トンデモ本」まで多様な未来が示されています。その中で、私たちの生活にかかわり、現実となるかもしれない予想を紹介しましょう。

 温暖化をめぐる議論をリードしてきたのは、「国連気候変動に関する政府間パネル」(IPCC)という世界の科学者の温暖化をめぐる知見を集めてきた組織です。07年4月に、アメリカのアル・ゴア前副大統領とともにノーベル平和賞を受賞しました。

 この組織は07年に第4次評価報告書を示して温暖化と気候変動に関する知見をまとめています。

 報告のポイントは「気候システムの温暖化は疑う余地がない」と指摘し、「二十世紀半ば以降の平均気温の上昇は、人間活動による温室効果ガスの増加によってもたらされた可能性が非常に高い」としました。「地球温暖化が人為起源の温室効果ガス(二酸化炭素など)が原因だ」とほぼ断定したわけです。

 そして、世界各国の今起こりつつある気象の変化を指摘します。
▼北極、グリーンランド地域での氷の減少。北極では1978年以降、10年ごとに氷の面積が、2・7%減少した。
▼世界の降水量の変化。アメリカ東部、ヨーロッパ、アジアなど世界各国で、降水量が変化。高緯度地域では降水量が増加したところもあるが、総じて降水量が減少している。
▼台風、ハリケーンなどの強度が増加している。
 こうした変化が起こっているのです。さらに、こうした予想を飛び越えて、「人間期限の温暖化によって、突然の、あるいは不可逆的な現象が引き起こされる可能性がある」と警告しています。

 そして、循環型社会を実現しても今から約1・8度、化石燃料に依存した経済体制の場合だと約4度気温が上昇する可能性があると予想を示しました。上昇予想の最大幅は6・4度になります。

■北極海から氷が消えたら?

 IPCCの第4次報告書を、どのように受け止めるべきでしょうか。科学からのメッセージを学ぶために、東京大学生産技術研究所の山本良一教授に話を聞きました。地球温暖化をめぐる一般向けの啓発活動などで知られ、温暖化問題のオピニオンリーダーの一人です。

「人為的な理由による温暖化が進んでいること断定した点、さらにあらゆる分野についての広範な情報を提供し、社会に議論の材料を提供した意義を高く評価します。しかし、問題もあります。IPCCの分析は非常に保守的な部分もあるのです」と山本教授は話します。

 IPCCは、130を超える国の450人を占める代表執筆者、800人を超える執筆者協力者、2500人の専門家の意見を集めて公表されました。意見が集約される中で、見通しが穏健なものになったようです。

 第4次報告は2006年初頭前後までの研究論文を集めたものですが、「現実は予想以上に進行しています」と山本教授は指摘します。たとえば北極海氷の問題があります。06年から07年の夏に急速に氷が減りました。アメリカのNASA(航空宇宙局)の調査では、2007年9月の段階で約413万平方キロキロメートルとなり2年間あまりで117万平方キロ、日本の国土の3倍以上の氷が夏場に減ったといいます。フランスの国立中央科学調査機構(CRNS)の予測では、今後は毎年100万平方キロのペースで減る可能性もあるそうです。

「数年以内に夏の北極海から氷がなくなるかもしれません。この場合に、地球上の海流や気流の流れが激変する可能性があります。これだけではありません。グリーンランドや南極の氷の融解のスピードの速さとそれに伴う大きな海面水位の上昇の可能性、南米アマゾンの森林破壊の拡大など、IPCCの分析の想定以上の変化が世界のあちこちで起こっているのです」と山本教授は指摘しました。

 07年の夏にテレビニュースで流氷の上に乗ってえさを探すシロクマの姿が伝えられ、世界的な反響を呼びました。氷が溶けてしまい、シロクマの居住範囲が減ってしまったのです。こうした北極圏の生態系の変化ばかりではありません。「夏の北極海から氷が消滅する」という目に見える激変が起きたら、温暖化をめぐり世界が一段と動揺するでしょう。(つづく・全2回)

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プロフィール

石井孝明(いしい・たかあき)

経済・環境ジャーナリスト。1971年生まれ。時事通信社、経済誌フィナンシャル ジャパンの記者を経てフリーランス。著書に『京都議定書は実現できるのか〜CO2規制社会のゆくえ』など。ご意見・ご感想はこちらまで。