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石井孝明の「温暖化とケイザイをめぐって」

温暖化問題と切り離せない経済。「お金」と温暖化の関係を追う。

「CO2表示」に囲まれた社会〜驚かないために準備を

2008年1月24日

(これまでの 石井孝明の「温暖化とケイザイをめぐって」はこちら

■消費者に定着しつつある環境志向
 LOHAS(ロハス:Lifestyles Of Health And Sustainability)という言葉を、読者の皆さんは聞いたことがあるでしょう。地球環境を保護しながら、人間の健康を大切にする生き方のことです。

 これを使うことについて商標をめぐるトラブルがあったようで、一時期ほどメディアやビジネスには登場しなくなりました。しかし、こうした考えは社会に定着を始めているようです。下にロハス志向を持つ「生活創造者」の特徴とされる18個のチェックリストを示しました(注1)。特定の言葉でくくらなくても、該当する信条を持つ人は多いでしょう。

 こうした人々は、どのような消費行動をするのでしょうか。「社会環境の環境・社会の意識の高さから、商品やサービスをどのような影響を考え」「おそらく声高に何かを叫ぶのではなく、買い物をする際に箱のラベルをよく読む、といった生活の中のさりげない行動でその意識を実践するのではないか」という分析が出ていました(注2)。

 「ロハス」という考えを提供した社会学者のポール・レイ氏と、心理学者のシェリー・アンダーソン氏によれば、アメリカでは宗教などの価値観を重視する伝統派が3割、民主主義と科学技術を信奉する「近代派」が5割いる一方、第3の市民階層としてロハス志向を持つ「生活創造者」と呼ばれる人々が2割強、ヨーロッパでは35%いるそうです。
 
 日本でも消費者の3割強がLOHAS層であるというリポートが発表されています(注3)。日本では、50〜60歳代の年配層が多く、男女は半々で、やや年収が高め(半数以上が年収600万円以上)という結果で、その割合は調査ごとに増えています。

 社会集団を単純な基準で分類することは、実態を伝えない場合もあるために慎重でなければなりません。しかし、環境を重視して行動する消費者が増えていることは確かなようです。

■CO2表示が商品に広がる

 温暖化の危機的な進行の中で、こうした価値観を持つ人の増加は、どのような影響を与えるのでしょうか。

 英国の大手スーパーチェーンのテスコは、2007年初頭に、販売する商品7万点すべてにCO2(二酸化炭素)の排出量を、近い将来にラベル表示する計画を公表しています。生産から包装、輸送を経て、店頭に並ぶまでのCO2排出量を、栄養成分などと同様に表示するそうです。測定方法は英オックスフォード大学などと現時点で共同研究中です。

 環境志向の消費者が仮に日本の人口の約3割に当たる4000万人いたらどうでしょう。買い物で、CO2排出量の表示されている商品を好むはずです。現時点では、すべての商品には価格、安全表示、製造年月日、機能や産地情報が提供されています。その中にCO2が当然のように並ぶかもしれません。

 最近は日本で製造年月日の偽装問題が続きました。安全性への問題から「チャイナフリー」と呼ばれる、中国製製品や食品を世界の消費者が敬遠する問題も起きました。これは企業や中国政府の行動を変えました。「利益至上」の企業も、消費者には勝てないのです。

 テスコの試みが成功すれば、CO2の商品表示は世界に広がるでしょう。私たち一人一人が商品のCO2の情報に囲まれて生活する日も、近いかもしれません。個人的な見解を申し上げれば、私は積極的にCO2表示を広げるべきだと考えています。

■パソコンを使って環境破壊?

 しかし、それがどこまでが許容されるか「線引き」の問題が発生します。

 CO2の排出は、エネルギー消費の機会ごとに無限にあります。たとえば今、読者の方はインターネットを使っているでしょう。グーグルを使って何か1つ検索すると、11ワットの省エネランプが1時間に消費するのと同じ量の電力が必要です。ネット上のセカンドライフのアバターは、年平均で1752キロワット時の電力を消費するそうですが、これはインドなどで生身の人間が1年間で消費する電力よりも多いそうです(注4)

 パソコンを使い終わるごとに「あなたの今排出したCO2はウガンダ国民1人が1カ月に排出する量と同じでした」などという表示が出るような状況になったら、どのように思いますか。現時点の社会意識を考えれば、ネットユーザーに「しつこい」と反発が広がりそうです。

 もちろん、これは極端な例を空想したものですが、それを受け入れられない人の価値観とどのように調整するのか。正解はありません。

 やがて社会にあふれる「CO2情報」に驚かないために、自分の中でそれらにどう対応するのか。今から、私たちは一人一人の内面の価値観を整理し、「線引き」を準備する必要があるでしょう。

*****
(注1)「ロハス・ワールドリポート〜人と環境を大切にする生き方」(木村麻紀著 ソトコト新書)から引用。
「生活創造者度チェックリスト」
1, 自然を愛し、自然破壊を非常に懸念している。
2, 地球規模の問題を意識し、こうした問題に対しては、例えば経済成長の抑制といった動きが起きることを期待している。
3, 環境保護や地球温暖化防止のために使われるのであれば、今より多くの税金を払ったり高額な商品を買ったりする。
4, 人間関係を広げ、育てていくことはとても大切だ。
5, 他人を助け、他人のユニークな素質を引き出すことはとても大切だ。
6, 一つ以上のボランティア活動をしている。
7, 内面的な成長を非常に重視している。
8, 政治と宗教は結びつくべきではないが、生活の中での精神性や宗教的要素はこれからもっと大切になってくると思う。
9, 職場での男女平等はもっと推進されるべきで、職場や政治の場でより多くの女性リーダーが登場すべきだ。
10, 世界中の暴力や女性・子どもへの虐待を懸念している。
11, 政治や政府支出は、子どもの教育や健康、地域の再生、持続可能な地球環境の創造に重点を置くべきだ。
12, 旧来の保守派と進歩派を軸とした政治システムに満足せず、かつ勢力の弱い中間派ではない新しいあり方を見つけたい。
13, どちらかというと将来を楽観視していて、メディアから流されるシニカルで悲観的な見方は信用しない。
14, 新しくより良い生活をつくり出すことに関わっていたい。
15, 合理化や環境破壊、途上国の搾取など、大企業が利益を上げるためとして行っていることを懸念している。
16, 家計をきちんと管理しており、無駄遣いを心配していない。
17, 成功や出世、ぜいたく品を持ち、それらにお金を使うことに重きを置く現代文化は好ましくない。
18, 見知らぬ地域やそこに住む人々が好き。自分とは異なるライフスタイルを体験したり学んだりするのが好き。

(注2)同書より引用
(注3)イースクエア、「LOHAS定例調査 2007年版」
http://www.e-squareinc.com/services/csr_m_lohas01.html
(注4)「クーリエ・ジャポン」、2008年1月号記事。元の記事はドイツの「南ドイツ新聞」

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プロフィール

石井孝明(いしい・たかあき)

経済・環境ジャーナリスト。1971年生まれ。時事通信社、経済誌フィナンシャル ジャパンの記者を経てフリーランス。著書に『京都議定書は実現できるのか〜CO2規制社会のゆくえ』など。ご意見・ご感想はこちらまで。