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合原亮一の「電脳自然生活」

環境問題から生き方まで、地球ととことん付き合う方法論を模索する。

原発事故で考えておきたいこと(3)

2011年4月14日

原発事故で考えておきたいこと(3)

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○食品の汚染の問題

目の前の原子炉をどうするかももちろん重要な問題ですが、今後のより大きな問題は、食品の放射能汚染の問題です。25年前のチェルノブイリ事故の時も、チェルノブイリ周辺だけでなく、ヨーロッパのかなり広い地域で生産された食品から、暫定基準を超える線量の食品が見つかりました。原発自体の事故が現段階で収束に向かっても、今後広範囲の多様な食品から、放射線が検出されることでしょう。もし事故が拡大すれば、より深刻な食品汚染の問題が発生します。

チェルノブイリ事故の時は、輸入食品、それもある程度輸出地域を想定した対応で良かったのですが、それでも当初は検査体制がなく、汚染された食品が流通してしまいました。当時検疫で放射能対策が出来る体制は整備されたと思いますが、海外からの輸入品が通過する水際のポイントにしか測定体制が無いでしょう。既に食品汚染が見つかっていますので、検査体制の早急な拡充が必要です。

汚染範囲が少なければ、残念なことではありますが、それらの食品を廃棄し、補償することで問題が解決するかもしれません。それでも、本当に安全を確保するには、全数検査に近い体制が必要です。また核種によっては測定に長時間必要なものもあります。生鮮食料品の中には、検査が終わるまでに商品価値が無くなってしまうものもあると思います。チェルノブイリ事故の頃より測定器が進歩していれば良いのですが。

問題はこれ以上汚染が広がってしまった場合です。より多くの食品から、より強い放射能が測定されることになります。そしてそのリスクは十分あると考えています。

政策的な対応がなされなければ、お金持ちは輸入された安全な食品を手にし、汚染された食品は弱者に押し付けられる危険性があります。もし厳密な管理が行われ、危険な食品が全て廃棄されたとしても、その総量が多ければ、世界の食料需給に影響を与えます。そして国際的なスケールで、強者と弱者の問題が発生します。

つまり、日本が相対的な強者として、海外から安全な食料を調達出来たとしても、食料輸出国では食料不足や食料価格の暴騰などが起こり、弱者の餓死などの結果につながる可能性が高くなります。飢餓輸出であり、逆から見ると原発被害の輸出です。幸い世界的に食料に余剰ああれば問題は起きないかもしれません。しかしもし食料需給がタイトになった場合は、日本が起こした問題は日本で解決する必要があるでしょう。

それは、お金ではなく、子供や若い人など、リスクが高い人により安全な食品を分配し、年齢が高いほど、より危険な食品を引き受けるということです。それには政策的な対応が必要です。こうした事態にならないような努力が第一ですが、事態の長期化とともに、準備を始める必要が出て来たように感じています。

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プロフィール

川崎重工業人事部・川重米国本社CFOを経てガリレオに参加。ガリレオの業務の傍ら、環境問題、食糧問題に関心を持ち、「電脳自然生活」を目指して有機農業で米、野菜を作る。

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