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合原亮一の「電脳自然生活」

環境問題から生き方まで、地球ととことん付き合う方法論を模索する。

原発事故で考えておきたいこと(2)

2011年4月14日

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○線量(被曝)をどう考えるか

多くの人が一番関心を持っているのは被曝に関することだと思います。段々多くの線量測定結果が発表されるようになったことは良いことですが、それに関するコメントが気になります。「1年間食べ(曝され)続けても大丈夫」とか「ただちに健康被害が出る量ではない」などの表現が使われることが多いようです。

しかしもともと放射線障害は、正常時なら炉心冷却水でもそこまで放射線量が上がらないような、ミリとかマイクロでなく、シーベルト単位の被曝でなければ、すぐに死んだりする性質のものではありません。10年単位の期間の中で、癌の発生率が上がっていく、という形で被害が現れます。そもそも「ただちに健康被害が出る」ことはありえないので、何も言っていないのと同じなのです。もしすぐに健康被害が出たとしたら、原子炉の中の放射性廃棄物のほとんどが放出されてしまうような大事故で、大混乱に陥るでしょう。

より本質的な問題は、長期的に考えて本当に安全かという点です。放射線障害に閾値は無い、つまりちょっとでも被爆すれば、わずかとは言え発癌リスクが上がる、という考え方が支配的です。問題はリスクの上昇がどの程度か、ということになります。政府などの発表の困ったところは、測定された放射線一つ一つの評価しかしていないという点です。

放射能雲が通過して雨が降ると、まず空間線量が上がって体外から被爆します。放射性のガスや塵を呼吸で吸い込み、内部被爆します。雨で地表に落ちて来た放射能の一部は地表にとどまります。そこから出る放射線で外部被爆しますし、風や塵で舞い上がった放射性の塵を肺からや経口摂取して内部被爆します。雨で洗い流された放射性物質は水系に流れ込み、水道水に入り込んだり、海に流れ出したりします。水道水から放射能を経口摂取して内部被爆します。地表や海の放射性物質は生体濃縮されて食物となって食卓に並び、内部被爆します。

つまり、一つ一つではなく、全ての被曝を同じ自分が受けてしまうわけです。特に問題なのは内部被曝です。毎秒放射線を浴び続ける上に被曝が蓄積して行き、段々強く被爆することになります。生物的半減期が物理的半減期より短く、比較的害が少ない核種もありますが、選択的に取り込まれやすい核種もあります。

特に危険なのは子供です。細胞分裂中に放射線が当たると遺伝子が傷つきやすく、癌になりやすいのですが、子供ほど細胞分裂が盛んなので、同じ線量でもより大きな影響を受けます。また大気中の放射性物質は風で拡散しやすいのですが、地表に落ちた放射性物質はより動きにくく、現在のように放射能の放出が続いていると、地表の放射能が蓄積されて行きます。

放射線の影響は距離の二乗に反比例します。つまり、地表から離れている方が安全です。また筋肉よりも内蔵の方が被曝の影響が大きくなります。子供は背が低く、内蔵が地表に近いのです。同じ場所に居ても、内蔵が大人よりより多くの放射線を浴びることになります。さらに同じ線量でもより感受性が高いので、非常に影響が大きくなります。

逆に高齢者の場合は、細胞分裂が少ない上に、10年単位の影響なので、影響はかなり少ないと考えて良いでしょう。放射線の影響は、一定の確率で癌が発生する、というものです。当たった人は大変ですが、当たらなかった人は、同じ線量を浴びても何も起こりません。これは交通事故に似ています。道を歩いたり車に乗ったりしていると、一定の確率で交通事故に遭うわけですが、だからといって家に閉じこもっている人はあまりいません。

つまり、自動車によるメリットを考えて、小さなリスクは受容しているわけです。放射線による影響も同じように考えるべきでしょう。しかしそのためには、どの程度リスクが上がるのか、正確な情報の公開が必要です。単純に一つ一つの評価ではなく、トータルでどの程度の被曝リスクがあるのか。その影響が年齢層によってどう違うかを、正確に公表すべきです。

事故当初に比べれば、線量に関する情報は大分増えましたが、まだまだ不十分です。そしてその線量の読み方もちゃんと報道されていません。これはマスコミの努力不足だと思います。政府や東電の発表を右から左に流すのではなく、視聴者や読者のニーズを満たす詳細な情報を提供するべきだと思います。

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プロフィール

川崎重工業人事部・川重米国本社CFOを経てガリレオに参加。ガリレオの業務の傍ら、環境問題、食糧問題に関心を持ち、「電脳自然生活」を目指して有機農業で米、野菜を作る。

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