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合原亮一の「電脳自然生活」

環境問題から生き方まで、地球ととことん付き合う方法論を模索する。

別紙 提案の背景と補足

2011年5月31日

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別紙 提案の背景と補足

 1.汚染水の排除は困難であり危険でもある
 2.除熱は自然冷却で可能である
 3.現在考えられている対策の問題点
 4.本提案の問題点
 5.本提案実施上の留意点

1.汚染水の排除は困難であり危険でもある

 福島第一原発では、放水、圧力容器への注水、電源の回復などによって、一見事態が改善されつつあるように見える。だが実際には炉心が安定したとは言い難い状況が続いており、放射能の放出も続いている。緊急の課題は放射能を閉じ込めることだが、それを阻んでいるのが、建屋内に大量に溜まった汚染水の存在だ。

 放射能を閉じ込めるためにもっとも優先されるべきは、炉心の冷却だ。しかし露出している燃料棒を水没させようと、注水量を増やしても水位が上がらず困っているのが現状だ。外から注水した水は、片方では放射能を含んだ蒸気として放出され続け、もう一方では、汚染水として漏れ出し続けているからだ。

 注水すればするほど建屋内の汚染水が増えてしまう。これがあふれれば、また大量の放射能が放出されてしまう。放射能を閉じ込めるためには外からの注水をやめ、今内部にある水だけで除熱しなければならない。つまり閉じた冷却ループを構築する以外に、放射能を閉じ込める方法は無い。

 そこで、汚染水対策と平行して、または汚染水の漏出を放置したままで、炉心を安定的に冷却する方法を検討した。外部に大容量の汚染水タンクを準備することができれば、汚染水がどんどん出て来ても大丈夫ということになる。さらに、出て来た汚染水を冷却に使えば、これ以上汚染水が増えることも無い。

2.除熱は自然冷却で可能である

 4月11日現在で、除熱に必要な冷却水の蒸発量は合計すると毎時23.3立米とされている。1日約560立米の冷却水を蒸発させれば、全ての除熱ができることになるが、毎日560トンの汚染された水蒸気が放出され続けることになる。

 この熱量は100x420メートルのプールに50センチしか水を張らなかった場合でも、1日に約14度温度が上昇する程度の熱量である。50センチの水深は家庭の風呂程度であり、24時間で風呂の温度が14度下がるのと同程度の放熱は、特別な設備無しで、自然冷却だけで充分可能であろう。

3.現在考えられている対策の問題点

 東電は、既設の冷却用機器類を動くようにしたり、格納容器からの漏れを止めるために、この数万トンの汚染水を何とかして排出しようとしているようだ。しかし汚染水対策だけで既に1カ月近くが経とうとしているが、汚染水対策に目処が立ったようには見えない。その間も放射能の放出が続いている。既に数万トンの汚染水があり、常に注水が続いている現状では、汚染水対策に終わりが見えないことは明らかだ。

 まず、残留熱除去系や主循環系など、既設の冷却系は全て主要機器が汚染水に水没している。汚染水を汲み出しても、また格納容器から漏れ出してくるであろうし、機器類が正常に動くかも分からない。これらの回復はほとんど不可能に思えるし、時間を無駄に失ってしまう危険性が大きい。全く新しい冷却系を作る方が現実的だ。

 格納容器を水で満たし、圧力容器ごと燃料棒を水没させ、冷却する案もある。しかし格納容器に大量の水があると大きな圧力がかかる。格納容器からの漏水箇所が増えたり、漏水量が増える危険があり、大量の汚染水が排出される危険がある。1号機では既にこの可能性が現実のものになり、貴重な時間を失う結果になっている。

 空冷の冷却塔を設置する案も報道されている。しかし空冷の冷却塔は巨大なものだ。排出すべき熱量が定常運転時の1%以下と言ってもかなりの大きさになる。建屋近くにその広さがあるとも思えないし、建設に時間もかかるだろう。また例え冷却出来たとしても、格納容器から漏れ出す汚染水の解決にはならない。

 いずれの対策を採用する場合でも、建屋や格納容器が地震や爆発でダメージを受けている可能性があるため、万一冷却水の全量が放出された場合の対策が必要である。現在最も容易に実現できる方法は、港を冷却水プールとして機能させることと思われる。現在汚染水は日々増え続けており、これを放置してはどの対策も不可能になる。いずれの方法をとる場合でも、港の一部、可能ならバックアップとして全域を汚染水プールとし、汚染水を冷却水として再利用する本案と組み合わせる必要があろう。

4.本提案の問題点

 残念ながら本提案にもいくつかのリスクがある。

(1) 津波により汚染水プールが破壊される可能性
(2) 地震による汚染水プールのスロッシング
(3) 原発地下からの汚染水漏出の可能性

 現在既に防潮堤の一部が津波で破壊されている。汚染水プールが再度津波で破壊される危険性は否定出来ない。しかし一方で、どのような方法を採用した場合でも、収束には年単位の時間がかかることが予想されており、地震や津波に対しては同じリスクがある。いずれにせよ今回程度の津波に耐えられる防潮堤などを構築する必要があり、他の方法より必ずしもリスクが高いわけではない。

 スロッシングについては、冷却フィンの設計次第で防止が可能になる。地下水対策は既に東電の工程表にも入っており、本提案に固有の問題ではない。どのような対策を取るにしても、地下からの流出は防止する必要がある。本提案では、建屋内の汚染水水量のコントロールが可能であり、格納容器からの漏出、汚染水の流出、地下水の流入を最適化する汚染水水位を維持できる可能性がある。

5.本提案実施上の留意点

 もともとサイト内の汚染を洗い流して汚染水プールに集めることを考えているので、大雨が汚染水プール内に流入する可能性はある。これを防ぐには、1-4号路周辺に降った雨の排水先を、汚染水プールと海のどちらにでも切り替えられるようにしておく必要がある。

 サイトから排出された水や、雨水など、流出した水を一次的に貯留するピットを準備し、汚染状態に応じて、汚染水プール、低汚染水プール/タンク、海に適切に排水することが望ましい。

 それ以外にも、バリアへの車両等の出入りの際に放出量を最小化するために気密を維持するための仕組みや、負圧にするための仕組み、汚染水プール内の圧力の制御や気体放出時のフィルターなども必要になる。これらは既存技術や設備で対応可能な問題であり、設計時に十分対応可能と考えている。

以 上

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プロフィール

川崎重工業人事部・川重米国本社CFOを経てガリレオに参加。ガリレオの業務の傍ら、環境問題、食糧問題に関心を持ち、「電脳自然生活」を目指して有機農業で米、野菜を作る。

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