2.具体的な提案
2011年5月31日
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2.具体的な提案
1)港の一部を巨大な圧力抑制プール兼汚染水タンクとして活用する
下の図を見てもらえば分かるように、福島第一原子力発電所の冷却海水の取水口は港の中にあり、開渠の取水路がある。
1-4号機の取水路開渠だけで100x420メートル程度の大きさがある、水深は5-6メートル。取水口周辺は水面から4メートル程度高くなっているので、取水路開渠の100メートル程度の入口を塞げば、最大40万トン程度のプールを作ることができる。
港内に汚染水プールの候補は他にもある。5、6号機の取水路開渠の入口を塞いでプールとすることも可能だ。また、1-4号機取水路開渠の東側(図の上方)を三角形に仕切ってプールとすることもできる。港の防波堤を締め切ってしまい、港全部をプールとすれば、底辺750メートル、高さ600メートル程度の三角形に近い形の、巨大なプールができあがる。港内に複数のプールを形成することで、汚染濃度別の管理も可能である。
1-4号機からの汚染水の移動を考えると、1-4号機取水路開渠を汚染水プールとすることが望ましい。ただし、防波堤も津波で被害が出ているので、どこに汚染水プールを構築するべきかは現場の状況による。また万一の汚染水漏出に備えて、港全体も閉鎖しておく方が望ましい。今後の対策の際の資材の搬入に港が必要な場合は、外海への出口を最小とし、短時間で閉鎖できる体制とする。
2)汚染水を炉心に循環させ、冷却することで汚染水の増加を防ぐ
炉心及び使用済み燃料プールの冷却には汚染水プールの水を使う。炉心を水没させることが望ましいが、現在の注水では実現出来ておらず、格納容器を水で満たす対策は、格納容器から漏出する汚染水を増加させる危険がある。まず現状の冷却方法を維持しながら、汚染水の増加を食い止めることを優先すべきである。
そのためには汚染水および放出されている水蒸気を冷却水として循環させる必要がある。湧出する汚染水と水蒸気を港の中のプールに収容し、その汚染水を冷却して炉心に戻すループを形成することで、閉じた冷却系が形成できる。
東北大学流体科学研究所、圓山・小宮研究室のレポート「原子炉内が崩壊熱のみによって加熱されている場合に必要な水の投入量の推定」(Heat-Transfer Control Lab. Report No. 1, Ver. 4 (HTC Rep. 1.4 2011/04/13))によれば、事故発生1カ月後の4月11日段階で、1号機が毎時3.6立米(トン)、2、3号機が毎時6.4立米の冷却水の蒸発潜熱で除熱出来る。使用済み燃料プールについては、毎時1号機が0.4立米、2号機が1立米、3号機が0.9立米、4号機が4.6立米である。
この程度の除熱なら、プールの表面積を充分大きくすれば、表面からの放熱だけで可能である。プール表面には放射能の放出を防ぐために何らかの蓋が必要である。蓋は冷却効率を上げるために、アルミなどの熱伝導率の高い素材で作り、水面に浮かぶ構造とするか、水中に冷却フィンを立て、その上を剛構造のアルミ製の屋根で覆う。冷却フィンは屋根の上まで延ばし、広い表面積を熱交換に利用することで、熱交換器や復水器といった複雑な機器を準備する必要も無く、短時間で冷却能力を構築できる。
熱容量的に必要であれば、大型の送風機を並べて冷却すれば放熱量を増やすこともできるので、崩壊熱以上の除熱が必要になった場合でも対応が可能である。
3)水で建屋内外を洗浄し、除染する
建屋内外を水で洗浄し、その排水を汚染水プールに導く。サイト全体を止水壁で囲み、洗浄に使った水が外部を汚染することを防ぐ。サイト全体の勾配は不明だが、海に流れない部分は、排水ポンプや排水溝などで汚染水プールに導く。既存の排水溝なども汚染水プールにつなぐ。
建屋外部は今後も非常用の冷却や電源確保のため、車両の通行を可能にする必要があり、また安定冷却が実現された後の使用済み燃料プールなどの対策で使用する必要があるので、止水壁の位置はこれらの作業の支障にならないよう考慮して決める必要がある。高さや位置によっては、車両の通行を可能にするためのゲートや斜路などが必要になる。
また建屋がバリアとして機能していないので、その外側にバリアとなる構造を構築する必要があるが、止水壁はそのバリアの一部を構成する構造とすることが望ましい。
4)汚染水を浄化する
汚染水プールの汚染水を脱塩/浄化処理できる施設を近くに設置し、汚染水を浄化する。浄化した水は冷却や洗浄に使用する。炉心の冷却には、脱塩は望ましいが放射能の浄化は必ずしも必要ない。ただし最終的に汚染水の総量を抑制することが望ましいので、浄化された水は低汚染水専用プールに保管するなどが望ましい。
5)建屋を囲むバリアを構築する
使用済み燃料プールから放出される水蒸気は、建屋全体をバリアで包む以外に放出を抑えることは難しい。破壊された建屋を鉄骨構造で囲み、外側に特殊シートを張って放射能の放出を防ぐ。鉄骨構造は、姫路城の工事に使用された工法が参考になる。土の下には構造を作らず、18億円で構造物が完成している。
使用済み燃料プール冷却の結果放出される水蒸気は、汚染水プールに送って凝縮させる必要があるが、特殊シート内で凝縮して負圧が維持出来れば、凝縮した汚染水を汚染水プールに送ることでも良い。
鉄骨構造を設計する時に留意しなければならないのは、この構造を使って今後の原子炉処理を行うことができるようにしておくことである。建屋内部のクレーン等のほとんどは使用不能になっている可能性が高いので、水素爆発によって破壊された建屋上部の瓦礫を移動させるためだけでなく、格納容器や圧力容器の蓋を開けたり、炉心や使用済み燃料プール内の燃料を搬出するための作業機を吊り下げるための十分な能力を持ったクレーンを天井に設置する必要がある。従って、十分な天井高の確保も必要である。
撤去された瓦礫はバリア内で車両に積み込み、外部に持ち出す必要があるので、バリア内部にそのための作業場所や通路が確保されている必要がある。また鉄骨構造に放水ノズル/スプレーを多数設置し、温度上昇時には大量の淡水で冷却できるようにしておく。建屋外壁や屋上などを洗浄できる仕組みにしておくことで、早期にバリア内の線量を下げることができ、作業員を保護することができる。洗浄に汚染水を処理した水を使えば、総汚染水量が増えることも無い。万一炉心からの放出があった場合も、スプレーで飛散を低減できる。
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合原亮一の「電脳自然生活」
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