線量データをどう読むかの例
2011年4月 1日
知人からの質問への答です。参考になるかもしれないので、少しアレンジして公開します。
最初にお断りしておかなければならないのですが、僕は原子力関係の専門家ではありません。ただ避難、事故対策では「専門家」ということになるのだと思います。残念ながらこの国に、素人の僕以上に詳しい人が沢山はいないようなので。
さて郡山のデータですが、周辺地域の線量推移からみて、この地点だけ急激に線量が上がったとは考えにくく、想定されている通り、観測地点の移動による変動の可能性が高いと思います。「思います」というのは、別の可能性も無いわけではないからです。
ご質問への直接の回答ですが、どのような測定器にしろ、測定機内にあるセンサー、通常はGM管を通過する放射線を計測しているだけです。通常は数ではなく回数を計っているので、同時に2つ通過しても1回です。時間を切って計っているので、それより短い時間間隔で多数通過しても1回です。また放射線に叩かれ続けるとGM管内のガスが分解され、感度が落ちて行きます。もちろん測定器によっては、線量が上がれば自動で測定間隔を狭め、内蔵データで実カウントを補正するものもあります。
ご理解いただきたいのは、センサー(GM管)はセンサー内の状態を示しているに過ぎず、実際の空間線量を確認する役に立つ値とは限らないということです。
今回のご質問への答えは、汚染量は福島同等と考えられますが、過去低かった理由は死角ではなく地面からの距離と思われます。測定される放射線量は線源からの距離の二乗に比例しますので、例えば地表から1メートルと10メートルでは、地表の線源からの線量は1/100になります(これは点線源の場合で面線源からの距離は一定ではないので正確には1/100ではありませんが必要ならご自分で計算して下さい)。
福島に多数のモニタリングポストが設置されているのは、万一の事故の際、「たいしたことはない」と安心するためです。つまり、長期にわたる大量の汚染は想定していません。訓練もしていないでしょう。事故当初に大量に放出される線源は、クリプトン、キセノンなどの稀ガス類と、ヨウ素の同位体で、みな気体です。これらを捕まえるには空間線量を見れば良いので、いろんな高さにセンサーを設置しておく方が良く、当初の設置自体は、目的に対して間違っていなかったと思います。
稀ガス類は他の物質と結合して体内にとどまる可能性が低い上に拡散しやすいので、比較的安全な核種と言えます。問題はヨウ素で、水溶性のため、雨とともに地表に落ちて来ます。水道水から検出されるのは、地表に落ちたものが雨水に溶けて水系に流れ込み、浄水場まで来てしまうからです。
問題はあまり想定していない、より大規模な事故です。続いてセシウムやストロンチウムなどが放出され、さらに重い超ウラン元素であるプルトニウムなども放出されるようになります。こうした重い元素は比較的近くに降下する割合が多く、気象条件等によって多くが100キロ圏から300キロ圏程度に降下すると考えられています。地表に降下し、かつ水溶性でないので雨などでもあまり洗い流されず、地表面に長期にわたってとどまりやすいのです。(なお、先進国の中では日本は例外的に多雨地帯に属するので、僕は過去の海外の研究とは違った動態を示すと考えています。)
つまり、事故が長期化、拡大しないと、地表の線量は上がらず、これを測定する必要も無いのです。郡山でポストを移動したのは、地表線量が高いという事実が分かり、正確な線量を量ろうとしたものと思われます。他の地域も、どんな高さ、環境で計っているかで、数値の評価が変わりますので、再評価されることをお勧めします。
「思います」とか「考えられます」など歯切れが悪いのは、たまたまセンサーの近くにホットスポットと呼ばれる、線量の高い大きめの塊が着地した可能性も否定出来ないからです。
もし高いところのセンサーが故障し、代替機をとりあえず駐車場に設置したのなら、センサーを移動して明らかに線量が上がっているので、通常なら調査して、原因を追及するはずです。センサー周囲をポータブル線量計で計測し、設置位置周辺だけ有意に線量が高ければ、除染するかセンサーを移動するべきです。こうした情報を公開するべきですが、その知識が無い可能性もあるかもしれません。
実は事故直後から仙台北部の女川原発のモニタリングポストのうち1つ(MP2)だけが高い線量を示していました。北電は女川のものではなく、福島から飛来したものだと発表しましたが、女川も危険な状態の可能性もあると思ってモニターしていました。結局徐々に下がって今は落ち着き、他のMPの数値が上がることも無かったので、北電の発表通りだったのかと思い始めています。1つだけ高かった原因はホットスポット以外に考えられません。
a href="http://www.tohoku-epco.co.jp/electr/genshi/onagawa/mp.html" target="_blank">女川原子力発電所モニタリングポスト
線量上昇がホットスポットなのか、放出なのか、風なのか、の判断もしなければなりません。下の図は川崎市浮島局の過去1カ月の線量です。
神奈川も、150nGy以上の線量は有り得ないと思っていたようで、ピークが確認できないのが残念です。 15日、16日は、爆発とベントの開放があった日です。原発から直接飛んで来た線源です。21日以降の山は、風向きによるものです。注目していただきたいのは、被曝量はピークの高さではなく、面積に比例すると言うことです。爆発の時は、空中を線源が流れて行ったが、降下したものは少なく、降下したものの中心もヨウ素で、8日の半減期のものが中心ということがわかります。21日以降は、爆発以上に大量に飛来しています。関東の21日以降の危険性は僕もアラートを出しました。
風が南側を回って来たので、静岡まで巻き込みましたが、北関東の人口密集地域を直撃しなかったのはまだ良かったと考えるしかありませんが、かなりの部分が地表に落ちてしまったのでしょう。継続的に線量が高くなっています。雨が降らずにこの量というのは、正直ショックでした。やはり急速に減衰しているので、中心はヨウ素と思いますが、セシウムも検出されているのはご存知の通りです。
ここで強調したいのは、21日以降の線量は、風向きだけによるものだという点です。この期間、少なくとも発表では事故炉から特に大量の放出は行われていません。幸い事故以来、西から東の風が続き、東側で線量が上がったのは、突発的に大きな放出があった時だけでした。しかし2日程風向きが変わっただけで、300キロ近い川崎でこの線量になってしまう量の放射能が今も放出され続けているのです。
申し訳ありませんが、僕はさらに事故の規模が大きくなるリスクは小さくないと思っています。幸い大きなリスクでは無くなったとも思っていますが。
郡山がどうなるかは、直前まで様子を見守るしか無いでしょう。最悪の場合、最低限の手続だけわれわれロートルが行い(放射能への感受性は若いほど強いので)、線量が落ち着くまでは移住を見合わせる、ということも考えた方が良いかもしれません。
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合原亮一の「電脳自然生活」
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