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合原亮一の「電脳自然生活」

環境問題から生き方まで、地球ととことん付き合う方法論を模索する。

福島原発事故で今気になっていること

2011年3月21日

原発事故に役立ちそうな情報のまとめ

東北地方太平洋地震/福島原発事故の被災者の方に深くお見舞い申し上げます。個人的な不幸があり、しばらく更新出来ませんでした。

その間福島原発では色々な変化がありました。良いこともいくつかありました。マスコミがやっと原発の問題を真剣に取り上げ始めたこと。放水体制が整ったこと。電源回復が進んだこと。第一の1-4号機以外が落ち着き始めたこと。色々な意見が表明されるようになったこと、など。

一方不安な要素もあります。水や食品から放射能が検出されたこと。使用済み核燃料が不安定になったこと。1-4号機の状態が予断を許さないことなどです。幸いいろんな方が情報や意見を表明しているので、ここでは僕個人が今気になっていることをまとめておきます。時間的にこれまでのデータをチェックし切れていませんので、事実に反する部分が含まれている可能性がある点はご容赦ください。

○風向きの問題

風向きが悪い方に変わりそうです。ドイツ気象庁のシミュレーションによると、3月22日(火)午後から3月23日(水)午前中にかけて、これまでの西風が北東から南東の風に変わりそうです。これはこれまで太平洋に向かっていた放出放射能が、日本列島を直撃することを意味します。

事故炉からの放射能放出がかなりの量であろうことは、ヘリが上空に近づけなかったり、米海軍が避難したことから分かります。しかし公表される線量や、各地の線量がそれほどではなかったのは、風が海の方向に吹き続けていたことが主な理由と考えています。

事故現場での実際の放出量は公表されていませんし、作業や原子炉の状態によって放出量が変化することも考えられますので、各地の線量を事前に予測することは困難です。風は平均的には時速20-60キロで吹いています。安全を見て時速40キロと想定すれば、風向きが自分の方に向いてから何時間で、事故炉が放出した放射性物質が自分の地域に到着するか予測出来ます。

実際に線量が上がってから何時間で発表されるかは大体分かっていると思います。発表されてからでは間に合わないぐらい近い人は、風が自分の方に吹いてくることが予想されれば、事前に予備的に避難することも検討する必要があるでしょう。それより遠い人は、風向きや放出量の警告が出てからでも間に合うわけです。なお、風は渦巻きのような動きをすることもありますので、良く検討して下さい。渦巻きになれば、風の移動距離が長くなるので時間もある場合が多いでしょう。

○原子炉に注入した水はどうなったのか

冷却のために大量の水や海水を格納容器/圧力容器内に入れています。時間とともに炉内の水位が上がったり下がったりしています。水位が下がったとき、その水はどこへ行ってしまったのでしょう。蒸発してしまったのでしょうか。

炉心では燃料棒が融けて燃料ペレットがむき出しになり、それが下の方に転げ落ちたりしているはずです。つまり、燃焼済みの燃料、いわゆる死の灰もむき出しになっているわけです。もし減った水が蒸発しているのなら、その死の灰が上昇する蒸気とともに環境に放出されているはずです。

もし下に流れ落ちているのなら、どこかに溜まっているのでしょうか。格納容器に入りきれる量なのでしょうか。どこかから漏れているのでしょうか。海に流れ込んでいるのでしょうか。

○海水の中の塩はどうなってしまったのか

海水には4%弱の塩分が含まれています。1トンの海水には30キロ以上の塩が含まれています。報道によると毎分何トンという海水を放水しています。毎分100キロ以上の塩が注がれているわけです。水が蒸発しても塩は残ります。使用済み核燃料プールでの水位低下が、熱による蒸発のためだとすると、毎分100キロ単位の塩が溜まっていることになります。

圧力容器の中にもかなりの量の海水が注入されました。内部は高温です。海水は沸騰します。やはり塩が残ります。どんどん蒸発しするのでどんどん海水を注入すると、どんどん塩が溜まります。炉心が塩漬けになっている可能性があります。それとも炉心に注入された海水は、どんどん漏れて格納容器に溜まっているのでしょうか。

○結局原子炉の中はどうなっているのか

全くと言っていいほど情報が提供されません。上で挙げたような疑問に答えてくれる情報さえほとんど発表されません。しかたがないので色々検討してみるわけですが、可能性の幅が広過ぎてよくわかりません。あくまで想像に過ぎませんが、状態を考えてみました。

最初の問題は塩です。海水の注入は、炉心の温度を下げ、炉心溶融を食い止めるためにやむを得ない処置ではあったのですが、蒸発による塩分濃度の上昇、固体の塩の析出などが起こっている可能性があります。圧力容器の下から固体の塩が溜まって行くでしょう。燃料棒まで塩に包まれると対流が起こらなくなり、冷却効率が下がる危険があります。圧力容器の下の方の配管が塩で塞がれてしまうかもしれません。また配管内で固体の塩が析出すると、配管が詰まったり、バルブが動かなくなったりする危険があります。

次は燃料の状態です。最近はTVなどでも構造が報道されているので細かいことは省きますが、放射能封じ込めの最初のバリアである被覆管はかなり破れていると思った方が良いでしょう。燃料ペレットがむき出し、または転げ落ちているものもあると思います。炉心燃料集合体全体の溶融までは起こっていないと思いたいところですが、保証の限りではありません。

燃料棒のジルコニウム被覆が酸化され尽くしてしまうと、水素爆発の危険は低下しますが、燃料棒の健全性が大幅に悪化します。時間とともに崩壊熱の放出も減るはずですが、転げ落ちた燃料ペレットが集まって再臨界の危険が出てくるかもしれません。逆に底部に析出した塩のおかげで一箇所に集まらず、再臨界が防がれるかもしれません。

海水注入によるもう1つのリスクは、高温の燃料と反応して塩分が分解し塩素が発生することです。塩素は非常に腐食性が強く、燃料保持部や燃料集合体の構造部分を腐らせてしまうかもしれません。その結果、燃料集合体が崩れ落ち、燃料が制御棒から離れてしまい、再臨界に達する危険があるかもしれません。逆に析出した固体の塩に支えられ、燃料集合体が崩壊せず、温度だけが上がるかもしれません。

圧力容器内の燃料がどうなっているかは不明です。元からあった燃料棒の他に、ホウ酸、塩があり、水素や塩素もあるかもしれません。はっきり分かりませんが、破壊を防ぐために圧力容器と格納容器は直結されていて切り離されておらず、同じ圧力になっている可能性が高いと思います。これは、圧力容器も放射能封じ込めのバリアとして機能していないということです。

原子炉建屋も2号機以外は破壊されています。つまり現在残っているバリアは格納容器だけではないか、というのが僕の推測です。2号機以外は建屋が壊れているので、格納容器に直接水をかけて冷やすことができます。2号機は建屋が残っていて直接冷やせない上に、圧力制御プールに穴が開いているようです。あまり情報が出て来ませんが、現在一番危険なのは2号機のような気がします。だから2号機の電源を最優先で復旧しているのでしょう。

○時間が経てば経つほどリスクが上がる

地震発生から、つまり福島原発に問題が発生してから10日になります。良く持たせているとも言えますが、ずっと危険な状態にあるとも言えます。少なくとも使用済み核燃料にはバリアが無く、放射能が放出され続けています。炉心からも放出が続いていると思います。

原子炉の中では、水位が下がって核燃料が高温にさらされたり、被覆が破れたり、核燃料ペレットがこぼれ落ちたりが続いています。塩素による腐食が進み、燃料棒の支持機構が崩壊に向かっているかもしれません。塩が溜まって冷却が阻害されているかもしれません。塩素で配管やバルブ類などの機器類が腐食されているかもしれません。

つまり、外から見て現状維持では、内部では悪化し続けていると考えるべきだというのが、僕の意見です。

○暫定的な個人的見解

事故炉内部の状態は悪化し続けています。大量の放射能が放出される危険も減っていないと思います。被害程度を決めるのは、放出時の風向きが大きいでしょう。そして3月22日(火)午後から3月23日(水)午前中にかけて、関東から東北の広範な地域にとって風向きが悪くなりそうです。日付時間は標準時なので、日本で何時のときかは画像に表示されている時間に9時間足して下さい(ソースは上記と同じと思いますが、保証出来ません)。風がこう吹く、というだけで、どの程度の放出があるかによって運ばれてくる放射性物質は変わります。この地域の方は、情報を集め、ご自身の判断で対応を考えていただければと思います。


原発事故サバイバルハンドブックチェルノブイリ事故を受けて僕が20年ぐらい前に作ったパンフレットです。再短時間で被曝を最小化するための判断をするためのものです。[PDFダウンロードはこちら]

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プロフィール

川崎重工業人事部・川重米国本社CFOを経てガリレオに参加。ガリレオの業務の傍ら、環境問題、食糧問題に関心を持ち、「電脳自然生活」を目指して有機農業で米、野菜を作る。

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