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合原亮一の「電脳自然生活」

環境問題から生き方まで、地球ととことん付き合う方法論を模索する。

移動中のiPad利用は便利だったが、それが高額請求の原因か

2010年9月11日

話の出発点へ

翌9日はさらに長距離を移動した。ヨーロッパの主要都市を結ぶヨーロッパ版新幹線、タリス(Thalys:写真)で、宿泊したロッテルダムからベルギーの首都ブリュッセルに移動し、その日のうちにアムステルダムまで戻ったからだ。新幹線で4時間以上の移動になった。

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タリスのような高速鉄道で長距離を移動し、国境も越えている。当然複数のモバイルキャリアを利用することになる。国境に限ったことではないが、田園地帯など人口密度の低い地域は必ずしも接続環境が良くない。遠くの多様なキャリアの微弱な電波を次々捕まえるといったことが起こりそうだ。

実際タリスの中で、iPadのマップで自分たちが高速で地図上を移動する様子を見ている時に気付いたのだが、時々通信が途切れる。iPadの左上のキャリアの名前が、表示されたり消えたりする。しかも色々な名前が次々に表示されていた。パケット定額だと思っているから、iPadが次々にキャリアを切り替えるのを見て、「お、頑張ってるな」と感心していた。

しかし実際はこれがそこら中のキャリアからの請求書攻勢につながったということではないかと思う。中にはほんの数パケットやりとりしただけのキャリアもあるかもしれない。数十円請求したのではコスト割れになってしまうから、当然基本料金やミニマム料金があるだろう。その数が多いと、それだけで相当の額になりそうだ。

実は7日にもそれなりの距離を移動しているのだが、このときはまだ旅行中のiPadの使い方に慣れていなかったこともあり、時々オンにして現在位置を確認する程度の使い方だった。それにアムステルダム周辺だったので、たまたまパケット定額対象キャリアのカバー範囲が広かったのだろう。

請求が高額になった理由が分かったところで金額が下がるわけではないのだが、背景が理解出来ると何となく少し落ち着いた。ただソフトバンクからは、「免除の可能性の検討に2-3日かかると言ったが、次の週まで待ってくれ」という連絡が入った。

また、いずれにせよ請求金額が出ているので請求書は発行する、とのことだった。免除の申請中なので、金額確定まで待って欲しいと言ったが、それはできないと言われたとのことだ。幸い期限は少し延ばしてもらえたらしい。しかし免除されるかどうかの返事は、1週間待っても来なかった。

請求書は来てしまうわけだが、こちらの主張も検討中ということらしい。返事をもらうまでは悩んでも仕方が無いので、iPadを正規の使い方、つまり定額対象事業者と呼ばれている、パケット定額を提供しているキャリアだけを使った場合に、海外でiPadの利便性が失われてしまわないかどうか考えてみた。

今回僕がiPadに期待していたのは、旅行中どこでもネットに接続出来ることだった。その場その場で必要な情報を入手出来るので、事前準備の不足を補えるからだ。海外にいながら、常に日本語の情報が入手できるのも大きなメリットだ。

例えば、当初ベルギー行きは予定していなかった。ヨーロッパのホテルは朝食付きが多い。朝食をとりながら予定を相談していたわけだが、iPadなら食卓に持っていってもそれほど違和感が無い。オランダ鉄道が提供している検索システムの英語版「Journey planner」(下図)で調べたところ、タリスならブリュッセルまで1時間半で行けることがわかった。駅や都市の名前を入れるだけで、ダイヤを調べてくれる。iPadでは駅名の補完入力がうまく働かず、それほど入力を省略できないのが玉に瑕だ。

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ただ、速い列車は日に数本しか無い。次の列車の発車は30分後だった。駅前のホテルに泊まっていたので、急いで食事を済ませ、チェックアウトして駅に向かったおかげで、時間的なロス無しでブリュッセルに向かうことができた。このように、いつでも正確な情報にアクセス出来るという面では、充分期待に応えてくれた。

現地で便利さを見直したのが、マップだった。目的地までのコースや所用時間も教えてくれるので、コースの検討がかなり楽になる。それに加えて、異国で自分がいる位置が正確にわかることの効用が、予想以上に大きかった。海外では、初めて訪れた街でバスや路面電車を利用するのは難しいものだが、iPadを持っていればかなり安心だ。カーナビの歩行者版と考えれば当然のことかもしれないが、体験してその価値を実感した。

例えばアムステルダムでのこと。駅行きの路面電車に乗ったつもりが、途中で別の方に曲がってしまったことがあった。iPadでコースを見ていたので気付き、次の停留所で降りたら、反対から駅行きの路面電車が来たので、直ぐにそれに乗り換えることができた。切符は時間制なので、乗り換えは無料でお金もかからなかった。

ロッテルダムでも、気がついたら路面電車がどこを走っているのか分からなくなってしまっていた。iPadで現在位置を確認したところ、乗り過ごして駅でもらった地図の範囲を出てしまっていることが判明した。次の停留所で降りて、反対行きの電車に乗って戻ることができた。

鉄道で遠くに行く場合も、知らない地名はうまく発音できず、正しい目的地までの切符を買うこと自体が難しかったりする。マップの地図は日本語ベースだが、地名は現地の言葉でも書かれている。オランダの場合は自動販売機で切符を買うことが多く、「Journey planner」同様駅名を入力しなければならない。その場でマップで地名のスペルを確認できるので助かった。

しかし一番安心できたのは、鉄道で長距離を移動中も、iPadのマップで見ていれば、自分が今どこを走っているか分かるし、正しい列車に乗っていること、次の駅までどれぐらいあるかなどもわかることだ。目的地に近づいていることも分かるので、乗り過ごす心配も無い。

問題はこうした便利さが、定額対象事業者を利用するだけで得ることができるのか、という点だ。実際に比較したわけではないし、特定の場所だけの話でも役に立たないだろうから、一般化して考えてみた。

一般的に言って、それぞれの国の大手、または日本人が多く行きそうな地域のキャリアと提携するだろう。そうすると、大都市はカバーされる確率が高く、地方都市や過疎地では接続出来ないということになりそうだ。

公共交通機関は大都市にしかないし、宿泊するのも普通は大都市だろう。そう考えると、多くの利用は定額対象事業者でカバー出来そうだ。ただ長距離を移動する場合は、常に自分の現在位置が確認出来るとは限らなくなる。

それでも多くの旅行者が訪問するのは大都市や大観光地だろうから、移動を開始してしばらくは接続はある。間違った方向に進んでいればマップで気付くことができるはずだ。また一般に幹線は比較的大きな都市で分岐するので、そこでも接続があり、正しい方向に向かっているか確認出来る可能性が高い。目的地が近づけば、また接続が回復し、到着の準備ができるだろう。これだけでもかなり安心だ。

困るケースを考えると、長距離の移動で時間があるので、途中で次の目的地のことを調べようと思ったら接続が切れてしまった、というパターンがありそうだ。車で移動する場合も、田舎で道を間違えても気付かない、というケースがあるだろう。ただこの場合は、ナビが付いたレンタカーを借りればすむことだ。人があまり行かないところが目的地の場合も、iPadの接続が確保出来ず、使い物にならないかもしれない。

ただ、珍しい場所を知っているぐらいだから、事前に知識を持っているだろうし準備もしているだろう。それでもネットが必要なら、追加料金を払うつもりなら利用出来るが、パケ死のリスクが出てくる。僕のようにネットに依存し過ぎていると、往々にして「必要になってから調べればいいや」と思ってしまいがちだが、海外でも気楽にどこでも接続出来るというのは、残念ながらまだ幻想というわけだ。事前に準備しろよ、と言われればその通りである。

もちろん接続出来る範囲は広いほど良いので、ソフトバンクには引き続き努力をお願いしたいが、最低限、大都市圏と主要観光地さえカバーしてくれれば、多くの人がiPadの便利さを実感出来ることになりそうだ。

念のため付け加えておくと、調べる、という面ではiPadの標準アプリでは力不足を感じることが多かった。マルチタスク/マルチウィンドウではないので、複数の情報を比較できないのだ。Safariは9画面まで保持してくれるし、それで足りなければブックマークすれば良いとはいえ、キャッシュエリアが小さいらしく毎回読みにいって結構待たされる。並べて見比べることも出来ない。アプリを活用すれば回避出来るだろうが、敷居が上がってしまう。iPadのバージョンアップでの改善を期待したいところだ。

続く

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プロフィール

川崎重工業人事部・川重米国本社CFOを経てガリレオに参加。ガリレオの業務の傍ら、環境問題、食糧問題に関心を持ち、「電脳自然生活」を目指して有機農業で米、野菜を作る。

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