第3回 合理的に資産を設計する
2007年11月13日
(これまでの 藤田郁雄の「サバイバル・インベストメント」はこちら。)
第1回と第2回では硬直的な資産に弾力性を与えていくのに統計学的なアプローチが有効であると書きましたが、統計を用いた資産運用を行うには「金融商品の性質が連続的に継続する」ことが重要となります。そして性質を一定の度合いに保ち続けるには、常に価値が変化し続ける個別の株式や債券などを何らかのルールでグループ化することによって精度を向上させることができます。
このルールのことを「インデックス(指数)」と呼び、例えば第2回に登場したTOPIX(東証株価指数)や日経平均(日経225)が国内株式市場の代表的なインデックスです。インデックスを利用した金融商品には投資信託(インデックスファンドやETF)や先物、その他派生商品(オプション)などがありますが、今回は取り扱いが容易なインデックスファンドを使って一般的な資産運用の方法を具体的に考えてみたいと思います。(*1)
■ 30歳から始める老後資金づくり
(第1回でも少し取り上げましたが)一般的な生涯収支を計算してみると多くの方が4,000万円ほど足りなくなることになります。この不足分を補うことを目標に、今回は30歳から65歳まで資産運用について考えてみましょう。
1. 投資額の決定
現在の収入と支出を元に、毎月の給与から無理なく投資できる金額を計算します。これは個々人の背景や環境によって十人十色な考え方ができますので、方程式などで一意に割り出すことはできません。平均的な30歳サラリーマンの余剰金は毎月3〜5万円程度ですので、今回は毎月3万円を資産運用に割り当てるとします。
2. 目標利回りの設定
運用期間35年間で4,000万円の運用益が得られる利回りを計算します。
モーニングスター社の金融電卓を用いると、毎月3万円を積み立てて 35年後に4,000万円となるよう運用するには、1年あたりの平均で約5.7%の利回りが必要になることが分かります。企業年金連合会が公開している過去32年間のデータによると、国内株式インデックスの期待収益率が7%、海外株式インデックスにいたっては8%ですので(投資信託のコストを差し引いても)5.7%という利回り目標は現実的といえます。
この「現実的な目標」を立てるというのは極めて重要なことです。地に足の着いた目標を立てられず無謀な戦略や戦術を展開して失敗する例は、ビジネスなどからも多く見られることです。昨今の投資ブームで投資の成功者たちがメディアに取り上げられてきましたので、現実的な目標を立てられずにいる個人投資家が多くいると思いますが、平均値を大きく超えた数少ない成功例を目指すのは賢明な判断と言えないのではないでしょうか?宝くじが当たることを前提に将来の貯蓄計画を立てることは無いのと同様、まずは現実的な目標値を設定することが弾力的な資産設計への第一歩となるはずです。
3. 指数とインデックスファンドの選択
次に、どの市場(指数)に投資するのかを考える必要があります。指数選択の判断基準は時価総額や流動性(取引量)、効率性(フェアなマーケットかどうか)などがあるのですが、これはまた後日に詳しく書くとして、今回のケースでは国内株式(TOPIX)と外国株式(MSCIコクサイ指数)、外国債券(シティグループ世界国債指数(除く日本))を3種類を用います。そしてインデックスファンドにも数多くの商品が存在しているのですが、この中から良質なファンドをざっくりと見分けるには「コストが最も低い」という条件(*2)で良いでしょう。
最近は郵便局でも販売されるなど投資信託も注目されるようになりましたが、まだまだ日本ではコストとリターンの釣り合いが取れていない、つまり投資家に不利な商品であふれ返っています。現在、国内では約2,980本の投資信託が存在していますが、この中で資産運用に役立つ商品は1%以下と私は考えています。まずは、高いコスト意識を持つようにすることが肝要です。
ちなみに、私が投信スーパーセンター(*3)(*4)内で選ぶとすると、国内株式に「東京海上日本株TOPIXファンド」、外国株式に「年金積立インデックスファンド海外株式(為替ヘッジなし)」、外国債券に「年金積立インデックスファンド海外債券(為替ヘッジなし)」などになります。(*4)
4. 配分の決定
最後に、選択した3種類のインデックスファンドをどのような比率で配分するのかを考えます。これは第2回に書きました標準偏差と期待収益率、相関係数を用いて計算するのですが、 「タロットのポートフォリオ理論[ココログ分室]」にて公開されている効率的フロンティア計算シート(*5)を利用すると簡単に求めることができます。
ここでは簡単に企業年金連合会が公開している過去32年間のデータでマクロ処理してみましょう。投資信託のコストを1%と仮定するとリターンは6.7%以上必要になるので、この組み合わせでシャープレシオ(*6)の高い順に並べると概ね国内株式:外国株式:外国債券=35:50:15の比率になります。実際の運用ではインデックスファンドの値動きからデータを抽出する方がコストも含めて計算できるので精度も上がる (*7)のですが、このような簡単な方法でも証券会社が富裕者向けに提供しているラップ口座と変わりない運用ができるようになります。
■ 今後の展開
さて、第1回から今回まで「サバイバル・インベストメント」のロードマップ(大まかな流れ)について書いてみました。駆け足で全体像に触れていったので少し分かり難い内容となってしまいましたが、これから話を進めていくにあたって
・何故、すべての人に資産運用が必要なのか?(第1回:目的)
・では、本稿はどういう考え方で運用を行っていくのか?(第2回:戦略)
・具体的にどういう運用手法を用いるのか?(第3回:戦術)
を最初に示しておかないと、書き手と読み手の間に認識のズレが生じることになると懸念したためです。次回からは、今までに書いた大まかな流れを細かく、そして分かりやすく見直していきたいと思います。
* * * * *
(*1)投資信託に関する基礎知識は、ニッセイアセットマネジメント社のウェブサイト「ふくろう教授の投資信託ゼミナール」に詳しい。
(*2)コストの中で最もインパクトがあるのは信託報酬。モーニングスター社の ファンド条件検索を利用して信託報酬を元に並び替えると良いだろう。
(*3)投資信託の販売を行っているコーディアル・コミュニケーションズ社のサービス。
(*4)物事を具体的にするためのサンプルであり、筆者に宣伝の意図はなく、勧誘を目的とするものでもなければ、取引上のアドバイスを目的とするものでもない。実際の投資行動においては、各自の完全なる自己責任にてお願いしたい。
(*5)MS-EXCEL2000が必要
(*6)リスクに見合ったリターンが得られているかどうかの指標。値が大きいほど効率が良いと考えられる。発案者ウィリアム F. シャープは1990年にノーベル経済学賞を受賞。
(*7)また、32年前と現在の市場に連続性は低いので、長期間のデータは必要ないと私は考える。実際の運用ではビルディングブロック方式を用いて影響を薄める。
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藤田郁雄の「サバイバル・インベストメント」
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