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藤田郁雄の「サバイバル・インベストメント」

新鋭のプログラマーが、現代ポートフォリオ理論をhackすることで、経済的自立の構築を模索する。

第6回 投資信託におけるオープンソースとプロプライエタリ

2007年12月26日

(これまでの 藤田郁雄の「サバイバル・インベストメント」はこちら。

前回までに、資産運用の中心とするべき商品は投資信託(ファンド)であると書いてきました。しかし、「目論見書に書かれた運用方針どおりに分散投資しながらも、1万円から買えるよう小口化する」というファンドの特長は、一般の運用手法として理想的といえるのですが、国内に存在しているファンドのほとんどは期待収益率に対して信託報酬(コスト)が高く、資産形成に役立つ商品があまりにも少ないと考えています。また、他にも役立たないとする理由はいくつかあるのですが、今回はオープンソースとプロプライエタリの関係を引き合いに、コスト以外にも目を向けてファンドについて考えてみたいと思います。


■ オープンソースとプロプライエタリ
オープンソース(*1)とは、プログラムの設計図ともいえるソースコードを無償公開することによって(ライセンスさえ満たせば)誰でも自由に改良や再配布を行うことができるソフトウェア、その開発方式のことです。"Linux"カーネルやウェブサーバに使われる"Apache"、データベース"MySQL"、プログラム言語"PHP"など、特にサーバサイドでシェアの高いプロダクトが多く存在しています。
一方、プロプライエタリ(*2)とはコードを公開せずメーカ内部だけ(*2)で開発を行っているソフトのことです。マイクロソフト社のOS"Windows"やアドビシステムズ社のグラフィックソフト "Photoshop"など、販売されているパソコンソフトのほとんどがプロプライエタリです。
両者にはそれぞれの利点があって、品質的にどちらかが優れていて劣っているというのはありません。しかし、オープンソース・コミュニティとプロプライエタリ・メーカは時折、互いに反する開発手法を巡って激しく対立する(*3)ことがあります。

■ インデックスファンドとアクティブファンド
投資信託は、インデックスファンドとアクティブファンドの2種類に分けることができます。
インデックスファンドは、運用方針の設計図ともいえる「指数」が公開されていて、これに沿うように運用が行われます。一方、アクティブファンドは(目論見書に運用方針を示しているものの抽象的な表現なので)ファンドマネージャーの「裁量」によって運用されますので、受益者は具体的にどのような運用が行われているのかを逐一、知ることはできません(*4)。
このように、設計図の公開・非公開という点はオープンソースとプロプライエタリの関係に似ています。

■ ソフトウェアのセキュリティとコバンザメ投資法
オープンソースのセキュリティについて、「コードが公開されているなら、悪意のあるクラッカーが脆弱性を見つけ出して、ウィルスを作ることが容易なのでは?」と思われるかもしれません。しかしコードが衆人環視にあるからこそ、善良な開発者も脆弱性を見つけ出すことができて、手早く脆弱性を修復してしまうことが可能なのです。実際にオープンソース・ソフトウェアは、特段のセキュリティを要求される金融機関のシステム構築でも多く用いられています。

そしてインデックスファンドも取引ルールである指数は公開されていますから、「インデックスファンドが売買する銘柄を先回りすることで儲けられるのでは?」と考えられがちです。実際に、この「コバンザメ投資法」(*5)は2005年頃まで有効で、私も利益を上げることができていました。しかし、指数の開発元やファンドの運用会社も無能ではありません。現在、脆弱性にはパッチ(*6)が当てられていて、「コバンザメ投資法」で利益を上げるのは難しくなっています。

■ ソフトウェアの利用制限と毎月分配
繰り返しになりますが、プロプライエタリ・ソフトウェアはユーザ側にソースコードへアクセスする自由を与えていません。したがって、排他的な独自規格を用いてユーザの利用形態を制約する(*7)こともあれば、見つけたバグを自由に直したり、自分が使いやすいようにカスタマイズすることができないことがあります。しかし、ユーザ側に完全なる自由を与えない代わりにメーカ側が様々な責任を持つわけですから、メーカの想定している利用形態で扱う限りはユーザにとって便利ともいえます。 ("自由"="良い"とは限らないのです)

オープンソースが持つ「ユーザ側の完全なる自由」とプロプライエタリが持つ「メーカ側から与えらている範囲での自由」、この関係は毎月分配型ファンドと無分配ファンドにも当てはまります。分配とは、受益者の意志に関係なく運用会社の判断で解約を行い(税金控除後に*8)受益者へ分配金が支払われる仕組みです。支払われる金額や決済タイミングは(受益者側で決めることができず)運用会社が一方的 (*9)に決定します。つまり毎月分配型ファンドの受益者は、決済に関する権利の一部を放棄しているということになります。
したがって、長期投資を目指している受益者が分配金を出して欲しくないと考えていても、毎月分配型のファンドであれば強制的に一部決済されてしまいます。しかし、ユーザ側で決済額やタイミングを判断したくない場合は、毎月分配型ファンドは便利なのかもしれません。


■ ポートフォリオをハッキングするにあたって
プログラマは、ソースコードの提示がなくソフトウェアをカスタマイズすることはできません。したがって、あなたが自分自身に合ったアセットアロケーションを組み立てたいなら、コードが明示的に公開されていないアクティブファンド(*10)ではなく、公開されているインデックスファンドやETFを利用する必要があります。

* * * * *
(*1)(*2)詳しい用法・定義はWikipediaなどを参照のこと。なおプロプライエタリであっても、NDAにサインしているサードパーティにはソースコードを提示するケースもある。
(*3)直近の例を挙げると、マイクロソフト社のジェフ・ジョーンズ氏とモジラ・ファウンデーションのウィンドウ・スナイダー氏のやりとりだろうか。
(*4)厳密には月次・決算時に発行される運用報告書で知ることはできるが、どの銘柄をどのタイミングで売買したのかをリアルタイムで知ることはできない。また、空売りしている銘柄は一切公開されないケースもある。
(*5) パッシブファンドで運用している機関投資家をジンベイザメに見立てて、彼らと行動を共にすることで利益が得られることから「コバンザメ投資法」と呼ばれている。増資・減資などのコーポレートアクション、東証2部からの昇格、監理・整理ポストなどの降格などでジンベイザメの投資行動が決まるので、実施日までにコバンザメとなることで利益を得る。
(*6)TOPIXであれば、機関投資家の行動決定から実施日までの期間が以前は10日前後しか無かったが、現在では約40日間の猶予ができた。これだけの期間が空けば、コーポレートアクションなどのインパクトは皆無に等しい。またMSCIであれば、ルールが大幅に見直され予測が困難になった。そして、機関投資家の執行タイミングがスライスされるようになり、実施日には逆現象(買われるべき銘柄が売られ、売られるべき銘柄が買われる)が散見されるまでになった。「コバンザメ投資法」が突いてきた指数の脆弱性は、今や完全に塞がれてしまったと考えていいだろう。(もう少し詳しく知りたい方は、TOPIXの浮動株化を調べてみても良いだろう)
(*7)ただし、最近は標準的な規格を用いるケースも多々みられる。また、独自規格を無償公開して標準化するケースもある。
(*8)特別分配の場合は、利益が出ていないのに分配されているので税控除はない。ただし、販売手数料が存在するファンドの場合は、利益を得られる前に強制解約されていることになるので、手数料の分だけ損失と考えることができる。
私見だが、金融以外の商品はメーカ側に欠陥があればリコールされて手数料等は返金されるものだが、金融商品の場合は利益供与と捉えられて返金できないのは疑問に思う。少なくとも、特別分配を実施するファンドは手数料も返金すべきではないか。
(*9)とはいえ、分配金の支払日は提示される。また分配額も過去の実績から判断することは可能である。ただし、何の前触れもなく「ボーナス分配」というルールが組み込まれるケースもある。
(*10)アクティブファンドがインデックスを長期間アウトパフォームできていないことや外資系ファンドが引き起こした付け替え問題は、機会があれば書きたいと考える。

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プロフィール

1976年生まれ。経営者、個人投資家。ハンドルネームは「銀座人」。「市場は長期的には効率的」という持論を実証すべく、資産運用の成果をウェブサイト上に公開している。著書に『みんなの投資』(ダイヤモンド社)。