第4回 資産運用に損切りは必要か?
2007年11月23日
(これまでの 藤田郁雄の「サバイバル・インベストメント」はこちら。)
先日、日経平均株価は1年4ヶ月ぶりに1万5千円を割り込みました。同様に世界各国の株価も急落していますので、投資ブームで相場に参加した個人投資家の多くは損失を抱えていると思います。
私のポートフォリオも、10月末に88万円(+ 17.39%)あった利益が45万円(+9.01%)まで落ち込んでしまいました。
このような局面では「損切り」(損失の出ている証券の決済)という合理性に欠く投資行動をとってしまいがちです。株価チャートが下がり続けると、どうしても「今後も下がり続けるだろう」と根拠の無い予測を立ててしまうのですが、本当にいま「損切り」するべきなのでしょうか?(あなたが投資を始めた頃と比べて、何か世界経済が大きく変わってしまったのでしょうか?)
もちろん、運良く株価が下がり続けて「損切り」が成功することもあります。しかし感覚による投資行動は単なる丁半博打であって、長期的な目標を達成することはできないのです。
■ 「何もしない」ことに価値がある
資産運用を始めたばかりの頃は、何かにつけ投資行動を起こしたくなります。例えば「サブプライム問題で先行き不透明だからいちど現金に戻そう」などと、何か行動した方が損失を抑えられて儲かるような気がしてしまう。しかし、売買を繰り返すことで本当に利益は上がっているのでしょうか?
パフォーマンスの悪化している有価証券を売って良質な有価証券を買う(入れ替える)ことで、巨額の利益を貪っているイメージのある外資運用会社の売買頻度ごとの利益率を見てみましょう。(*1)
回転率 | 売買頻度 | 1999-2004年(5年間) | 1994-2004年(10年間) | 1989-2004年(15年間) |
0~50% | 売買回数:小 | 2.3% |
11.5% |
11.4% |
50~100% | 売買回数:中 |
▲1.2% |
9.8% | 10.5% |
100%以上 | 売買回数:大 | ▲5.4% | 9.6% | 10.4% |
回転率とは、1年あたりでどの程度の割合でポートフォリオの中身を入れ替えたのかを示します。つまり回転率100%とは、保有している証券を1年後に売却して新たに別の証券を購入しているということです。回転率が高いほど売買の繰り返し回数が多いということなのですが、目安として米国アクティブファンドの年間回転率は平均で100%を超えています。運用会社の存在意義は、保有証券を入れ替えて利益を上げることにありますから、回転率は非常に高くなる傾向にあるわけです。しかし、結果はどうでしょう?
「ハゲタカ」と呼ばれている投資のプロたちが頻繁に取引した方が儲かると一般的には思われていますが、結果は見ての通り、実際には「何もしない」方が利益を上げられていたのです。
なぜ何もしない方が、より利益を得られているのでしょうか?
まず、売買のたびに発生する手数料や利益確定時に生じる税金を減らすことができる為だと考えられます。しかし近年では取引手数料は安くなっていて、それでもこの傾向は続いているのですから、コストと税金だけで全てが説明できなさそうです。おそらくは、証券の保有期間に起因していると考えられます。
■ 相場とは常に適度な距離感で付き合っていく
回転率の低いポートフォリオに組み込まれている証券は、入れ替えが起きにくいので保有期間が長くなります。
なぜ保有期間が長いと、より利益が得られているのでしょうか?ここでは著名な投資家ウィリアム・バーンスタインのデータ(*2)を引用します。
上記は米国株からのデータですが、私が東証第一部の過去35年間(1970-2005)の株価から抽出したデータでは、保有期間が長いほど収益が上がっていき、リスク(標準偏差)は3年半を経過する頃に大幅に下がっていきます。(そして11年を経過する頃から更にリスクが低下します)
このように、現在保有している有価証券が(第3回に書いた)指数に連動するインデックスファンドやETFであるならば、目先の値動きや相場観で売り買いを繰り返す必要はないはずです。
実際に、私は(公開しているポートフォリオを見ると分かるのですが)これだけ値下がりが起きても「いちど利益を確定させておこう」「損失が出ている証券を損切りしておこう」、または「今が買い増しのチャンスだから大目に買っておこう」などと考えることなく、事前に立てた計画の通りに淡々と積み立てています。
回転率を抑えて各種証券を長く持ちつづけることが、経済的な自立を構築する上で重要と考えているからです。
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(*1) 米モーニングスターのミューチュアルファンドの値動きから筆者作成
(*2) Bernstein "Of Risk and Myopia"(筆者によってグラフ化および対数表示)
詳細はこちらを参照
藤田郁雄の「サバイバル・インベストメント」
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