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藤倉良の「冷静に考える環境問題」

わかること、わからないこと、できること、できないこと・・環境問題を冷静に考えてみる。

アメリカが変わる

2007年12月14日

(これまでの藤倉良の「冷静に考える環境問題」はこちら

 地球温暖化対策ではアメリカが悪者になっている。京都議定書を拒否した世界最大の二酸化炭素排出国(2006年には中国に抜かれたらしいが)である。原因はブッシュ大統領と共和党だ。

 アメリカは世界の科学をリードしてきた。地球温暖化の科学も例外ではない。ハワイのマウナロア山頂では、50年前の1957年から大気中二酸化炭素の濃度が測定され続けている。IPCCにはアメリカから多数の科学者が参加している。

 最先端の科学研究が進められているが、その成果を政治が使わない。時には、政治が自分たちに有利になるように科学研究の成果を歪曲する。地球温暖化の科学も例外ではない。温暖化対策に反対する業界や政治家が、IPCC報告書や京都議定書を攻撃してきた。前回書いたが、人間活動によって地球が温暖化していると100%断言できるところまで科学は到達していない。彼らはそこを突いてくる。 

 反温暖化対策の最右翼は、オクラホマ州選出の共和党上院議員ジェームズ・インホーフェである。彼が上院で環境・公共事業委員会委員長というポストについたとき、民主党上院議員のボブ・スミスは環境保護派に次のように警告したという。

「君たちは私が悪者だと思っているだろう。インホーフェとやってみな」注1)
予言どおり、インホーフェは京都議定書を執拗に攻撃し続けた。少し古いが2003年7月28日の議会演説が有名で、次のように締めくくられている。

私が本日申し上げた科学者や経済学者(の発言)から何がわかるでしょうか。
1.地球温暖化が人為的な排出によって起きたという主張は単なるウソであり、確固たる科学に基づいたものではありません。
2.CO2が破滅的災害をもたらすことはなく、実際には私たちの環境と経済に利益をもたらします。
3.京都(議定書)はアメリカ人、とりわけ貧困層に多大な費用を押し付けます。
4.京都(議定書)の動機は環境ではなく経済です。これの支持者たちは炭素税やより多くの規制によってアメリカ経済に障害を与えたいのです。
人為的な地球温暖化というイカサマは、ヒステリーと恐怖とインチキ科学がアメリカ人にもたらしたこれまででも最悪のものではないでしょうか。たしかにそうです。

 そのアメリカが変わってきた。温暖化対策に反対する人たちは今もキャンペーンを張っているが、状況は変わりつつある。

 ひとつには、IPCCの結論がますます確信に満ちてきたことにある。科学の不確実性が少なくなってきた。もうひとつはブッシュ政権の不人気だろう。大統領選挙の候補者選びに忙しいアメリカだが、共和党候補者もブッシュ大統領から距離を置いている。共和党の有力候補とみなされるジョン・マケイン上院議員は温暖化対策、とりわけ排出量取引の熱心な推進者である。

 2008年の次期大統領選挙で誰が大統領になっても、政策転換される可能性が高い。温暖化対策に熱心なヨーロッパと不熱心なアメリカの間に挟まれた形になっていた日本だが、ある日、突然、欧米に置いていかれるかもしれない。


CC :BYAbout Wolfiewolf

 今年6月、カリフォルニアのバークレー市を訪問した。環境NGOのスタッフにインタビューするためである。仕事が済むと、彼女は地下鉄の駅まで送ってくれるという。その車はプリウスだった。

 バークレーではプリウスに乗ることが「当たり前」になっているとか。彼女が住む住宅地の一角では19世帯のうち17世帯がプリウスなのだそうだ。注文が多すぎて、納車まで2、3ヶ月待ちは当たり前ということだ。アメリカには、砂漠地帯なのにわざわざ電気乾燥機で洗濯物を乾かす人もいれば、プリウスに乗ることが当たり前になっている街もある。

 12月3日付けで「米国はCO2排出量を簡単に4分の1減らせる」というニュースが出ていた。それほど難しい話ではない。2002年、アメリカは1000ドルのGDPを生産するために、0.57トンのCO2を排出した。これを4分の1減らすと0.43トンになるが、先進国(OECD加盟国)の平均値は0.45トンである。他の先進国並みにするだけのこと。ちなみに、同年の日本は0.36トン、ドイツは0.41トンである。

注1) Chris Moony, "The Republican War on Science," Basic Books, New York, 2005

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プロフィール

1955年生まれ。法政大学人間環境学部教授。専門は環境国際協力。著書に『環境問題の杞憂』,訳書に『生物多様性の意味』などがある。