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藤井敏彦の「CSRの本質」

企業の社会的責任(CSR)とは何なのか。欧米と日本を比較しつつ、その本質を問う。

U40のCSR

2010年11月 2日

(これまでの 藤井敏彦の「CSRの本質」はこちら

通貨引き下げ競争が国際的な議論の的になっています。関税引上げという手段がWTOルールによって禁じ手となっているなか、自国通貨を引き下げることは輸入を抑制するという意味で類似の効果をもたらします。各国とも困ってらっしゃるということです。

もちろん、このことは世界経済にとって憂慮すべきことでありますが、翻って「困難なときには謙譲の美徳をもって身を小さくする」という発想は、われわれの人生に当てはめてみると、それなりに合理性があるのではないかと思うのです。

ワタシの周りにも精神の安定を崩す人が少なからずいます(いや、「少なからず」なんて言うのは"understatement"で実際はとても多い)。業界を問わずどこでも仕事は大変、将来は見えない。こんなときの切り札。それが「私的通貨引き下げ」。辛さは期待値の関数のようなところがあります。機を逸することなく自分への期待値を引き下げましょう。

あなたは自分に何を期待していますか?
-「せめて部長に」? アナタ、日銀に文句言うまえに自分で目標緩和やらないとマズイかもしれませんよ。
-「うつにならずに過ごす」? ああ、なるほど。いいですね。既に十分野心的ですが。
-「夫婦円満」? ちょっと期待が高すぎないでしょうか。ホント大丈夫ですか? 老婆心ながら。

"Middle-agers, don't be so ambitious!"
ということでスタートしましたが、今回のタイトルは正反対の「U40のCSR」。もちろん、元気な若人には(無責任ですが)高い野心をもっていただきたいと願うのであります。

もう随分前のことになるんですが、ソ連が崩壊してロシアが生まれたとき西側諸国はロシア支援を競いました。日本は何をやったかというと、ひとつは中小企業支援。モノづくり、人づくり、みたいなね。で、当時の責任者は後に新聞のインタビューに応じてこんな風に語ったんです。私非常に印象深く思いました。よく憶えています。

「中小企業支援は日本にしかできない地に足がついた支援であると自負していたが、しかし今になって振り返ると自らの視野の狭さに愕然とする。米国のロシア支援のアプローチはまったく違っていた。彼らは自らのルールをロシアに植え付けることに全力を挙げたのだ。当時の自分にはそのようなメタ的思考ができなかった。」

実際、欧米は企業会計制度から法律制度まであらゆるロシアの社会的制度インフラを作り上げることに支援の焦点を絞ったわけです。その先兵としてアメリカの会計事務所や法律事務所が政府とともにロシアに専門家を送り込んだ。もちろん、日本の中小企業支援もそれはそれで効果があったと思います。でも、ロシアは全体として欧米のルールを採用したわけです。このシステム思考を日本はしなかった、いやできなかったのであります。

途上国の開発問題とか貧困問題に関心を寄せる多くの若い皆さんに聞いて欲しいんです。アフリカ行って井戸掘ることも、図書館つくることもとても良いことですが、もしかしたら少し別の発想もあるかもしれない。持続可能なパーム油の認証スキームを作り上げた円卓会議は、当初わずか7人のメンバーではじまったものです。世界をシステミックに(全体的に)変えようと発想した。紛争ダイヤモンドのルールを生みだしたのも少数のNGOです。対人地雷禁止条約のケースはもっとすごくてジョディ・ウィリアムズさんという方お一人のリーダーシップが新しいグローバルな規律を生みだしたわけです。誰もが世界を変えることができる。

もちろん、現場で地雷を除去する活動に汗を流すことは日本的美意識にかなうものであり、賞賛されるべきものであります。ロシアの中小企業に専門家を送って指導するように「個別具体的」であるがゆえにわかりやすくメディアの嗜好にも合致している。新聞の日曜版に登場できるかもしれません。しかし、そこには世界のシステムを変えるというメタ思考の欠如という問題が隠されているかもしれないと思うのであります。

世界の持続可能性を高めることがCSRの究極の目的です。そのとき本当に必要なものはなにか。お若い方、世界を変えることを考えましょう。

"Don't count on anyone over 40. They are tired."

朝方は大分寒くなってきました。今年の寄稿も余すところあと1回です。
では。

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プロフィール

1964年生まれ。経済産業研究所コンサルティングフェロー。経済産業省通商機構部参事官。著書に「ヨーロッパのCSRと日本のCSR-何が違い、何を学ぶのか」、共著に「グローバルCSR調達」がある。

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