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藤井敏彦の「CSRの本質」

企業の社会的責任(CSR)とは何なのか。欧米と日本を比較しつつ、その本質を問う。

職場のダイバーシティ(男女平等)がニッポンを救う

2009年10月 5日

(これまでの 藤井敏彦の「CSRの本質」はこちら

シルバーウィークを国家の大義に捧げWTOに籠城すること12日間。愛する東京の職場に戻ると机の上には、な、ナント、なにやら怪しげな神託が! 副業でシャーマンをやっている同僚に読み解いてもらうと、オオ、そこに現れた神意は。。。
「あさってからニューデリー」。チーン。黙祷。

インド、この8月が初めてだったのですが、ワタシまばたきも忘れ凝視したのであります。水野敬也さん著「夢をかなえるゾウ」のメインキャラ、インドの神様ガネーシャの、あの荒唐無稽ぶり。彼の地に行ってみると、な~るほどぉ、ありかな、と納得。小生の仕事も曼荼羅的にこみいってるんで、交渉に連れてこうかな、ガネーシャ(笑)。

これまで何度か音楽とか建築とか取り上げましたが、小生、正と邪、均衡と歪みが混交し、しかも精緻に計算されて配されている様式が好みであります。その点、インド音楽はすごい。基礎からして超複雑。西欧音階は12だけど(ドからドまでの1オクターブが12に分けられている。ピアノだと白、黒あわせて鍵盤が12あるでしょ)、インド音楽では12の音の間の中間的なピッチの音も微妙に使われて、22音階なんて言われたりします。西欧音階のように必ずしも平均律(1オクターブの周波数が12分されているだけでなく、12等分されている)になっていないらしいので、単純には言えませんが、1オクターブに22の鍵盤があるピアノを弾きこなすのは大変でしょうね!インドはワタシのコンプリ系美意識にかなうのであります。ということで、今回も計算づくの歪んだ文章で元気にまいります。

(CSRと男女平等)
よくCSRへの取組みに秀でている日本企業を教えてくれと頼まれることがあります。もちろん、どういう角度で見るかによっても色々で一概には難しいのですが、ソニーさんは大体の場合挙げることにしています。かつて日本でCSRがほぼ完全に誤解されていた時(どう誤解されていたかは拙著「ヨーロッパのCSRと日本のCSR」をお読みいただければ徹底的で執念深い解説をしてあります)、ソニーさんのCSR報告書を見て感心したこと、まだよく覚えています。その報告書は冒頭、ソニーで女性の登用が遅れていることをデーターで示していたのです。社会貢献の美談でも、(誰の関心の対象でもない)社訓の解説でもなく、社会から問われているポイントについて自社の問題点を隠さずに示していた。

ことほど左様に、能力ある女性をそれとして正当に評価し遇すること、ワタシはこのことは非常に重要だと思っています。ただ、このダイバーシティ(男女の平等)の問題は、CSRの項目の中でも、なぜそれが会社にとって良いことなのか、という点において意見がなかなか一致しない項目の一つです。実はワタシもよくわかんない。

(お客が女性だから女性登用?)
もう昔のことですが、とある地方で開かれたダイバーシティの研究会。ワタシ以外のメンバーの大半は女性でした。ワタシの発言は他の参加者から酷評され、散々な言われようでした。男女平等論者を自認する小生、いつの間にか女性の敵って感じの役回りを引き受けていて、再起ならぬまま会は終了。「女とは非論理的な生物である」と傷口を癒したのであります。あ、訂正。「女とは(男と同様)非論理的な生物である」。

とにかく、この問題は難しい。まず、その場で議論になったことのひとつは、お客さんが女性だから社内でも女性を登用しなくてはいけない、かどうかであります。

え~、次の2つの考え方をご覧ください。
(1)会社の管理職のデモグラフィックな構成(性別等)を顧客の構成に近づけることで企業の競争力上は向上する。
(2)最重要なデモグラフィーの要素は性別である。主な顧客層が20代の女性であれば、同世代の20代の男性ではなく同性の60代の女性を経営陣に入れることが合理的である。

「お客が女性だから女性を登用」の議論は無意識のうちに上記の考え方を前提としています。しかし、ここからは、次のような結論が導出されます。男女のダイバーシティが経営上好ましいのは、顧客が男性、女性によってバランスよく構成されている会社の場合である。主要顧客層が男性である会社が積極的に女性を登用することは合理的ではない。これはナンセンスな結論なんですが、二つの前提から演繹的に導出した結論なので、つまり前提がナンセンスってことです。

なぜ二つの前提がナンセンスかを考えてみましょう。まず、オンナのことはオンナが一番よくわかる、かどうかです。ワタシはオンナではないのでよくわかりませんが、じゃ、おまえ、オトコなんだからオトコのことはよくわかるだろ、って言われても。専業主夫の人のことは、きっと専業主婦の女性のほうが小生よりもよくわかるはず。いきなり男性の右代表にされても困ります。なにせオトコだけで全人口の半分ですからね。

次に、そしてなによりも重要なポイントですが、企業経営において役員や管理職が果たす役割についてであります。顧客との性別の整合性というのは、例えば販売の一線では必要な場合があります。あなたがアパレルの会社を経営していて、渋谷の109にブティックを出そうとしていると考えてみてください。小生のような中年男を販売員として置きます? まさかね(笑)。やっぱりアゲハ系のお姉さんのほうを選びますよね。そういうことです。しかし、経営戦略を担当する専務を採用するとなるとハナシは別でしょう。

管理職に求められるものは多様です。理解力、判断力、度量、リーダーシップ、専門知識などなど。だから「顧客は女性なのだから、管理職にももっと女性を。」という、ダイバーシティの必要性の「根拠」を顧客の性別構成に求める議論はあまり合理的なものではないと思うのであります。

(男女の別、されどやはり男女は別?)
ま、ここまでならハナシはまだ簡単です。オトコもオンナもない。要は仕事ができるかどうか、ということで。単純な結論です。ただ、もしかするとそうでもないのかもしれない。ある中堅企業のカリスマ社長さん(60代男)とお話する機会がありまして。すごい熱気で仰ることには:

「フジイさん、現状打破するには女性ですよ、ジョセイ。オトコにやらしたら絶対にダメ。新しいことはジョセイに任せるに限る。イイですか、フジイさん。この前もある会社の社長に言ってあげたんですよ。社内改革プロジェクトが上手くいかないっていうんでね。メンバー全部ジョセイにしなさいって。したら、どうなった思います?大成功ですよ。感謝されてね~。」

なるほど、こうなるとですね、お客が女性かどうかは関係ないかもしれないけど、仕事の内容によって、性別を考えなくてはいけないのかもしれません。現状を大きく変えたい時の部長は女性にして、カイゼン的な仕事の担当課長は男性みたいな感じで。

いや~、小生よくわかんないんです。皆さんどう思いますか?ワタシは性より個性だと思ってきたのですが、ちがうのかもしれないなぁ。親愛なる男性同胞のみなさん、我々は巨大なる抵抗勢力なんでしょうか。今皆様がお座りになっている机に女性がつくとき、日本が生まれ変わるんでしょうか。そうかもしれませんね。もしそうなら、CSRは日本を救うのであります。

ではまた来月。

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プロフィール

1964年生まれ。経済産業研究所コンサルティングフェロー。経済産業省通商機構部参事官。著書に「ヨーロッパのCSRと日本のCSR-何が違い、何を学ぶのか」、共著に「グローバルCSR調達」がある。

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