このサイトは、2011年6月まで http://wiredvision.jp/ で公開されていたWIRED VISIONのコンテンツをアーカイブとして公開しているサイトです。

藤井敏彦の「CSRの本質」

企業の社会的責任(CSR)とは何なのか。欧米と日本を比較しつつ、その本質を問う。

カウンターカルチャーとしてのヨーロッパの「グリーン」がニッポンで「エコ」と「ロハス」に姿を変える壮大なる旅路(後編)

2008年11月 4日

(これまでの 藤井敏彦の「CSRの本質」はこちら

この原稿がアップされるころ、小生、WTO(世界貿易機関)のパネル会合を翌日に控えてジュネーブにおります。小生、日本国政府から頂戴するギャラは主に2つの仕事で稼いでいます。ひとつは「ルール交渉」というドーハ・ラウンドの交渉分野のチーフ・ネゴシエイターとして粉骨したり砕身したりすることで。もうひとつがWTOの「紛争解決メカニズム」に関するお役目。一番分かりやすい仕事が、パネル(一種の国際通商裁判)で日本政府のリードローヤーとしてパフォーマンスすることです。

今回の案件、日本がアメリカを訴えています。経済産業省と外務省で構成する「チーム・ニッポン」が対するはUSTR(米国通商代表部)。複雑極まりない案件ですが、本朝通商利益にとって負けられない一戦。「ニッポン・チャチャチャ」のリズムでいきたいと思います(やっぱ最初のサーブが肝心かな(笑))

すみません、テーマと関係ないことから始めてしまって。今回は「グリーン」の3回目です。前回はヨーロッパにおける「グリーン」は政治の空間に主な居所があることを申し述べました。1980年代後半新興の緑の党が「環境理念」を引っ提げて政治の舞台に登場。その理念は今や社会党はもちろん、クリスチャン・デモクラットにとっても「守るべき理念」として認識されている。そして、新しい環境規制に対する産業界の反対は政治の前に時に残酷なまでに押しつぶされる。「グリーン」な政治環境を所与として、企業が自らの意見を通すために必要な戦略と行動。このことをロビイストとしてずっと考えてました。

反体制文化であった「グリーン」のメインストリーム化(体制化)は、おもに政治の空間で起こった。ヨーロッパにおいては。

しかるに、日本ではどうだったか。グリーンのメインストリーム化は別のチャネルで起こります。環境は「政治理念」ではなく「経営理念」もしくは「経営手法」として受け止められた。これはヨーロッパのCSRが日本で「法令遵守」に変化したことにも似ているかもしれない。CSRの場合、企業に「何をさせるか」と元々視線は「外」から企業に向けられていた(企業は「手段」に過ぎなかった)わけです。しかるに和風解釈されたCSRは「良き企業とは何か」と視座が企業の内部におかれる。当然、法令遵守の話になるわけです。CSRがヨーロッパでは公共政策の領域に存在し、日本では主に経営学や商学の領域に吸収されたことはその象徴でしょう。

日本企業で「環境経営」に先んじられた企業さんのひとつがリコーさんだと思います。1995年には早くも「第1回 リコー全社環境大会」を開催され、同年、日本の認証機関による最初の認証として御殿場工場がISO14001認証を取得されております。早いですね。さすがです。

なんといっても日本において環境問題を「メインストリーム」にした最大の功績はISO環境経営規格にあるのではないでしょうか。ISO14001の取得ブームは社会現象となります。会社だけじゃなくて、あらゆる組織が「環境」を追及。NHK特集だっけ、ISO14001をとるために奮闘する自治体職員が出てたのを記憶しています。時間とともに環境報告書を出すことが当然のこととなり、そして地球が暖かくなって「省エネ」が「エコ」と新しい名前を得る。さらに、食品安全の問題が合流してアメリカから「ロハス」が輸入される。

環境は「ISOコンサルタント」の世界にまず根付き、そして勢力を拡大して「広告代理店」と「ファッション雑誌」の世界でエスタブリッシュするのであります。世界に誇るエネルギー効率の高い家電製品と環境意識の高いタレントさんを生み出しながら。

しかし、昨今の「エコ」ブームに「欺瞞」を嗅ぎ取る方がいらっしゃいます。そのような鋭敏な嗅覚は正しいかもしれない。でも、仮にそうだとしても、その責任は、やや結論を先取りにしていえば、「エコ」を語る企業にはないように思われます。おそらく「軽さ」が感じられる理由は、この間、環境が政治イシュー(選挙の争点)にならなかった現実にあるのではないか、とワタシは思うのであります。政治的な重しがない中で、コマーシャルの「エコ」の連呼がやや軽薄に感じられるかもしれない。でも、重しをつけるかどうかは選挙民の選択であって、企業の責任ではない。ヨーロッパだってどこだって、自ら政治を「グリーン化」しようというような酔狂な企業は存在しません。

漂う(かもしれない)エコとロハス「軽さ」の正体、それはいったい何なのか。次回考えてみたいと思います。ホントは「カウンターカルチャーとしてのグリーン」は3回で終えるつもりだったんですが。

もう飽きちゃいました? ですよね。。。すみませ〜ん。

フィードを登録する

前の記事

次の記事

藤井敏彦の「CSRの本質」

プロフィール

1964年生まれ。経済産業研究所コンサルティングフェロー。経済産業省通商機構部参事官。著書に「ヨーロッパのCSRと日本のCSR-何が違い、何を学ぶのか」、共著に「グローバルCSR調達」がある。

過去の記事

月間アーカイブ