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藤井敏彦の「CSRの本質」

企業の社会的責任(CSR)とは何なのか。欧米と日本を比較しつつ、その本質を問う。

カウンターカルチャーとしてのヨーロッパの「グリーン」がニッポンで「エコ」と「ロハス」に姿を変える壮大なる旅路(中編)

2008年10月27日

(これまでの 藤井敏彦の「CSRの本質」はこちら

ローリング・ストーンズの受け止められ方は一つの典型だと思います。既存秩序の「破壊者」として登場した音楽が、「破壊」に成功をおさめると、時間とともに教養アイテムになっていく。今やミックジャガーについて何がしか語れることはドイツ古典派の作曲家について一定の意見を持つことに近接した位置にあるように思います。だいたいにしてミックジャガーは女王陛下よりナイトに叙勲されてるわけで。

ロックに先立って「破壊者」として登場したジャズはロックの登場によって「芸術」の領域に追い込まれ(もしくは自ら「芸術」となることを選び)、今やクラシックと並び「勉強すべき一般教養」の地位を確固たるものにしています。星つきレストランでワインクルクルしながらマイルス・ディビスとハービー・ハンコックの比較を語るというのは、場にそぐう趣味のよい会話として歓迎されるでしょう。

もちろん、「密造酒」と「コカイン」の世界から「ボルドー」と「クレムブリュレ」の世界に引っ越したからといって音楽としてのジャズが魅力を失ったとかそういうことではありません。先日の東京ジャズフェスであらためてそう思いました。ただ、ジャズにしてもロックにしても、それぞれの音楽が世に登場したときに身にまとっていた社会的「反逆者」としての空気はどうか、といえば別かもしれません。そのような面に限って見ればこれらの音楽はすでにdefangedされている−牙を抜かれている−と言っても差し支えないかもしれない。

環境保護運動はどうでしょう。ドイツの緑の党の初期の成功の後、社会主義系の政治結社から緑の党への大量の人材の移動が起こります。その結果、緑の党では左派と右派の主導権争いが勃発。最終的に左派が勝利し今日の緑の党の基盤が出来上がることになるのです。

大量生産・大量消費というマスカルチャーへの一種の抗議運動として登場した「グリーン」の動きは、政治的にはより広い文脈で「反体制」の色彩を放つことになります。「既存体制の告発」としての運動という意味ではアメリカのカリフォリニアにおける環境保護運動も同様の文脈で解釈可能だと思います。商業主義的な支配的価値観への若い世代の反発が環境問題を媒介として噴出した感じでしょうか。このブログでたびたび登場願っているNGOの「グリーンピース」さん、この「グリーンピース」という名称もよく考えると環境運動の左翼性をうまく表現している。

出発点において「グリーン」と「ジャズのバップ革命」は似ている。で、「グリーン」はその後どのような道をたどったか。ご存じのとおり「グリーン」もまたワインクルクルのエスタブリッシュトゥな世界の御用達アイテムになりました。だから「グリーン」の到達点もサー・マイケル・フィリップ・“ミック”・ジャガーと同じように見えるかもしれない。

ドイツでは、1998年に社会党と緑の党が連立与党を形成。社民党(赤)と緑の党(緑)ということで、「紫」の政権なんて言われました。この連立政権は8年間維持されます。緑の党は8年間にわたって政権党として君臨したのです。ただ、緑の党自身が政治的影響力を拡大し続けたかというと微妙なところ。むしろ、様々な理由から自己矛盾をかかえ停滞期にはいっていきます。

しかし、環境保護運動は緑の党の専有物ではなくなり、より広い政治基盤を獲得していきます。つまり、ヨーロッパの「グリーン・ムーブメント」は他のパトロンを見つけるわけ。そうすることで緑の党の停滞を横目にみながら影響力を拡大し続けた。

小生、今も鮮明に覚えています。前回申し述べた電気電子機器に鉛その他の有害物質の使用を禁止する規制案のロビイングで欧州議会にいたときのこと。拙著「ヨーロッパのCSRと日本のCSR」から引用します。

WEEE及びRoHS両指令案の厳しい内容についてヨーロッパの産業界は強く反発した。(中略)両指令の成立過程では様々な産業団体、NGOがロビー合戦を繰り広げた。中小企業団体も猛烈なロビー攻勢をかけ、欧州議会において中小企業特例を設ける修正案が提案されたが、「環境保護の義務に大企業、中小企業の別はない」、「中小企業に例外を認めることは競争条件を不公平にする」という意見の前に圧倒されるだけの結果に終わった。

中小企業団体様の要請に対して「環境保護の義務に大企業、中小企業の別はない」と言い放ったのは、他でもないクリスチャン・デモクラットの議員だったのです。欧州のクリスチャン・デモクラットって、日本でいえば自民党、アメリカでいえば共和党的存在。この発言が緑の党やまあ社会党ならまだわかります。そうじゃなくて中道右派の保守政党ですからね。

ヨーロッパにおける環境保護理念の政治的支持の広さを物語ります。そう、ヨーロッパの環境保護運動は確かにワインクルクルですが、しかしdefangはされていない。まだ牙をむくのです。既存の利益団体に対して。政治的な牙を。

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プロフィール

1964年生まれ。経済産業研究所コンサルティングフェロー。経済産業省通商機構部参事官。著書に「ヨーロッパのCSRと日本のCSR-何が違い、何を学ぶのか」、共著に「グローバルCSR調達」がある。

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