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藤井敏彦の「CSRの本質」

企業の社会的責任(CSR)とは何なのか。欧米と日本を比較しつつ、その本質を問う。

カウンターカルチャーとしてのヨーロッパの「グリーン」がニッポンで「エコ」と「ロハス」に姿を変える壮大なる旅路(前編)

2008年10月20日

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奈良・正倉院の宝物からジャミロクワイ、そしてミシュランと古来より綿々と西域の新奇なる文物が本朝に伝えられてまいりました。そして、我々現代ニッポンジンの生活にさまざまな恩恵と知恵をもたらしています。ジャズとファンクとポップスの適切な調合方法とか、彼女の誕生日の晩餐は1年前に予約しなくてはいけないこととか。ユーラシア大陸の西端にあるヨーロッパ半島で生まれた「環境保護運動」も、そのような文物の一つであります。

よくヒトから聞かれるし、ジブンでも考えるんです。なんでヨーロッパ人は環境保護に熱心なのかって。人権とかならやっぱホロコーストの記憶みたいなものが大きいと思うのですが。環境は「コレ」っていう決定的なのがない。

ただ、確かに今日のヨーロッパって大規模な環境破壊の結果として成り立っているとは言えると思うんです。渡航された経験のある方はご存じかもしれません。飛行機から見るヨーロッパって、農地や牧草地がなだらかに起伏しながら延々と続いている。見渡すかぎり緑。「ワ〜きれいだな」って思っちゃいます。

でもね、あれ、もともと全部森だったんです。木を切って切って切りまくって森を丸裸にして農地や牧草地にしたわけ。僅かに残った森の例がドイツの「黒い森」。日本でも有名だけど、この「黒い森」。期待して行ってみるとシンガポールのライオン君並にガッカリさせてくれます。日本人的感覚で見ると「森」というより「林」。酸性雨の影響なのかもしれないけど。あの程度の「森」が珍重されるってのは、ヨーロッパ人の喪失感の裏返しなんでしょうね。

地形的にみれば、おそらく房総半島をですね、今みたいに虫食い的にゴルフ場をつくるんじゃなくて、全部隅から隅まで木を切って「ゴルフ場半島」にしちゃえば、空から見たらヨーロッパと同じような感じになりますよ。起伏の感じも似てるしね。

ま、それはともかく、ヨーロッパ人の環境意識を説明するための歴史的「贖罪意識」説には他にもいくつかバリエーションがあります。たとえば、ベートーベンが難聴になったのは鉛に汚染された魚を食べていたからだっていう話があります。幻のEU「国歌」の作曲家ベートーベン先生(注)はある意味象徴ですが、昔から有害物質の被害があったからヨーロッパは鉛とかの有害物質使用に厳しいんだって言うヒトは少なくない。

(注)結局批准されませんでしたが、欧州憲法条約案にはベートーベンの「歓喜の歌」が「EUの歌」として規定されていました。よくイタリアとフランスが受け入れたもんだと驚いた次第。フランス的には「やっぱドビッシーだろ」とかね。「ヨーロッパの音楽院」チェコも起草時に加盟していたら黙っていなかったかも。第9人気は日本だけじゃないということで。

もちろん、この手の説明、歴史を遡れば他にも使えるアネクドートはたくさんあります。たとえば、古代ローマ帝国の衰退の原因の一つが鉛中毒だったという説とか。ローマでは水道管や鍋に銅が使われていたため市民が鉛中毒にかかって社会の頽廃化に拍車がかかったらしいです。

ちなみにEUは電気電子製品に鉛その他の有害物質を使うことを世界で最初に禁止しました。この規制は世界に伝播し、最近だとトルコまでEUと同様の規制を導入。本朝は鉛が使える希少な場所になりつつあります。鎌倉幕府の滅亡の原因が鉛中毒だったなんて説があったらまた別だったのかもしれないけど(笑)。

いろいろありますが、ワタシの中に「環境のヨーロッパ」を最初に強く印象づけた出来事は、何といってもドイツの「緑の党」の躍進です。最初に「緑の党」のことを耳にしたのがいつだったのか、はっきり憶えてはいないのですが、1987年の西ドイツの総選挙で8%を超える得票率を得たことは日本でも大きく報道されました。ちょうどその前年の1986年にはソ連のチェルノブイリ原発の事故があって反原発の動きも追い風になったわけですが(しかし、「反原発」ですよ。環境といっても随分今と論調がちがいますね)。

この「緑の党」の存在感は「ヨーロッパ」と「グリーン」を世界の多くの人の頭のなかで結びつける役割を果たしたと思います。すくなくとも小生についてはそうでした。とはいっても、当時小生は社会人になったばかり。この「グリーン」なる珍妙な政治結社、15年後に彼らのホームグラウンドまで出かけて行って対決したり手を組んだりする相手になるとは夢にも思いませんでした。人生わかんないもんっすね。

そして、今日最後に申し上げたいことは、「グリーン」は「カウンターカルチャー(反体制文化)」として登場したということです。そして、このカウンターカルチャーとしての「グリーン」がメインストリーム化(体制化)していく、その旅路を、あと2回ぐらいかけてかの地と本朝で比較してみようかと。そして、最後に昨今の「エコ」ブームについて何がしかの視点をねつ造してみようという魂胆です。
You are going to love it!

ということで、また来週〜

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プロフィール

1964年生まれ。経済産業研究所コンサルティングフェロー。経済産業省通商機構部参事官。著書に「ヨーロッパのCSRと日本のCSR-何が違い、何を学ぶのか」、共著に「グローバルCSR調達」がある。

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