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藤井敏彦の「CSRの本質」

企業の社会的責任(CSR)とは何なのか。欧米と日本を比較しつつ、その本質を問う。

人権と国家主権についてのCSR的感想文(前編) 〜 もう一つのヨーロッパ

2008年8月25日

(これまでの 藤井敏彦の「CSRの本質」はこちら

世の中、社会人にも夏休みってもんがあるらしい、というくらいの勢いで出勤する私。仕事の区切りが夏にきてくれるおかげで、かれこれ4年間夏休みとご縁がありません。今回はせめて気分だけでも夏休みっぽく、ということで、読書感想文スタイルで行こうかと(笑)。ただ、とても硬いタイトルで、あまり多くの人の関心を引かないかも。

友人の大学の先生がしばらく前に紹介してくれた論文がありまして、Andrew Moravcsik大先生が2000年に出した“The Origins of Human Rights Regimes: Democratic Delegation in Postwar Europe”という論文です。

最初読んで「おお、コレハ面白い!」と思いまして、先週末少し時間があったのでもう一度読んでみた次第です(ホントはWTOの紛争解決機関の報告書(判決)でも読むほうが仕事の上ではよいのですが。。。)。

まず、論文を理解するための基礎知識を押さえておきましょう。みなさん、「欧州評議会」ってご存じですか? これ、欧州連合(European Union)とも欧州共同体(European Communities)ともちがう、独立した組織です。英語ではCouncil of Europeと言います。実はベルギーでEU相手に仕事していた私にとっても当時はこの「欧州評議会」は謎の組織でした。「何やってんだろ」って。

欧州議員へのロビーイングのために、毎月一週間、議事堂のあるフランスのストラスブール(「最後の授業」の舞台となった独仏国境の町です)に滞在していたのですが、欧州評議会もストラスブールにあるんですね。ある意味、これらの機関は、独仏の和解の象徴として、両国が取ったり取られたりを繰り返した国境の町ストラスブールに置かれたわけです。

メンバーはすごいです。欧州評議会の加盟国は47カ国。ちなみにEUは27カ国で構成されているので、EUよりずっと多くの国が加盟していることになります。たとえば、EUになかなか入れてもらえないトルコも1949年から欧州評議会のメンバーです。我が道を行く、孤高の「KY」国、スイスもここには入っています。1996年にはロシアも加盟。だから、もし欧州評議会のメンバー国を「ヨーロッパ」と定義しちゃうと、北海道のすぐ北はもうヨーロッパってことに。

欧州評議会の目的は、というと、民主主義と法の支配の保護、人権の保護、差別、排他主義、環境権などのヨーロッパ社会が直面する問題への対応、などなどがあげられています。

ヨーロッパの経済的な統合は欧州石炭鉄鋼共同体からECへと進みますが、欧州評議会は主に社会的な面での欧州統合を担ったという言い方もできるかもしれません。

欧州評議会が生んだ最も大きな成果が「欧州人権裁判所」です。欧州評議会が1950年に締結した「欧州人権条約」に基づく欧州人権裁判所は今日世界で最も効果的に機能している国際裁判所の一つと評価されています。加盟国にいる個人は、市民であろうと、難民であろうと、何人でも加盟国家を欧州人権裁判に訴えることが可能で、裁判所の判決は被告たる国家を拘束します。

つまり、加盟国は自国民や自国にいる難民等の外国人から超国家的裁判所に訴えられて、被告席に座らされ、挙げ句に負けた日には、判決の履行義務を負うわけです。国内裁判所ならわかりますが、なにせ裁くのは「欧州」人権裁判所です。あきらかに国家主権を一部国際機関に譲渡している。ここに人権と国家主権の調整の問題が発生するわけであります。

え、そろそろここらあたりから佳境に入るってところですが、今回はナツヤスミ気分ということで、尻切れトンボ的ですが、読者各位のご海容を得て次回に続けたいと思います。

区民プールでも行こっかな。

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プロフィール

1964年生まれ。経済産業研究所コンサルティングフェロー。経済産業省通商機構部参事官。著書に「ヨーロッパのCSRと日本のCSR-何が違い、何を学ぶのか」、共著に「グローバルCSR調達」がある。

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