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藤井敏彦の「CSRの本質」

企業の社会的責任(CSR)とは何なのか。欧米と日本を比較しつつ、その本質を問う。

ヨーロッパは美味しい?食事の鉄のカーテンを考える

2008年4月21日

(これまでの 藤井敏彦の「CSRの本質」はこちら)

 前回は「リベラル」って言葉の使いかたがヨーロッパとアメリカではある意味正反対ですというお話でした。「フムフム、なるほどぉって思ったよ」と連絡くれた方もいたりして比較的好評でした。毎度ご贔屓ありがとうございます。

 さて、ヨーロッパとアメリカはもちろん大きく違いますが、ヨーロッパの中にもいろんな違いがあります。今回は今なおヨーロッパを分断する恐るべき「鉄のカーテン」について取り上げます。といっても、東西冷戦の話をしようというわけではありません。「食事」についての鉄のカーテンであります。CSRは一休み。ちょっと気分転換ということで。

 本当の「鉄のカーテン」はウィンストン・チャーチルがアメリカのミズーリ州で行った演説で使った言葉です。チャーチルは第二次世界大戦を戦い抜いた最も偉大な指導者といわれながら1945年に首相の座を追われます。当時浪人中だった彼はヨーロッパの東西が大陸を横断する鉄のカーテンによって分断されていると述べます。これがソ連の覇権主義を予見したということで後に知られるところとなるわけです。もっとも、まだ西側がソ連に対して一種の「幻想」を抱いていた時期であったので、当時は強い批判を浴びたのですが。

 冷戦の鉄のカーテンは旧西ドイツと旧東ドイツの国境となり、そのまま南下してオーストリアを西にチェコを東に隔てるようにかかっていました。さて、食事に関する鉄のカーテンは本物の鉄のカーテンがあったところよりも少し西側にあります。オランダを東、ベルギーを西に分け、ドイツの西の端、ちょうどライン川の周辺を西に分けます。したがってドイツの大半は「向こう側」に入ります。

 食事は好き好きで個人の嗜好の問題なので、ワタシの意見に反対の方も多くいらっしゃるとは思います。でも、でも、やっぱり「食事の鉄のカーテン」を隔てた東側には美味しいものが相対的に少ないような気がします。ないとはいいません。ドイツのソーセージ、ワタシ大好きだし。それでも、レストランでがっかりする確率は高いと思います。あくまで個人的見解です。家庭料理はまた別で、レストランの問題だという人もいるのでそうかもしれませんが。

 仮にレストランの問題にしても、それにしても、ベルギーとオランダって隣り合う小国同士で兄弟みたいな感じなのに、なんであそこまで食事に対する情熱に差があるのか。大変興味深いです。ベルギーは美味しいですよ!アムステルダムから出張してきた友人がベルギーのサンドイッチ(ごく普通)に感涙してました(笑)。ドイツのライン川やモーゼル川沿いの町や村でもとても美味しい食事にありつけます。

 旧西ドイツの首都憶えていますか?ボンでしたよね。「ボン」といえばフランス語で「良い」です。ゲルマン系の単語の響きではないです。明らかにラテン系の単語で、実際、ボンはライン川の「良い」砦ということで入植したローマ人がつけた名前に由来します。ライン川流域より西がローマの支配下に入り、東はローマの支配を経験していません。

 食事に関する鉄のカーテンは奇しくもローマ帝国の版図の境界線に一致しています。冷戦の鉄のカーテンがなくなったのは20世紀の終盤、西ローマ帝国が滅んだのは5世紀の終わりです。その15世紀の差をものともせず、西ローマがつくり出した境界線はいまだに深遠なる影響をヨーロッパの日常に与えている(と思います)。ちなみにローマの版図の外延はほぼワイン用のぶどうの栽培限界と一致しています。ローマはヨーロッパでワイン用ぶどうが採れるところはすべて領土にしたわけですね。

 しかし、時は21世紀であります。この情報化社会において、なぜ美味しい料理が「向こう側」に伝播しないのでしょう?日本はどこからでも何でも吸収しちゃうのに。なぜオランダの人たちはベルギーに学ばないのだろう?このあたり、ワタシがヨーロッパに感じる大きな魅力でもあるのですが。情報化だろうがグローバル化だろうが、世の中均質になんかなんないよ、っていう力強さ。資本の論理に服従しない潔さ、とまでいうと言い過ぎかもしれませんが。ま、なにはともあれ、勤務地が「こっち側」でよかったです。

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プロフィール

1964年生まれ。経済産業研究所コンサルティングフェロー。経済産業省通商機構部参事官。著書に「ヨーロッパのCSRと日本のCSR-何が違い、何を学ぶのか」、共著に「グローバルCSR調達」がある。

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