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藤井敏彦の「CSRの本質」

企業の社会的責任(CSR)とは何なのか。欧米と日本を比較しつつ、その本質を問う。

「リベラル」なヨーロッパって?

2008年4月14日

(これまでの 藤井敏彦の「CSRの本質」はこちら)

 前回の「ヨーロッパよ、お前もか...」では、ヨーロッパでは「ソシアル」から「リベラル」へと政策の重心が移りつつあって、CSRも変質している、とお話しました。で、今回は「リベラル」とか「ソシアル」って何?っていう硬いお話なのですが、その前に、ちょっと横道に。

 前回ご紹介したドイツの辻さんからいただいたメールに「豆乳が健康にいいから社会の役に立っている」っていうくだりがありました。「ハハハ、いかにもありそう!」と共感してくれた方もいたよう。実際、会社のCSR報告書のページの結構な割合が「豆乳が健康にいいからCSR」系ですよね。「省エネにいい」とか「生活を豊かにする」とか何種類かパターンありますけど。製品カタログを読んでいるような気分を味あわせてくれます。一時「ロハス」が流行りましたね。「豆乳は健康にいい=ロハス=CSR」みたいな。もっとも、ワタシが会社勤めしていてCSR担当だったら、やっぱりこの手の話をしちゃうと思います。組織人としてはよくわかります。ただ、少し馴染めない人もいるんじゃないかな。美しすぎる言葉で明るくお仕舞いにすることに。あなたがもしそうなら、その健全な懐疑心を大切にしてくださいね。

 では、小難しい話題に戻りましょう。今回のお題には「リベラル」とありますが、この「リベラル」という言葉が持つ語感は微妙です。リベラル派の弁護士なんて言うと、人権弁護士さんといった感じです。リベラルな経済政策というと弱きに優しい政策といった感じです。もし読者がそのような感じを持たれたとすると、アメリカの影響かもしれません。

 アメリカでは「保守」と「リベラル」が、それぞれ共和党、民主党の政策を指し示す言葉として使われることがあります。例えば中絶問題について単純化して言えば、「保守的」な共和党は反対で、「リベラル」な民主党は相対的に寛容。これを経済政策にもそのまま当てはめるとこうなります。保守的」な共和党は市場至上主義的で、「リベラル」な民主党は政府の介入により積極的。

 もちろん色々な使われ方をするので一概には言えないのですが、今申し上げたようなアメリカ的「リベラル」とヨーロッパの言う「リベラル」は「ねじれ」の位置関係にあります。そもそも考えてみればリベラルって「自由」ってことですよね。リベラリズムは自由主義。「社会規範」よりも個人の選択の自由に重きを置きます。だからたとえば中絶のような問題についても個人の選択の自由を重んじる。この点においてアメリカとヨーロッパの「リベラル」は同じ。経済政策についていえば、ヨーロッパのリベラルはあくまで字句どおり選択の「自由」の重視、すなわち市場主義になります。こっちはアメリカの「リベラル」と正反対ですね。

 経済政策に限っていえば、アメリカでは市場重視が「保守」でその反対が「リベラル」。ヨーロッパでは市場重視が「リベラル」で、その反対は「ソシアル」すなわち「社会的」です。「リベラル」が個人の選択の自由を重んじ、「ソシアル」は平等とか環境とかの一定の社会規範により大きな価値を見出します。

 イギリスのブレア氏が「第3の道」を掲げて登場したとき、ずいぶん話題になりました。「リベラル」でも「ソシアル」でもない、真ん中を行こうか、という発想でした。ヨーロッパでは時にリベラルが主流思想になり、時にソシアルが政策の基調となります。ヨーロッパ全体が2つの概念の間を行き来している。同時にヨーロッパの中には国によって「リベラル」な思想が強く根を張っている国と「ソシアル」な考え方をする傾向の強い国の別もあります。前者はたとえば、イギリス、オランダ。後者の例はフランス、ドイツでしょうか。

 CSRを生んだ2000年当時のヨーロッパは「ソシアル・ヨーロッパ」でした。イギリスもCSRに大変熱心でしたが、労働党政権下のイギリスでした。

 そして現在のヨーロッパの思考の軸は「リベラル」に傾いています。この転換がCSRにも影響を及ぼしているわけです。リベラルな考えかたは企業の利潤追求に制約を課さないこと基本とするので、CSRもそのようなものとして静かに再構築されてきたと言えるかと思います。

 「CSRって言うけど、会社にとっては儲けることが第一。儲けにプラスになるならCSRもいいんじゃない。」とお考えになっているあなた、あなたは大変「リベラル」な思想の持ち主でいらっしゃいます。

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プロフィール

1964年生まれ。経済産業研究所コンサルティングフェロー。経済産業省通商機構部参事官。著書に「ヨーロッパのCSRと日本のCSR-何が違い、何を学ぶのか」、共著に「グローバルCSR調達」がある。

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