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藤井敏彦の「CSRの本質」

企業の社会的責任(CSR)とは何なのか。欧米と日本を比較しつつ、その本質を問う。

早晩アフリカを避けることはできなくなる

2008年2月11日

(これまでの 藤井敏彦の「CSRの本質」はこちら)

〜2008年のCSRはこうなる!(5)〜

「グローバリゼーションの光と陰」、使い古された常套句かもしれません。しかし今回あえて取り上げてみようと思います。グローバリゼーションの「陰」には全く違う二種類の「陰」があるとワタシは考えてきました。一つの「陰」の典型例は中国やインドなどの児童労働問題。もう一つの「陰」の典型例はアフリカの栄養失調の子供たちです。どう違うのでしょうか?

 前者は急速に進展するグローバリゼーションの内側で起こっていること。グローバリゼーションの中には陽光を浴びている部分とその陰となっている部分があります。

 国際的直接投資の力はアジアその他の発展途上国の漁村、農村を瞬く間に工業製品の輸出基地へと変質させました。同時に資本の力は過去何百年と土地に縛り付けられ貧困と隣り合わせに生きてきた人々に一定の自由と経済的豊かさを与えました。飢饉で多くの生命が失われることはもはやありません。グローバリゼーションの光です。30年前の中国には幼気な女の子が工場で働く姿はなかったでしょうが、当時の子供たちは定期的に襲ってくる疫病や飢饉を乗り越えるだけの幸運に恵まれなければ人生はすぐに終わってしまったのです。

 それにしても資本は突然やってきて強引に状況を変えてしまった。結果として児童労働や長時間労働などの人権侵害問題が発生しています。これがグローバリゼーションの内側の「陰」。そこでは光と陰が綾をなしています。

 後者、すなわち多くのアフリカの問題はグローバリゼーションの外側の事態です。グローバリゼーションとは独立した問題として存在してきました。頻繁に起こる内戦も含めたガバナンスの欠如が大きな原因です。市場メカニズムが機能するための基本的基盤の欠如し、その結果として投資機会が決定的に不足しています。(時に誤解があるのですが必ずしも最貧国で「資本」が不足しているわけではありません。そのような国の多くではごく一部の超富裕層が資本を独占し先進国の金融資産を購入する形で「資本輸出」をしているというのが現実です。)考えてみれば北朝鮮の人々の苦しい生活状況は本質的に同じ問題とも言えます。別にグローバリゼーションは関係ありません。そこには光はなくすべてが陰に覆われているかのようです。

 この区別を明瞭にしておく必要があります。そうでないと処方箋を間違えかねないから。おそらくCSRとして、とりわけビジネスに統合された形としてのCSRを念頭に置けば、企業が一定の責任を負うことができるのはグローバリゼーションの内側に限定されるのではないでしょうか。もちろん、グローバリゼーションの内側と言ったときにはあらゆる直接、間接的な事業関係、資本関係、サプライチェーンを包含します。現に多くの日本企業がグローバルな規模でCSR調達に取り組みつつあります。

 他方、グローバリゼーションの外側に対しては、どうしても「援助」の話になってしまいます。広義の事業活動の外側の事態には、それが外側である限り、企業に出来ることはおそらくフィランソロピー的アプローチに限られるのではないでしょうか。一方、「援助」には先進国政府でも限界があるわけですから、ましてや企業にとってはなおさらです。企業の努力は当然高く評価されるべくですが、ひょっとすると「砂漠に水」をまいているのかもしれない。

 賛否はあるかと思いますが、とりあえずこのグローバリゼーションの内と外という二分法を前提においてみると、日本企業のアフリカ問題への関心の低さはある意味で理解できるわけです。それでもあえてCSRの文脈でアフリカを語ることに意味があるかと問うならば、この問いは日本企業のグローバルな事業戦略の中にアフリカが位置づけられるのか、との問いに置き換えられます。

 現時点ではきわめて例外的ケースを除けば回答は「否」です。しかし、事態は急速に変わる可能性があると思います。10年後の日本企業のグローバルな経営戦略の地理的外縁は大きく変化していると思うのです。少し楽観的に過ぎるでしょうか。でも、考えてみればわずか10年前、中国で「CSR調達」を展開しなければいけなくなると、誰も想像すらできなかったのですから。

 読者の皆さんはどうお考えでしょう。2008年を日本のCSRについてよりグローバルにそしてより長期的に考えてみる年にしてみませんか。

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プロフィール

1964年生まれ。経済産業研究所コンサルティングフェロー。経済産業省通商機構部参事官。著書に「ヨーロッパのCSRと日本のCSR-何が違い、何を学ぶのか」、共著に「グローバルCSR調達」がある。

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