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藤井敏彦の「CSRの本質」

企業の社会的責任(CSR)とは何なのか。欧米と日本を比較しつつ、その本質を問う。

オトナCSR相談室

2007年12月10日

(これまでの 藤井敏彦の「CSRの本質」はこちら。

みなさん、ご機嫌よう。オトナCSR相談室の時間がやってまいりました。悩み多きCSR担当者の皆さんのご質問に、CSRコンサルタントのトーマス・フジイがズバリお答え申し上げます。

さて、今日最初のご相談は、はい、東証一部上場某大手メーカーA社のBさんです。
「こんにちは〜、Bさん。どのようなご質問ですか。」
「はじめまして。トーマスさん。うちの会社では去年法令遵守の体制をつくりまして。日本版なんとか法ということで、うちの担当ではないのであまり詳しくないのですが。担当の部長が来年のCSR報告書の柱にしてくれ、と言っています。法令遵守はCSRとはちがうという話も聞いたことがあるので、どうしたものかと思っています。」
「はい、ズバリ結論です。法令遵守はCSRの根幹、まさに屋台骨です。CSRの精華とさえいえましょう。法令遵守なくしてCSRなし!CSRの「S」は「社会」の「S」ですよね。そもそも社会で一番大切なこと、それは会社も個人も同じでやはりルールを守るということではないでしょうか。CSRとは要するに倫理の問題ですよ。だから法令遵守がCSRでないなどという考えは常識に反するとしか言いようがありません。そうそう、好評を博している拙著「チャート式CSR入門」の第一章が法令遵守です。万一まだ手にされてなければ、お早めに。でないと早々に絶版に、いや、失礼。ともかく、ポイントですが、法令遵守体制はCSRの土台です。お隣の部長さんの言うとおり。ま、いろいろ別のことを言ったりしてる人もいるようですが、惑わされないように。深く考えすぎてはいけませんよ、Bさん。不祥事が頻発する今日こそCSRが求められています。コンプライアンスのCSRで不祥事を未然に防げば企業価値も向上するのです。」
「ありがとうございます。おかげでスッキリしました。おっしゃるとおりだと思います。」

はい、信ずるものは救われる、ですね。次の方は、某有名老舗企業C本舗にお勤めのDさんです。

「Dさん、お待たせしました。どうぞ〜」
「あ、はい。トーマスさん、うちは江戸末期から続く会社なのですが、社長が『三方よし』の考え方に感化されまして、三方よしでCSRをやろうと言っています。本を読んだりして考え方はだいたいわかるのですが、実際のところどうすればいいかアドバイスいただけますか」
「すばらしいご質問、ありがとうございます。近江商人の三方よし、商売は売り買いの当事者の都合だけでなくて社会にも良いものではなくてはいけない、今でいうステークホルダーの発想の先駆け、日本が世界に誇る思想ですね。CSRなんて洋語を使わなくても、昔から日本にあったのですよ。いわば日本のCSRのDNAとでも言いましょうか。お答えは簡単です。老舗さんだからきっと社訓があるでしょう。」
「ええ、あります」
「勝利の方程式を伝授しましょう。「社訓×三方よし=社長のコミットメント」これですよ、Dさん。SRIとかCSRランキングの審査委員も社長のコミットメントを重視しますからね。そのとき、やっぱり我々日本人ですから、日本には日本のCSR、これに限ります。もちろん言葉だけではいけないのですけど、伝統ある御社なら地域貢献は何かされているでしょう。お祭りの時寄進するとか。お客様にも愛されて、まさに三方よしの神髄を体現されている。ある私のクライアントの例ですが、この秘伝の方程式で、SRIの評価が一気にCからAですよ。物は言い様とはよく言ったものです。この点も「チャート式」に書いてありますよ。」
「なるほど、すごいですね。あと、細かいことで恐縮なのですが、英語にするときはどうしたらいいですか」
「『サンポーヨシ』は今や『カイゼン』と並ぶ世界語ですからご心配無用。そのままでOKですよ。ただ、限界あるかもしれません。この前CSRの国際会議に出ましたら、日本産業団体協会連合会総連盟の方が1時間にわたって近江の商人道について熱く説かれてね。感動しました、私。でも、外国の方はピンときてない様子で、駄目ですかね、やっぱり西洋人には。砂漠化とか児童労働とかなんだか遠い話をしてましたけど、所詮精神の部分までいかないというか。改めて深みある日本のCSRは凄いなあと思いました。」
「なるほど、いわば『和のCSR』ですね。社長も気に入りそうです。ありがとうございます。」

はい、今日はお二人の方のご質問にお答えしました。会社はちがってもCSRご担当者の悩みは思いのほか共通しているものです。みなさん、是非参考にしてくださいね。ではまた次回。さようなら〜。

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注1 すべて架空です。でも、現実はもっと奇です。
注2 当ブログを初めてごらんになった方は誤解を避けるためにこれまでの「CSRの本質」もあわせご覧くださいますようお願い申し上げます。
注3 オトナCSR相談室は不定期にお届けいたします。

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プロフィール

1964年生まれ。経済産業研究所コンサルティングフェロー。経済産業省通商機構部参事官。著書に「ヨーロッパのCSRと日本のCSR-何が違い、何を学ぶのか」、共著に「グローバルCSR調達」がある。

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