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藤井敏彦の「CSRの本質」

企業の社会的責任(CSR)とは何なのか。欧米と日本を比較しつつ、その本質を問う。

ミャンマーで起きたこととCSR

2007年11月12日

(これまでの 藤井敏彦の「CSRの本質」はこちら。

 先月、出張先のホテルでテレビをつけるとBBCで討論番組をやっていました。ゲストはアメリカでミャンマーの軍事政権に反対する活動を続ける人物。BBCのアナウンサーは容赦なく難しい質問を投げかけます。民主化を実現するためには国際社会はミャンマーをより孤立させたほうがよいのか、それとも対話を通じて関与を強めることが効果的なのか等々。なかでもワタシの関心を引いた質問はパリに本部を置く国際石油資本のトタルについてのものでした。トタルはF1をはじめモータースポーツを積極的にスポンサーしているので名前を聞いたことがある方も多いかと思います。同社のミャンマーでの事業が軍事政権を潤しているとの批判があることを指摘したうえで、アナウンサーはこう問いかけます。「EU(欧州連合)がミャンマーに対する制裁強化に踏み切った場合でもトタル社は同国から撤退する意志はないと明言しているが、コメントは?」答えるゲストの口から「企業の社会的責任」という言葉が何度も発せられました。もっとも、回答のラインは「社会的責任を考える企業もあれば、利益しか考えない企業もある、様々な企業に対してミャンマーの実情を訴えていきたい」といういたって常識的なものでしたが。

 ミャンマーの軍事政権が民衆の抗議行動を武力鎮圧し犠牲者が出たことはつい最近のことです。誠に遺憾なことに我が同胞にも犠牲者がでました。ことの成り行きはメディアに大きく取り上げられました。日頃接点の薄い東南アジアの国での出来事を切実な問題として受け取られた方も多いかと思います。

 BBCの例を紹介しましたが、日本とヨーロッパのメディアの反応の差異には興味深いものがあります。日本では、テレビも新聞もワタシの知る限りほぼ例外なくこんな締めくくりでした。「この事態に政府はどう対処するのか」、「政府の外交力が今問われている」、「政府は制裁強化をすべきだ」云々。すべての問いかけは政府に対してなさたわけです。しかし、ヨーロッパでは少し状況が異なります。トタル社の例をあげましたが、政府だけではなく企業にも様々な問題提起がなされ、自社の方針を述べることを余儀なくされた企業もあったのです。

 国内では関心を引くことはほとんどありませんが、多くの日本企業がミャンマーで事業を展開しており、既にアメリカやヨーロッパのNGOから指弾されている企業もあります。ただし、ここでワタシはなにもミャンマーで事業をすることがすなわち悪であるといった過度に単純化された議論に与しようというわけではありません。医療機関にコンピューターを納入していることまで批判の対象となっている現状に戸惑いさえ覚えています。

 ワタシが読者各位の関心を喚起したいポイントは企業の社会的責任として語られる事柄の彼我の差にあります。ミャンマーで起きたことに限られません。人種隔離政策をとった旧政権時代の南アフリカもまた然りです。欧米のNGOは日本企業を含む多くの企業がアパルトヘイトの維持に直接、間接の協力をしたと強い批判をしています。

「主権国家による自国民の人権侵害」という問題設定をしてみましょう。日本で「CSR」が語られるときのCSR観の広がりがどの程度のものであるかを考える上で一つの尺度となるような気がするのです。

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プロフィール

1964年生まれ。経済産業研究所コンサルティングフェロー。経済産業省通商機構部参事官。著書に「ヨーロッパのCSRと日本のCSR-何が違い、何を学ぶのか」、共著に「グローバルCSR調達」がある。

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