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デザイン・ビジュアライゼーションが変えるマーケティング・ワークフロー

高品質CGのリアルな表現は、広告とプロダクトデザインをどう変えるのか。

広告の現場で撮影がなくなる? 〜 知らないうちに使われているデザイン・ビジュアライゼーション

2008年11月 6日

ゲームやエンターテインメントの世界を中心として発展してきたCGの世界で、最近注目されているキーワードが、ビジネスシーンで高品質なCGを活用する「デザイン・ビジュアライゼーション」である。デザイン・ビジュアライゼーションとはいったい何なのか、またビジネスをどのように変えていくのだろうか。デザイン・ビジュアライゼーションの市場拡大を目指し、その活用を積極的に推進する長尾健作氏(株式会社パーチ)にお話をうかがった(全8回)。

(第1回から続く)

──デザイン・ビジュアライゼーションを、実際に私たちが日常生活で目にする機会はあるんでしょうか。

長尾:みなさんが接する機会が多いのは、広告に使われているデザイン・ビジュアライゼーションですね。例えば自動車関連の広告は、写真は全く撮影せず全てCGのみで制作しているものがすでにあります。

顕著なのがタイヤの広告ですね。真っ黒なので撮影が難しいとカメラマンからは言われていたのですが、4年ほど前から全てCGになっていて、撮影は全くなくなっています。

──自動車そのものの広告にもデザイン・ビジュアライゼーションは使われているんですか?

長尾:ええ、そうです。国内の大手自動車メーカーでは既に、自社広告の100%CG化を宣言しているところもあります。撮影用の車を作り、運び、動かすことを考えるとそれだけでも大変な費用がかかります。これをCG化するということは、経費削減効果が大きいのです。


Image courtesy of With a Twist Studio

多くの広告に登場する商品が、写真からデザイン・ビジュアライゼーションに変わっているのですが、一般の生活者の方はもちろん、広告業界の人でも気づいていない人は多いですね。デザイン・ビジュアライゼーションのセミナーに来られた広告業界のクリエイターでも、この話をすると驚かれる方は多いです。

──こんなにリアルなら、もう広告用の撮影はいらないんじゃないかという気がしてきます。

長尾:ええ、そうなりつつありますよ。自動車や住宅設備など、作るのが大変なものは、CGに置き換えることで時間とコストを削減しようという動きが顕著です。今、自動車専門の撮影スタジオはどこも大変だと思います。

実際にデザイン・ビジュアライゼーションで作成された自動車などの広告が増えるにつれて、家電製品や時計など、他の分野の広告にもデザイン・ビジュアライゼーションは取り入れられつつあります。

──CGを使った広告、っていうと、例えばビールの泡とか、近未来的なロボットとか、そういうものをCGでリアルに作るっていうのもありますよね。

長尾:それはCGですけど、デザイン・ビジュアライゼーションとは違いますね。デザイン・ビジュアライゼーションのCGは、きれいに見せるとか、自由な表現を可能にするというのではなく、図面で設計されたものを忠実に具現化するためのものです。

実際の製品やモックアップを作って撮影するよりは、設計データを元にCGを作ってそこにテクスチャーを貼り、カメラ角度とライティングを設定してレンダリングする方が、早く、安くできるから、撮影がデザイン・ビジュアライゼーションに置き換わってきているのです。

要するに、CADデータを元にしたCGであり、あくまでも設計データを元にしたリアルなシミュレーションなんですよ。ビールの泡はCADデータで設計したものではないですよね(笑)。

──なるほど、そう考えるとたしかにビールの泡は違いますね。デザイン・ビジュアライゼーションで作った製品を、実写の背景の中に置いて、最終的な画像を作るというプロセスが一般的なんでしょうか。

長尾:そういう作り方ももちろんありますが、最近は撮影セットや背景にもデザイン・ビジュアライゼーションを使用しているケースが増えています。


Image courtesy of Herminio R. Jalocon Jr

日本国内にいながら海外の建物を背景にした撮影をしたり、実際には存在しない建物の前に商品を置くこともできます。これも、時間やコストの制約から自由な表現を可能にする、デザイン・ビジュアライゼーションの可能性です。

──これは、いかにも海外のリゾートホテルっぽい風景ですね。こういうものまでCGで作ってしまえるとなると、広告制作のためのロケは完全になくなってしまいそうです。

長尾:現場はどんどんそうなっていますね。ただ、見る側の意見としては、いくらリアルなCGでも「実物じゃない」というネガティブな受け取り方をされる方もいらっしゃいます。

そうした方に配慮して、自社の広告やカタログに、デザイン・ビジュアライゼーションを取り入れていることを、積極的に公表しない企業も多いんです。でも、見た目には写真と区別がつかないものですから、皆さん知らないうちに目にしていると思いますよ。

(第3回に続く)

語り手プロフィール

長尾 健作

株式会社パーチ代表。大手制作会社でのデジタル化推進・ビジュアライゼーション事業の起ち上げに携わった後、起業。ビジュアライゼーション事業を推進する企業およびクリエイターのサポートを手がけると共に、市場創造のための講演活動を行っている。
PERCH デザインビジュアライゼーション

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プロフィール

聞き手・板垣 朝子

WIRED VISION 編集委員。物理学を学び、システムコンサルタント見習いを経てライターとして独立。「技術と科学が社会をどう変え、ヒトをどう幸せにするのか」に関心を持つ。

オートデスクについて

設計(デザイン)およびデジタルコンテンツ制作、管理、配信に関わるソフトウェア分野で世界規模リーディングカンパニーとしてパワフルなテクノロジー製品とサービスを提供している。