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デザイン・ビジュアライゼーションが変えるマーケティング・ワークフロー

高品質CGのリアルな表現は、広告とプロダクトデザインをどう変えるのか。

解決する課題その2:コスト&サスティナビリティ

2008年12月11日

ゲームやエンターテインメントの世界を中心として発展してきたCGの世界で、最近注目されているキーワードが、ビジネスシーンで高品質なCGを活用する「デザイン・ビジュアライゼーション」である。デザイン・ビジュアライゼーションとはいったい何なのか、またビジネスをどのように変えていくのだろうか。デザイン・ビジュアライゼーションの市場拡大を目指し、その活用を積極的に推進する長尾健作氏(株式会社パーチ)にお話をうかがった(全8回)。

(第5回から続く)

──製品のモックアップを作らなくてもいいということ以外にも、デジタル・ビジュアライゼーションを活用するメリットはあるんでしょうか。

長尾:住宅設備機器などの大型製品の広告やカタログを作る時に、スタジオ撮影の代わりにデジタル・ビジュアライゼーションのCGを活用するケースが最近は増えています。

──住宅機器っていうと、例えばシステムキッチンとか?

長尾:いい例が出たのでそれで説明しましょう。システムキッチンの撮影をする時って、大型のスタジオを4つぐらいに仕切って、それぞれのコマに別々に部屋のセットを作るんです。1つのセットの撮影が終わったらそのセットを取り壊して、他のコマを撮影している間に別のカット用のセットを組んで、の繰り返しなんです。

セットを組んでは壊してまた組んで、の繰り返しで、例えば10セット分撮影するにも1ヶ月ぐらいかかります。1つのセットを作るのに、数百万円から1000万円ぐらいのコストがかかります。そして、撮影に使った商品は、終了後に廃棄します。

──え、捨てちゃうんですか?!それはもったいない……

長尾:と思うでしょう。でも、撮影後のシステムキッチンって、「いらなくなったからあげます」って言われても持って帰るわけにもいかないし、言われた方も困るじゃないですか。新製品だと、広告やカタログを作っている段階では外部に出せないですし、結局、処分するしかないんです。

捨ててしまう商品だけでなく、撮影後に出る廃材なども合わせると大量の資源が撮影のためだけに使われ、捨てられることになります。デジタル・ビジュアライゼーションの活用で、こうした資源の無駄を減らすことができるんです。

──なるほど、コストだけではなくサスティナビリティにもつながるんですね

長尾:そうです。あとは期間が短縮できるのもメリットですね。スタジオを借りた撮影だと、資材の手配に1ヶ月、撮影に1ヶ月ぐらいはかかるのですが、CGを使うことでこの2ヶ月をまるまる画像制作に費やすことができます。メーカーさんに3次元CADが今よりももっと普及すればデータのコンバートが楽になりますから、さらに制作期間は短縮できます。

広告制作だけではなく商品開発の現場でも、デジタル・ビジュアライゼーションを使ったスタジオは活用されています。デザインされた商品を使用するシーンの中に置いたときにどのように見えるかのシミュレーションが行えるのがメリットです。


Image courtesy of www.graff3d.com

──実際にユーザーが商品を使う時にどのように見えるかは周囲の環境によるわけですから、置かれた状況による見え方をデザインにフィードバックしていくことは大事ですね。

長尾:グローバル展開しているメーカーではニーズが大きいです。国によって外の風景や部屋のインテリアも全く違うので、なかなか企画段階では海外の環境にマッチしたデザインやカラーリングを作るのが難しかったのですが、デジタル・ビジュアライゼーションを活用したミュレーションで、カラーリングやデザインを検討しています。

もちろん海外用のカタログや広告の写真を撮影する時にもデジタル・ビジュアライゼーションは活用されています。従来はモックアップを作って各国に配布して、現地で撮影を行っていましたが、モックアップをデジタル・ビジュアライゼーションのデータに置き換える企業が増えてきています。

──風景を作るのではなく、製品のデータを使うんですか。

長尾:緯度によって太陽の高度が違いますので、色の見え方が違ってきます。例えば自動車の場合、太陽の高度が低いヨーロッパなどの高緯度地域では彩度の高い色、逆に日本やアジアなどの低緯度地域では白やグレーなどの彩度の低い色というセオリーがあるぐらいです。

自動車メーカーでは実際に作った色がどのように見えるかのシミュレーションを行うために、海外各地の街の360度の天球画像に記録したHDR(High Dinamic Range※)を利用して、リアルな明るさを再現したシミュレーション用写真を撮影しています。

※High Dinamic Range:フィルムやCCDでは記録できる光の範囲が狭く、現実の世界の明るさをリアルにとらえきることはできない。これをカバーするために、露出を段階的に変えた複数枚の写真を合成して画像を作成する手法。ハリウッド映画でも使用されている。


Image courtesy of www.graff3d.com

──写真を撮影するにもずいぶん手間もコストもかかりそうですね。

長尾:確かにそうなんですが、大事なことですから、各社それぞれ撮影データは持っています。従来はこれを撮影用スタジオにある実物大のモニタに投影して、そこに車のモックアップを置いて撮影していました。

これをデジタル・ビジュアライゼーションで作成した製品データに置き換えることで、そのままCGとして合成が可能になるのでスタジオは不要になりますし、モックアップを配布するための輸送コストも不要になります。これも、長い目で見ればエコですし、サスティナビリティにもつながります。

(第7回に続く)

お知らせ

本連載の第1回で紹介した、「ビジュアライゼーションコンテスト2008」の優秀作品が発表されました。応募作品と入選作品について、長尾さんからメールでコメントをいただきました。

●応募作品全般について

昨年に比べて、画像のリアリティが向上したことはもちろんですが、「魅せる」という魅力的なビジュアルが多かったのが印象的でした。

使用されるソフトは、デザイン・ビジュアライゼーションで普及率が高い 3ds Max が多くをしめていたようですが、Mayaを使っている方との品質差はなく、やはりソフトウェアの能力向上に伴いリアリティは十分高いものが作れるので、「魅力的に魅せる力」が重視されてきていると思います。

●入選作品について

作者のコンセプトを感じる作品が入選作に選ばれているように思います。また情緒感を感じる、たとえて言うとフィルム写真のようなノスタルジーを感じるものが多かったですね。それと3DCGを使用した後のPhotoshopによる画像合成技術も高く、自分のコンセプトをより強調するために積極的に利用しているのが見てて取れます。

また、今回からプロダクトデザイン部門が設立されたことで、前回に比べてプロダクトを題材にしたビジュアルが増えました。デザイン・ビジュアライゼーションはプロダクト表現にも多く利用され「製品を魅力的に魅せる」カメラマン的センスが特に要求される分野ですので、その点に注意して作品を見ると楽しいと思います。

入選作品と応募作品ギャラリーは、ビジュアライゼーションコンテスト2008のWebサイトで公開されています。ぜひご覧ください。

語り手プロフィール

長尾 健作

株式会社パーチ代表。大手制作会社でのデジタル化推進・ビジュアライゼーション事業の起ち上げに携わった後、起業。ビジュアライゼーション事業を推進する企業およびクリエイターのサポートを手がけると共に、市場創造のための講演活動を行っている。
PERCH デザインビジュアライゼーション

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プロフィール

聞き手・板垣 朝子

WIRED VISION 編集委員。物理学を学び、システムコンサルタント見習いを経てライターとして独立。「技術と科学が社会をどう変え、ヒトをどう幸せにするのか」に関心を持つ。

オートデスクについて

設計(デザイン)およびデジタルコンテンツ制作、管理、配信に関わるソフトウェア分野で世界規模リーディングカンパニーとしてパワフルなテクノロジー製品とサービスを提供している。