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デザイン・ビジュアライゼーションが変えるマーケティング・ワークフロー

高品質CGのリアルな表現は、広告とプロダクトデザインをどう変えるのか。

デザイン・ビジュアライゼーションはこう作る(2)

2008年11月27日

ゲームやエンターテインメントの世界を中心として発展してきたCGの世界で、最近注目されているキーワードが、ビジネスシーンで高品質なCGを活用する「デザイン・ビジュアライゼーション」である。デザイン・ビジュアライゼーションとはいったい何なのか、またビジネスをどのように変えていくのだろうか。デザイン・ビジュアライゼーションの市場拡大を目指し、その活用を積極的に推進する長尾健作氏(株式会社パーチ)にお話をうかがった(全8回)。

(第3回から続く)

──ここまでの作業で、前回紹介したような写真と区別がつかないようなCGが完成するんですか?

長尾:いえ、ここまでは製品のCGを制作しただけで、実際にデザイン・ビジュアライゼーションとして制作するためには、さらに従来の撮影にあたる工程が必要です。具体的には、カメラ設定とアングルの設定、ライティング、そしてレンダリングです。ここからは、CGの技術だけでなく、カメラマンのセンスと知識が求められる工程になります。

プロカメラマンの多くは、撮影時にまずレンズを最初に決め、その後アングル(角度)、ライティングの順で決めていきます。3DCGでも、同じ手順で設定を行います。

──レンズから決める、というのはどんな意味があるんでしょう。

長尾:レンズを決める、というのは具体的に画角(=写る範囲)を決める作業になります。大きく分けると、画像の歪みが少なく背景と分離した製品画像が得られる望遠(狭角)レンズか、製品の背景を大きく写しこめる広角レンズのどちらを使うか、ということです。

これはどちらがいいというものではなく、写真の用途やコンセプトに合わせて使い分けるものです。広告写真では用途と目的の違いで「製品基本カット」と「イメージカット」の2種類の写真が制作されます。製品の色や形状を正確に伝える必要がある「製品基本カット」では望遠レンズの方が適していますし、製品を使用しているシチュエーションを見せたい「イメージカット」では広角レンズが適しています。

画角が決まったら、次はアングルです。具体的にどのような角度からとるのか、3DCG上でカメラを回して決めていきます。



家電メーカーの製品開発時のデザインビジュアライゼーションを想定して制作したサンプル画像(長尾氏提供)。設計データを元にした3DCGなので、クローズアップや回転なども自由に行える。

アングルが決まったらライティングを決めます。光源を設定してテストレンダリングをしながら、実際の製品の見え方を確認していきます。3ds MAXには、照らしたい場所と範囲を選んで光源を設定できる機能がありますので、こうした機能を活用しておおまかな配置を決めた後、微調整していくと作業が簡略化できます。光源を最終的にライティングが決定したら、レンダリングを行って画像を出力します。

ここから先は写真をスキャナーで取り込んだ時と同様の手順になります。制作作業の流れをチャートにしてみました。


デザイン・ビジュアライゼーション制作の流れ

──背景画像と製品のCGを合成するには、CGの背景のレイヤーに写真を貼ればいいんですか?

長尾:それだけだと不自然になります。自然に見せるには、背景によってライティングも変えなくてはいけません。例えば、室内に置かれた製品の写真を撮影するのに、背景に写真を使う場合は、ライティングを環境光に設定して、さらに影の調整のために窓の大きさの光源を設定するといった処理を行います。

──なんだか後半は、CG制作の話じゃなくてカメラマンの撮影の話を聞いているような感じがしてきました。

長尾:そうですね。3DCGソフトウェアは、現実世界で起こる現象をシミュレーションしているわけですが、じゃあ現実世界でどんなレンズで見るとどんな絵が撮れるのか、どんな光を当てるとどんなイメージが撮れるのかを一番知っているのはカメラマンです。魅力的なデジタル・ビジュアライゼーションを制作するためには、CGクリエイターが従来から持っていた技術的な知識だけではなく、カメラマンの撮影知識とセンスが求められます。

──パーチでは、CGクリエイター向けのトレーニングツールを開発していますよね。内容を拝見しましたが、ビデオを見ながら実際に3ds MAXを操作して、撮影ノウハウを生かしたCG制作を学べるのは面白いと思いました。デジタル・ビジュアライゼーションに対応できるCGクリエイターの育成は、大きな課題だと思いました。

(第5回に続く)


語り手プロフィール

長尾 健作

株式会社パーチ代表。大手制作会社でのデジタル化推進・ビジュアライゼーション事業の起ち上げに携わった後、起業。ビジュアライゼーション事業を推進する企業およびクリエイターのサポートを手がけると共に、市場創造のための講演活動を行っている。
PERCH デザインビジュアライゼーション

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プロフィール

聞き手・板垣 朝子

WIRED VISION 編集委員。物理学を学び、システムコンサルタント見習いを経てライターとして独立。「技術と科学が社会をどう変え、ヒトをどう幸せにするのか」に関心を持つ。

オートデスクについて

設計(デザイン)およびデジタルコンテンツ制作、管理、配信に関わるソフトウェア分野で世界規模リーディングカンパニーとしてパワフルなテクノロジー製品とサービスを提供している。