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デザイン・ビジュアライゼーションが変えるマーケティング・ワークフロー

高品質CGのリアルな表現は、広告とプロダクトデザインをどう変えるのか。

デザイン・ビジュアライゼーションの将来

2008年12月22日

ゲームやエンターテインメントの世界を中心として発展してきたCGの世界で、最近注目されているキーワードが、ビジネスシーンで高品質なCGを活用する「デザイン・ビジュアライゼーション」である。デザイン・ビジュアライゼーションとはいったい何なのか、またビジネスをどのように変えていくのだろうか。デザイン・ビジュアライゼーションの市場拡大を目指し、その活用を積極的に推進する長尾健作氏(株式会社パーチ)にお話をうかがった(全8回)。

(第7回から続く)

──ここまでビジネスにおけるデザイン・ビジュアライゼーションの意味と役割についてお話をうかがって、デザイン・ビジュアライゼーションを活用することで、プロダクト開発のフェーズのうち、設計以降の期間が短縮できる、コスト削減やサスティナビリティにつながるといったメリットがあることはよく分かりました。

でも一方で、それは、デザイナーやクリエイターにとって「デジタル化」という余計な重荷を背負わされていることになるような気もするんです。現場のデザイナーにとって、「覚えなくては取り残されてしまう」といった消極的な理由ではなく、積極的にデザイン・ビジュアライゼーションに取り組む意味はあるんでしょうか。

長尾:従来でも、デザインや商品企画の現場では、「絵を描く」ことが、コミュニケーションの主要な手段の一つでした。デジタル・ビジュアライゼーションは、その延長線上にあるものとしてとらえることができます。

形や色や、感覚的なものを言葉で伝えるのは難しいですが、実物を見せれば分かりやすくなる。でも、実際にないものを目の前に出して見せたり、写真に撮ったりすることはできないから、絵で伝えてきたわけです。デジタル・ビジュアライゼーションで、ほぼ写真と遜色ないレベルで、頭の中に描いているイメージを目の前に描き出すことで、イメージはより伝わりやすくなります。

ビジュアルで作るドキュメントとでも言えばいいでしょうか。自分の意図や思いを伝えるための道具のひとつとして使いこなすことで、仕事をしやすくする仕組みだと思います。


Image courtesy of With a Twist Studio

──今後、デザイン・ビジュアライゼーションは、どのように広がっていくと思いますか?

長尾:商品設計にCADを使っている業種には全て取り入れられていくと思います。自動車や携帯電話といった大小さまざまな機械類や、建築といった分野から、例えば工場の設計や、産業用ロボットなど、そうした分野にまで広がっていくでしょう。広告やカタログのための撮影は、デザイン・ビジュアライゼーションの活用で、どんどん減っていくと思います。

製品開発の現場でも、実際にCADデータに基づいてデジタル・ビジュアライゼーションでシミュレーションを繰り返すことで、トライアンドエラーでより良いものが作りやすくなります。試行錯誤をしやすくなる、自由度を上げる仕組みだと言えると思います。

さらに進んで、シミュレーションから現実の製品スペックが決まってくるようなことも起こりはじめています。

──というと、具体的にはどんなことでしょう。

長尾:最近、ある自動車メーカーの方から聞いたのですが、新製品開発時の「コンセプトカラー」を、デジタル・ビジュアライゼーションでシミュレーションして決めたという例があるそうです。

車のコンセプトカラーといえば、デザイナーが、フォルムやデザインに合わせて一番最初に決める色です。昔は、実際に塗料を塗った現物の色を、CGで再現していたのですが、実物ではなくデジタル・ビジュアライゼーションで決めて、その色を再現するように塗料の配合を決めていったという話です。

──これも、実物のシミュレーションというよりは、色の仕様を伝えるためのコミュニケーションツールとしてデザイン・ビジュアライゼーションが活用されている例ですね。

長尾:そうですね。少しずつ色を変えて試してみたい、といった時も、塗料を配合しなおしたり、色を塗りなおしたりするよりは、CGの色を変更する方がずっと手軽です。デザイナーの視点から見れば、自由度が大きく増す仕組みです。今後はこういうケースが増えてくるかもしれません。


Image courtesy of With a Twist Studio

──デザインの現場における「イメージを伝える」ためのコミュニケーションは、デジタル・ビジュアライゼーションに置き換わっていくんでしょうか。

長尾:手描きの絵の方が味があってよかった、という意見ももちろんあります。スケッチの「はね」に思いがこもっていたとか、そういうものはデジタル化されることで失われてしまうかもしれない。今はデジタルという新しい技術と手法へ関心が向いている時期ですが、デジタルを取り入れると、今度はアナログへのゆり戻しが必ずきます。

心に留めて欲しいのは、「アナログかデジタルか」って、どちらかを選ばなくてはいけないものではないということ。コミュニケーションツールとして、デジタル・ビジュアライゼーションと手描きのスケッチ、両方があっていいんです。大事なのは、デザイナーの思いとイメージを正しく伝えることで、より良いものを作ることだと思います。

──興味深いお話をありがとうございました。

(終)


語り手プロフィール

長尾 健作

株式会社パーチ代表。大手制作会社でのデジタル化推進・ビジュアライゼーション事業の起ち上げに携わった後、起業。ビジュアライゼーション事業を推進する企業およびクリエイターのサポートを手がけると共に、市場創造のための講演活動を行っている。
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プロフィール

聞き手・板垣 朝子

WIRED VISION 編集委員。物理学を学び、システムコンサルタント見習いを経てライターとして独立。「技術と科学が社会をどう変え、ヒトをどう幸せにするのか」に関心を持つ。

オートデスクについて

設計(デザイン)およびデジタルコンテンツ制作、管理、配信に関わるソフトウェア分野で世界規模リーディングカンパニーとしてパワフルなテクノロジー製品とサービスを提供している。