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デザイン・ビジュアライゼーションが変えるマーケティング・ワークフロー

高品質CGのリアルな表現は、広告とプロダクトデザインをどう変えるのか。

人材育成・求められるスキルはどう変わるのか

2008年12月18日

ゲームやエンターテインメントの世界を中心として発展してきたCGの世界で、最近注目されているキーワードが、ビジネスシーンで高品質なCGを活用する「デザイン・ビジュアライゼーション」である。デザイン・ビジュアライゼーションとはいったい何なのか、またビジネスをどのように変えていくのだろうか。デザイン・ビジュアライゼーションの市場拡大を目指し、その活用を積極的に推進する長尾健作氏(株式会社パーチ)にお話をうかがった(全8回)。

(第6回から続く)

──デザイン・ビジュアライゼーションには多くのメリットがあるわけですが、一方で従来のデザイナーの人達には、デザインそのものとは違う、ソフトウェアを扱うスキルが要求されるようになりますね。

長尾:覚えなくてはいけないことが多すぎて、大変だと思います。今まで手書きスケッチをしていた人がIllustratorを覚えろといわれて、正面・上面・底面の絵を描けるようになったら次はPhotoshopを覚えろといわれ、それもマスターしたら次は3Dを扱えるようになれと言われる。

現場によっては、プロダクトデザイナーがデザインを最初から3DCADで起こすように、と言われるケースもあります。作業効率だけ考えれば確かにその方がいいんです。開発の本工程に渡す時に、データをそのままコンバートすればいいわけでからね。でも、内部設計を行うために必要なCADデータ作成の一部ををデザイナーが行うというのは、大きな負担になります。

──対応していくための研修も現場では行われているのでしょうか。

長尾:なかなかそうはいきません。そもそもが、製品のライフサイクルが短くなって、企画から製品開発までの期間を短縮するために導入されている技術ですから、教育に時間をかけられません。研修する暇はないのにやり方を覚えろといわれ、見よう見まねで対応に追われているのが実情です。

──とすると今後は、CGソフトの扱いを学んできた人が即戦力になっていく?

長尾:そういうわけでもないんですよ。CGのソフトの操作は、教えれば、誰にでもできるものです。でもアート全般に対する感覚とか感性というの伸ばすのに何年もかかりますし、素養の問題で無理な人もいる。ソフトの使い方だけ知っていても、CADオペレーターにはなれてもディレクターにはなれないです。

じゃあアートを学んだ人間がプロダクトデザイン部門に配属されて、それからソフトを学べばいいのかといえば、こちらは忙しくてとてもそんな時間がとれない。結局、ソフトウェアの限られた使い方だけを学んで、外観を作る人、内装を作る人、色を塗る人など、分業制でなんとかやっているのが現状です。

一番いいのは、美大のようなアートの感性を育てる教育機関で、デザイン・ビジュアライゼーションの概念と一緒に、コンピューターについても教育してくれることです。最近の美大は、コンピューターも含めて複合的な教育をしているところも多いけど、デザイン・ビジュアライゼーションの概念まで先生たちが意識していない。産業界と教育界のギャップを感じます。

結局現状はどうなっているかというと、手描きのイラストでデザインするデザイナーと、CADのオペレーターをチームにして対応しているケースが多いです。あるいは別の会社では、手描きチームとCADチームに分けて別々のプロダクトを担当させたりと、試行錯誤をしています。

──マネジメントの方も苦労しているんですね。

長尾:経営者の方は皆悩んでます。社内の足並みは揃わないんだけど、技術導入しないと競争に勝てない。悩みながら取り組んでいます。

往々にしてよくあるのが、アナログの手法でこれまで実績をあげてきたベテランのデザイナーやディレクターがマネジメントする立場になって、デジタル化に対応できないというケースです。

デザイナーとしては有能で、実績もあり、本人にも今までやってきたという自負がある。でも、デジタルに関する知識はないから、部下のデザイナー達がやっていることが理解できないという焦りがある。また、全く分からないから現場をうまく管理できない。

一方で、部下のデザイナー達にしてみれば、上の理解が追いついていないから、例えば新しいソフトウェアの購入を申請しても、必要性をわかってもらえない。ソフトウェアのバージョンアップもなかなかしてもらえないと嘆いていたりもしますね。

海外だとCGソフトを扱えるようになれば評価され、給料が上がりますが、日本ではそれが評価されない。ソフトを使えるようになっても忙しい、給料は上がらない、評価されないの三重苦です。


出典:PERCH デザイン・ビジュアライゼーション
コラム「第3回:問題の本質に気づかないことが解決を拒む「起こりうる問題マップから自社の問題点を見つける」

──いわばデザインの現場におけるデジタルデバイドの問題、とでも言うのでしょうか。

長尾:そうですね。ただ、デジタルが扱える若手についていけないベテランがお荷物になる、という単純な問題ではなくて、逆に、デジタルが扱える若手には、ベテランが持っている感性がまだ足りないという問題がある。いくらCGをきれいに作れても、実際にそれでプレゼンをやると、「もっと魅力的に、リアルに見せないと分からない」って評価をされることがとても多い。

──彼らには、何が欠けているんでしょう。

長尾:例えば広告を作る場合だと、「魅せる能力」とでもいうのでしょうか。どの画角で、どの角度とライティングで見せる、といった、カメラマン的な見せる能力が求められます。PERCHのセミナーでもこうしたことは取り上げるんですが、皆さん困っているようでとても熱心に聞いています。

現場では、CMディレクターとデザイナーとCADオペレーターがチームを組んで、カメラ指示をしながらCGを作っているケースもあります。こうした知識を含めた体系的な教育が、これからは必要になっていくと思います。

(最終回へ続く)


語り手プロフィール

長尾 健作

株式会社パーチ代表。大手制作会社でのデジタル化推進・ビジュアライゼーション事業の起ち上げに携わった後、起業。ビジュアライゼーション事業を推進する企業およびクリエイターのサポートを手がけると共に、市場創造のための講演活動を行っている。
PERCH デザインビジュアライゼーション

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プロフィール

聞き手・板垣 朝子

WIRED VISION 編集委員。物理学を学び、システムコンサルタント見習いを経てライターとして独立。「技術と科学が社会をどう変え、ヒトをどう幸せにするのか」に関心を持つ。

オートデスクについて

設計(デザイン)およびデジタルコンテンツ制作、管理、配信に関わるソフトウェア分野で世界規模リーディングカンパニーとしてパワフルなテクノロジー製品とサービスを提供している。