Back to the Basic…テクノロジー、あるいはTwitterは私たちの生活を良くするか?
2010年2月 9日
(これまでの 荒川曜子の「それはWeb調査から始まった」はこちら)
毎日寒いですね。仕事柄(?)、ICTが世の中にどのように貢献できるかということを考える機会が結構多いのですが、そういう時に煮詰まると、とにかくポジティブシンキングで「うわーICTすばらしい超便利シアワセ未来の世界のネコ型ロボット!」というようなモードに突入してみます。そしてたいしたことは思いつかないままアドレナリンが切れたとき、結局「ICTなんて何も変えやしないさ…」みたいな落ち込みがやってきます。
なんだか無限ループだなと考えていたそのときに、米Philips社の研究機関から先月12日に発表された「Americas Health and Well-being Report 2010」を目にしました。生活全般にわたってさまざまな設問があり、かなりボリュームのある報告書ですが、「テクノロジーのおかげでよくなった(悪くなった)と思うこと」や、「テクノロジーの役割」などの質問への回答が載っています。
「テクノロジーの(果たす)役割」調査では、インターネットで生活がよくなったと思う人64%、TwitterやFacebookなどのソーシャルメディアで生活がよくなったと思う人26%です。これは多いか少ないか? 便利になることと生活がよくなることの違いなど考えさせられながら、「テクノロジーのおかげでよくなったこと」へと続きます。この質問への回答は「コミュニケーション」がトップで84%、情報や医療、教育などの項目がハイスコアで続く中、「人間関係」や「個人的な関係」が50%前後という結果です。
この一覧で、自分が「ICTイケる!」と考える時と「ICT does not matter」モードに入ってしまう時の落差を見せられた感があり、とても面白く思えました。
当たり前ですが「コミュニケーション」と「人間関係」は違うものですよね。行動としての「コミュニケーション」と、感性としての「人間関係」とでもいいましょうか。さまざまな情報ツール(技術)の登場で「コミュニケーション」の形式・頻度・内容は過去から大きく変わり、現在進行形で変わり続けています。そのことを感じない人は少ないでしょう。
一方「人間関係」は「コミュニケーション」により形成される部分を多く含みながらも、ツール(技術)の登場により受ける影響はもっとゆるやかで、見えにくいもののように思えます。行動はその手段により多くの部分を規定され(つまりツール/技術によってとても早く変化を受けることになる)、多くの行動の集積が社会の空気みたいなものになります。
新たなツールの登場→個人の行動の変化→個人の考え方の変化というステップ、その同時多発的発生が、お互いに影響しあいながら、ついには社会の感性である「常識」のようなものまで変えてしまうのですね。そのときになって変化がようやく見える形になるともいえるでしょう。
というわけで基本的なことですが、技術が人間の感性の部分、感じ方や考え方を変えるスピードは、技術が人間の行動を変えるスピードよりだいぶ遅いのでしょうね。感性の変化に気づいたころ、いつのまにか社会の常識も変わっているという感じでしょうか。30数%の差に改めてその速度差を感じた調査でした。
荒川曜子の「それはWeb調査から始まった」
過去の記事
- ガジェット所有はどこまで? -米国情報端末所有調査結果2011年2月15日
- 「ネットで買う」の成熟度-EC利用動向国際比較2011年1月20日
- ネットは全世代的な利用というフェーズへ─米国ネット利用動向2010年12月21日
- 孤独とSNS、あるいはネットとリアルの適切な距離─米国ネット利用動向調査2010年11月22日
- 「ケータイ、何するものぞ」日・米・欧の携帯電話利用動向2010年10月20日