ウィキ&ペディア
2007年9月 5日
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最近 Wikipedia 関係のニュースで最も話題になったものというと、何と言っても Wikipedia Scanner(通称 Wikiscanner)でしょう。Wikiscanner はカリフォルニア工科大学の大学院生が開発した Wikipedia の登録ユーザ以外による編集とその発信元の IP アドレスを組み合わせるツールで(記事)、これにより企業などの組織内の端末から行われた恥ずかしい Wikipedia の書き換えの数々が明らかになりました(記事)。
先週には早速日本語版も公開され(記事)、日本の企業や官公庁についても、利害関係のある項目についての編集が明らかになってます。今週あたり、日本の官公庁や大企業で、「職場のパソコンからの Wikipedia 編集禁止」のお達しが出るところもあるかもしれません。
組織内の端末からの Wikipedia の編集行為が問題となるのはこれが初めてではありません。例えば日本でも、自社に不利益な Wikipedia の記述を従業員が削除したことが発覚し、謝罪したネット証券会社もあります。
それに注意しなければならないのは、Wikiscanner が対象とするのが登録ユーザ以外の編集である点です。本気で(?)Wikipedia の特定項目の内容を操作しようとする知識のあるユーザなら、現状でも企業など組織内の端末から匿名ユーザのまま書き込んだりはしないでしょう。Wikiscanner で全ての情報操作が見抜けるわけではないのです。
Wikipedia と匿名性について語る場合、誰もが匿名で編集できること自体が問題とされます。ただだからといってそこで匿名性そのものを一まとめに非難するのはいきすぎでしょう。ブルース・シュナイアーが書くように[1]、重要なのは「説明責任(accountability)」であり、その説明責任はインターネットにおいて必ずしも身元情報に結び付けられる必要はありません。Wikipedia 編集の追跡可能性のほうが重要でしょう。
今年の3月、ジミー・ウェールズの来日講演後の宴席で、当方は朝日新聞社の方と Wikipedia と匿名性の問題について話をさせていただく機会がありました。当然ながら先方は Wikipedia の匿名性について懐疑的なようでしたので、当方は Wikipedia が「百科事典」であることを優先するなら、編集を登録ユーザ[2]のみに限定することで「追跡可能性」と「匿名性」を両立できるだろう、という考えを述べさせてもらいました。
ただ、Wikipedia を飽くまで Wiki として考えた場合、それが望ましい形かというと疑問です。編集までの敷居を上げれば、貢献者の数は確実に減るわけですから。
Wikiscanner は、Wikipedia の全ての編集履歴が、登録ユーザであればユーザ名、そうでなければ編集者の IP アドレスを含む形で記録されることに着目したサービスであり、登録ユーザよりも匿名ユーザのほうが匿名度が下がる皮肉を突いたサービスと言えます。こういう匿名編集者のグルーピングサービスが登場した後では、当方も「追跡可能性」と「匿名性」について再考する必要があるでしょう。
現在の Wikipedia の隆盛を先に知ってしまうと、オンラインの百科事典に Wiki が採用されていることがさして不思議に思えませんが、当時としては思い切った決断だったに違いありません。Wikipedia に引き続き一種の開拓者精神を望むか、あるいは百科事典としての整合性と権威を求めるかで、これから Wikipedia コミュニティは Wiki と pedia の間を揺れ動くことになるかもしれません。
幸いなのは、Wikipedia のコード、正確に書けば、Wiki ソフトウェアの MediaWiki のコードが、Wikiscanner のようなハックを許容する開放性と一種の富豪性を実現していることです。Wikipedia 関係ではジミー・ウェールズ(今月再来日しますね)の発言が取り上げられることが多いですが、個人的には MediaWiki 開発者のインタビューをもっと読んでみたいです。
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[1] HotWired における日本語訳の題名は「オンラインの匿名性をめぐる議論」となっていますが、原文は Anonymity Won't Kill the Internet、つまり「匿名性はインターネットを殺さない」です。WIRED VISION においては、原著者の姿勢を歪めるような改変が行われないことを願います。
[2] 現在 Wikipedia のユーザ登録には、ユーザ名とパスワードだけしか求められませんが、メールアドレスの入力も必須にする必要があるでしょう(そのかわり実名や所属などの情報は求めない)。また複数アカウントの取得を防ぐには、mixi などで行われている携帯メールアドレスの入力を要求するという方法があります(が、これは海外でも適用可能でしょうか?)。
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過去の記事
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