次世代電池レースで脚光を浴び始めた「マグネシウム電池」(6)
2010年3月26日
盛り上がってきたマグネシウム電池の開発
──マグネシウム二次電池が実用化されるには、どのような課題があるのですか?
栗原:SAITECが開発したのは正極活物質で、実用電池にするためには、電解液と負極活物質なども必要です。
今回の実験では、
P. Novák and J. Desilvestro, J. Electrochem. Soc. 1993, 140, 140.
Y. Long, X. Zhang, J. Colloid Int. Sci. 2004, 278, 160.
D. Aurbach, Z. Lu, A. Schechter, Y. Gofer, H. Gizbar, R. Turgeman, Y. Cohen, M. Moshkovich, E. Levi, Nature, 2000, 407, 724.
D. Aurbach, H. Gizbar, A. Schechter, O. Chusid, H. E. Gottlieb, Y. Gofer, I. Goldberg, J. Electrochem. Soc. 2002, 149, A115.
Y. Gofer, O. Chusid, H. Gizbar, Y. Viestfrid, H. E. Gottlieb, V.M. Aurbach, Electrochem. Solid-State Lett. 2006, 9, A257.
L.Sanchez, J. P. Pereiraramos, J. Mater. Chem. 1997, 7, 471.
などの報告にある電解液を準用しています。例えば、過塩素酸マグネシウムの炭酸プロピレン溶液(有機溶剤)です。また、ソニーも独自にマグネシウム電池用の電解液を開発して何件か特許を取得しています(JP2010-15979, JP2009-64730)。
負極活物質は金属マグネシウムですが、イオン化がスムーズに行えるようにこちらも工夫する必要があります。金属メーカーはこうしたマグネシウムの開発を進めており、焼き鈍し(高温にしてから急激に冷やす)したマグネシウムは、通常のマグネシウムよりもかなりよい成績が出ていますね。焼き鈍し以外の技術もいろいろと開発されているようです。
リチウムイオン電池もそうですが、実用電池を作るためには、正極・負極の活物質、電解液、セパレータ、集電体などさまざまな分野のノウハウが必要になります。
今回、SAITECが電池としては未完成ながらも正極活物質を開発したことを発表したのは、マグネシウム金属電池の実現に目処がつき、さまざまな企業で研究開発が盛り上がって実用化が加速されることを期待したからです。
──資源量が豊富で、安全性の高いマグネシウム電池が普及すると、エネルギーの勢力図が変わるかもしれませんね。
鈴木:私は、マグネシウムが石油に代わる可能性もあると思っています。ただ非常に残念なことに、日本人はエネルギーへの危機意識が少ないですね。今騒がれているリチウムは日本にはありませんし、世界全体の埋蔵量もごくわずかで偏在しています。リチウムイオン電池が普及すればするほど、リチウムの輸入価格はますます高騰していくはずです。石油を争って戦争までした国が、どうしてエネルギーのことを真剣に考えないのでしょう? 少なくともリチウムの対抗馬を準備しておかないと、リチウムの入手さえままならなくなるのではないでしょうか?
研究者プロフィール
鈴木進(すずき すすむ)
昭和27年、長野県松本市出身。慶応大学理工学部応用化学科中退。専修大学経営学部経営学科卒。山種証券入社、2年後退社、起業。(株)リーワード 代表取締役歴任。昭和62年、無機炭酸カルシウム発泡体の製造方法特許取得、発明賞受賞。昭和62年、EB(エレクトロンビーム)電子線照射をイタリア、ラドテック研究会で発表。昭和63年、日本ダンロップと合弁会社設立、新日本製鉄系会社、日本セメント等と技術提携。平成4年、(株)TSC代表取締役就任。リアルガード、国土交通省NETIS登録。その後20種に及ぶ発明品を発表。平成18年、マグネシウム発電特許出願。平成19年、マグネシウム金属空気電池国際特許出願。平成20年、マグネシウム金属イオン電池のバッテリータイプ発表。
栗原英紀(くりはら ひでき)
・2006〜 Mg空気電池、Mg水電池の開発 (株)TSC
・2008〜 Mg二次電池の開発 NEDO委託「次世代自動車用蓄電池開発」発表
・2010.2.8 テレビ東京WBS特集「次世代エネルギー マグネシウムの挑戦」
・2009.11.25 産経新聞、日刊工業新聞、2009.12.3 日経産業新聞
・2010.2 日経エレクトロニクス
・H. Kurihara, T. Yajima, S. Suzuki, Chem. Lett. 37(3), 376-377 (2008).
・第50回電池討論会、2009粉体粉末冶金協会秋季大会発表
・略歴:1997年、東京大学工学系研究科修士課程経て、埼玉県入庁。2004年、弁理士試験合格。2006年、工学博士取得。
・所属:埼玉県産業技術総合センター(TEL:048-265-1420)
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