成長の限界とブランド広告
2009年8月19日
(これまでの 歌田明弘の「ネットと広告経済の行方」はこちら)
前回、日本テレビ会長の氏家氏の発言を引用しながら、寡占が進むとマス広告を打つよりも販促のためによりお金を使うようになり、テレビなどのブランド広告にまわす費用を減らすようになると書いた。
もちろん寡占化した業界でもただちにブランド広告をまったくやめるわけではない。氏家氏も言及していたとおり、自動車にしても新車を出したときには集中的に広告する。
また、小売りの現場で商品を優遇してもらうために広告するということもよくあることだ。「広告したので売れますよ」ということで、流通でのあつかいをよくしてもらうことが期待できる。
私が仕事をしてきた出版の世界でも、本の新聞広告にはそうした要素がある。本の広告を見て消費者に買ってもらうということはもちろんあるが、大きく広告を打つことで書店に仕入れてもらったり、いい棚に並べてもらえる。個別の本に関心のある消費者にとって出版社の名前はだいたいにおいてどうでもいい情報かもしれないが、書店にその出版社の存在を認知してもらうという意味では必要な情報である。
飲料水や食品なども、広告を打つのは消費者に対してだけでなく、小売りなどの流通に向けて広告を打っている。こうした形の広告は、広告といいながら販売促進の側面が強い。投じている広告費は、販売促進のためでもある。
また寡占が進めば広告が減るということにはいろいろ例外もある。たとえば携帯電話などは大手通信会社による寡占が進んでも、大量にテレビ広告を出している。
寡占化して広告を減らしている自動車メーカーと、広告を出し続けている携帯電話会社の違いは何だろうか。
そうしたことを考えると、寡占だけがブランド広告を減らす要因ではないことに気づく。
寡占に加え、その商品の成長性や、シェアが固定化しているかどうかも重要だ。広告を打てば打つほど商品が売れるという状態ならば、カネに糸目をつけず広告を打てるが、そうではなく飽和状態に近づき、もはやそれほどの伸びが期待できなくなると、景気よく広告を出し続けるわけにはいかない。コストが気にかかってくる。さらに寡占化してシェアが容易に動かないということになってくると、ますます広告を打つインセンティブは乏しくなる。
このように、寡占だけでただちにブランド広告の減少につながるわけではないが、少なくとも引き金にはなっている。
さらに寡占がなぜ起こるのかといえば、そもそもその市場が飽和状態に達し始めたから、ということも多い。
もはや伸びが期待できないから吸収・合併や、弱小企業の市場からの離脱が起こり、寡占が進む。したがって成長期待の減少と寡占化の進行は表裏一体の現象といえる。
成長期待の減少と寡占化の進行は表裏一体だとしても、メーカーの寡占と流通の寡占は、本来、一緒くたにすべきではない。寡占によるブランド広告の減少が、このふたつの業種において同様の形で起きるわけではないからだ。
メーカーの場合は、上に書いたように寡占化がブランド広告減少の大きな要因になりうる。
しかし流通や飲食業界では、同じように寡占化がブランド広告の衰退をもたらしているといっても、そのありようは異なっている。
大手流通チェーンがあまり広告をしないのは、前回も書いたように、「どんなに大きくなっても一つひとつの店舗で勝負しており、店舗の周辺に宣伝するのであればチラシなどの広告のほうが効果的」という流通チェーンの性格によっている。こうしたことは飲食チェーンなどでも言える。チェーンに参加している個々の店舗が売上げについて責任を負うのであれば、テレビなどで「マス」に呼びかけるより、地域住民に働きかけることのほうが重要になってくる。
関西から関東に進出するなど、そのチェーンが十分に認知されていないときには広告を打つ必要があるが、認知された段階で、ブランド広告の必要度合いが減ってくる。流通や飲食のチェーンでは、寡占かどうかということよりも、その地域でどれだけ認知されている存在になっているかがより重要と言える。しかし寡占化して消費者の選択肢があまりなければ、わずかな広告でも認知されやすい。だから、流通や飲食チェーンでも、寡占化とブランド広告減少は無関係というわけでもない。
こうしたことに加えて、テレビの影響力が下がっているということならば、いよいよCMを流しても仕方がない、ということになってくる。寡占化と成長性の乏しさ、テレビCMの影響力の低下が、相乗効果をあげてブランド広告減少の誘因になっている。
歌田明弘の「ネットと広告経済の行方」
過去の記事
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