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高森郁哉の「ArtとTechの明日が見たい」

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TAMA CINEMA FORUM――映画祭と「まちづくり」

2010年11月26日

現在、東京都多摩市で「20回映画祭TAMA CINEMA FORUM」が開催中だ(11月28日まで)。郊外のベッドタウンでの映画祭なんてと思われるかもしれないが、これが意外に健闘している。

市内の3会場にすでに何度か足を運んだが、どのプログラムも盛況で、中には立ち見や通路での座り見も出るほど。人気の一因は、リーズナブルな鑑賞料金と思われる。一部を除き1プログラム通し券が前売り1000円(当日1300円)で、プログラムの多くは2本立てに監督や出演者のトークなどがワンセットになっていて、とてもお得感がある。

たとえば20日のオープニング第2部では、『トロッコ』(09年)の上映と川口浩史監督の(飛び入りでの)舞台挨拶、さらに『キャタピラー』(10年)上映の後に若松孝二監督と主演の寺島しのぶ氏によるティーチ・イン、といった具合。ご存じの方も多いと思うが、『キャタピラー』は今年のベルリン国際映画祭コンペ部門に出品され、寺島氏が最優秀女優賞を受賞している。

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左からTCFチーフディレクターの飯田淳二氏、若松孝二監督、寺島しのぶ氏
写真提供:TAMA映画フォーラム実行委員会(無断転載不可・以下同)

また21日の「ストリート・ミュージックの夢」と題したプログラムでは、音楽が厳しく規制されたイランの首都テヘランで活動するミュージシャンたちを描く『ペルシャ猫を誰も知らない』(09年)の上映後に、無許可撮影の末母国を離れイラクに滞在中のバフマン・ゴバディ監督と、Skype中継を慣行(下の写真)。会場からの質問に答え、イランで表現活動が抑圧されている状況と、そこで暮らす若者たちの姿が、外国にほとんど知られていないことをタイトルに込めた(監督自身も本作を通じて自国の多彩な音楽シーンに驚かされたという)などといった話が語られた。

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写真提供:TAMA映画フォーラム実行委員会

TAMA CINEMA FORUM(TCF)実行委員会副委員長兼チーフディレクターの飯田淳二氏によると、TCFは1991年、多摩市の市制施行20周年に合わせ国際映画祭のかたちで始まったという。その後、実行員会と多摩市文化振興財団の共同主催となり、日本映画の活性化、映画ファンのネットワーク作り、映画を通じたコミュニティー形成と「21世紀のまちづくり」といった目標を掲げるようになる。

実行委員会のメンバーは約60名で、映画祭期間中のボランティアが30名ほど。上映作品の決めるにあたり、まず実行委員がそれぞれ2本立てや3本立ての企画を持ち寄り、3カ月ほどかけて検討を重ね、最終的なプログラムを構成していくという方式を採っているとのこと。

予算規模については、近年は若干減少傾向にあるものの、それでも1000万円強を確保しているという。とはいえ、実行委員らによる手作り感もTCFの大きな魅力。たとえば、駐留米軍の問題を扱った日本初公開の『スタンディング・アーミー』では、企画した実行委員が海外の監督たちと英語で直接やりとりし、自ら字幕を制作したのだとか。

公園で遊ぶ子供や大人、駅を行き交う人々、多摩ニュータウンの風景を題材にしたTCF20周年企画CMの素朴な温かさもいい。

日本映画の新たな才能の発掘と紹介を目的とするコンペティション「TAMA NEW WAVE」では、一般審査員と実行委員が投票で各賞を選出。第11回の今年は、岸建太朗監督の『未来の記録』がグランプリに輝いた。

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写真提供:TAMA映画フォーラム実行委員会

飯田氏は、「多摩センターのパルテノン多摩、永山のベルブ、聖蹟桜ヶ丘のヴィータという、市内の3駅に近い公共施設を会場にしているので、地域の方々に足を運んでもらえるよう商店街にチラシ広告を出して、地域と映画祭の距離を縮める努力をしています」と語る。観客全体のうち市内から訪れるのは3~4割、八王子など近隣の多摩地域も含めると約半分が地元の観客だという。

「昔は多摩市に映画館がなかったためフィルムを上映するだけで意味がありましたが、今は多摩センターをはじめ、近くにシネコンがたくさんあります。ですから、ここ(TCF)でしか見られない作品、ここにしか来ないゲストなど、イベント性を高めて、多角的に映画を観てもらうということを続けていきたいと思っています」と飯田氏。

すでに映画ファンの間では認知され、市外からの観客動員という点でも実績のあるTCF。今後他の映像関連の団体や企業などと連携し、映画を軸としたまちづくりを一層進めていく可能性は、と飯田氏に尋ねた。

「たとえば『たまロケーションサービス』さんとは一緒に何かやりたいのですが、具体的な話には進んでいません。ただ、商店街等に働きかけているとはいえ、まだ多摩市民にも(TCFを)知らない人が多いというのが実態なので、もっと地域密着型にしていきたいですね。それと平行して、今まであまり映画を観ていなかった人にも新しい見方、楽しみ方を伝えていきたい。そうした取り組みを通じて、『多摩市は映像文化のまち』として全国に広めたいですね」


公式サイト:TAMA CINEMA FORUM

[取材交渉や画像提供等で協力してくださった実行委員の山口渉氏に感謝。]

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プロフィール

フリーランスのライター、翻訳者としての活動を経て、2010年3月、ウェブ・メディア・地域事業を手がける(株)コメディアの代表取締役に。多摩地域情報サイト「たまプレ!」編集長。ウェブ媒体などへの寄稿も映画評を中心に継続している。

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