D・フィンチャー監督の最新作『ソーシャル・ネットワーク』
2010年11月 1日
「新しい神話:映画『ソーシャル・ネットワーク』」というワイアードの翻訳記事が出ていたので、日本公開(2011年1月15日)にはかなり早いが、記事への言及も含め簡単に紹介しておきたい。東京国際映画祭のオープニングを飾った作品でもあるし。
本作は、WIRED VISIONの読者諸氏ならご存じの『Facebook』を作った男、マーク・ザッカーバーグの半生を描いた物語。監督はデヴィッド・フィンチャー。ミュージックビデオやCM制作から映画監督に転身したクリエイターらしく、『セブン』の惨殺死体、『ファイト・クラブ』の素手での殴り合い、『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』での若返る肉体など、フィジカルな要素をインパクトの強い映像で表現するのが得意だが、今回は頭脳派のギークが主人公ということもあってか、身体性よりも会話劇を前面に出している。
原作はベン・メズリック(『ラスベガスをぶっつぶせ』の原作者)。原作の完成前に映画化が決まり、1章書き終えるごとに脚本家アーロン・ソーキン(『ア・フュー・グッド・メン』)に原稿を渡していたというエピソードは、インターネット業界を扱う映画にふさわしいスピード感だ。
仲間との友情、成功と裏切り、喪失感と孤独といった古典的なテーマが、スリリングかつスピーディーな会話で現代的に語られる。IT起業家とそのサービスを扱ってはいるが、登場人物たちの関係性こそが主題になっていると言っていい。もっとも、ネットサービスを開発する男たちの話だけでは映画がもたないという製作側の判断だろう、原作にはないエリカとの失恋が、マークが長年固執するトラウマのように描かれている。原作でFacebookの開発の過程や革新性について説明している部分を大胆に削り、そうした人間関係のドラマをメインに据えたところをどう感じるかが、観客の評価の分かれ目になりそう。
もっとも、フィンチャー監督が現代的な会話劇に挑んだとはいえ、音楽ビデオ出身を観客に思い出させるかのようなシークエンスもある。中盤でのボートレースがチルトシフト撮影(日本語版記事)という手法で撮られていて、そこだけミニチュアの別世界に紛れ込んだかのような感覚も含め、とても印象的だ。
なお、最初にリンクを張った翻訳記事の最後は、「この映画は、FacebookとZuckerberg氏にとって益するところが非常に大きいので、おそらく彼らはこの続きを制作しようと考えることだろう」と締めくくられているが、これはどうだろう。原作の邦訳『facebook 世界最大のSNSでビル・ゲイツに迫る男』(青志社)のまえがきには、「本書の執筆に際して、マーク・ザッカーバーグに何度も取材を申し込んだが、彼が有する正当な権利に基づいてすべて断られたことを言い添えておく」と書かれている。Facebookの関係者が自ら乗り出すにしても「制作」ではなく「製作」だろう、というツッコミはさておき、続編ではなく、それこそFacebookの友人承認を待つ画面のように、「リフレッシュ」して新たに「真実のストーリー」を語りたいと思うのではないだろうか。
高森郁哉の「ArtとTechの明日が見たい」
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