『ラブリーボーン』:LOTRのピージャクが描く、美少女の死後と幻想世界
2010年1月22日
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世界30ヵ国以上で1000万部以上を売り上げたアリス・シーボルドによる同名の小説が原作。"My name was Salmon, like the fish; first name, Susie. I was fourteen when I was murdered on December 6, 1973."(青山南氏による邦訳では「わたしはスージー・サーモン。魚と同じ名前よ。一九七三年十二月六日に殺されたとき、まだ一四歳だった。」)という一風変わった書き出しが印象に残っている人も多いだろう。すでに死んでいる女の子の一人称語りという珍しさもさることながら、この主人公が未解決事件の犯人に対する怨恨や憎悪を募らせるでもなく、地上と天国の中間に位置する幻想的な世界を散策したり、家族や初恋の男の子を見守ったりする様子を穏やかに語る文章に不思議な味わいがある作品だった。
これを映画化したのは、『ロード・オブ・ザ・リング』3部作やリメイク版『キング・コング』などのピーター・ジャクソン監督。これらの代表作と同様、ニュージーランドで撮影した大自然の雄大な景観とCGによる視覚効果を巧みにミックスした幻想的な異界が、スージーが死後に過ごす場所として色鮮やかに描かれる。
主人公のスージー役は、2007年の『つぐない』で13歳にしてアカデミー賞助演女優賞にノミネートされたシアーシャ・ローナン。同作や『エンバー 失われた光の物語』で強い印象を残した明るいブルーの瞳は今作でも健在で、あどけなさの残る少女が事件の犠牲になり死後の経験を通じて精神的に成長する(というのも何だか変な話だが)過程を表現した演技を含め、今後のさらなる成長が期待される女優だ。
父親役のマーク・ウォールバーグについては、娘を奪われた悲しみと怒りを爆発させて、ボトルシップ(瓶の中に入れたミニチュアの帆船)を次々に叩き割るシーンがよかった。ここで交互に挿入されるスージーの死後の世界のカットでは、海岸に超巨大なボトルシップが打ち寄せ、岸の岩に当たって砕ける映像が胸を打つ。
母親役のレイチェル・ワイズと祖母役のスーザン・サランドンは魅力を出し切れていない印象だったが、スタンリー・トゥッチは園芸やバードウォッチングを好む優しげな隣人で実は殺人の衝動を隠し持つという犯人を見事に演じている。
ピーター・ジャクソン監督の作品ということで、CGを駆使した先鋭的なスペクタルや、ドラマティックなストーリー展開を予期すると、ちょっと肩すかしを食うかもしれない。とはいえ、原作小説の不思議な味わいと、70年代のレトロな空気感が織り込まれ、ささやかな奇跡が静かな感動を呼ぶ作品だ。
[作品情報]
『ラブリーボーン』 原題 THE LOVELY BONES
監督・製作・脚本:ピーター・ジャクソン
製作総指揮:スティーヴン・スピルバーグ
出演:シアーシャ・ローナン、マーク・ウォールバーグ、レイチェル・ワイズ、スーザン・サランドン、スタンリー・トゥッチ
原作:アリス・シーボルド
音楽:ブライアン・イーノ
2010年1月29日(金)日本公開
配給:パラマウント ピクチャーズ ジャパン
公式サイト
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