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高森郁哉の「ArtとTechの明日が見たい」

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『サロゲート』レビュー:身代わりロボットの普及は「理想の未来」か

2010年1月15日

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© Touchstone Pictures, Inc. All Rights Reserved.

2005年から2006年にかけて発表されたグラフィックノベル『The Surrogates』を原作に、『U-571』『ターミネーター3』のジョナサン・モストウ監督がブルース・ウィリスを主演に迎えて完成させた近未来SF映画。

2017年の世界では、人間のあらゆる社会活動を代行する身代わりロボット「サロゲート」が普及していた。人は自宅の装置からサロゲートを遠隔操作するだけで、現実世界に生身の肉体をさらさずにすむ。事故や犯罪に遭遇してもサロゲートが破損するだけで、使用者には何の影響もない。さらに、サロゲートの注文は完全オーダーメイドで、理想の顔、身体、性別など、“なりたい自分”になれるのだ。その結果として犯罪も疫病もなくなり、ユートピアのような世界で人類は無限の幸福を手に入れるはずだった。

だがある夜、男女1組のサロゲートが破壊される事件が発生する。FBI捜査官のグリアー(ブルース・ウィリス)が調べたところ、それらの使用者も同時に死亡していた。「サロゲートが破損しても使用者は安全」という前提が崩れたことは、社会システム全体の危機を意味する。グリアーはサロゲートを開発したVSI社の捜査に乗り出すが――。

『サロゲート』が数多あるロボットもののSF映画と一線を画すのは、人工知能(AI)を搭載した自律型ロボットではなく、人間が操作する人間型ロボット(アンドロイド)を主題として扱っている点だ。過去のロボット映画では、「悪意を持った機械vs.人間」か、「人間らしい感情を持つAI」といったテーマが定番だった。一方の本作では、ロボットを操るのはあくまでも人間なので、社会の脅威となる事件の背後には明らかに人間の意図がある。しかし誰が、何の目的で?――という謎を追って本筋が展開する。それと平行し、もう1つの重要なテーマとして描かれるのは、身体的な労働(活動)の機械化とコミュニケーションのハイテク化が究極的に進んだ形態として身代わりロボットが実現したとき、人間同士の愛情や心のつながりはどうなるか、という問題だ。

後者のテーマは主に、グリアーとその妻で美容師のマギー(ロザムンド・パイク)の関係で示される。この夫婦の職業はきわめて象徴的で、捜査官が嘘や偽装を見抜き内に秘められた真実に迫ろうとし、美容師が髪型や化粧で美しく装うことで素顔を隠すという好対照なそれぞれの行為は、夫婦生活における2人の姿勢に投影されている。生身の妻と過ごしたい、心のつながりを確かめたいと願う夫に対し、妻は過去のある出来事が原因で、サロゲートを介してしか夫と向き合おうとしない。

ネット依存やケータイ依存の延長にあるこうした問題は、「機械vs.人間」などといったテーマよりはるかにリアリティーがあり、身代わりロボットが実際に普及するかどうかはともかく、この種の難題が将来おそらく深刻化するのだろうと考えさせられる。

映像の面では、CGで精緻かつリアルに描かれたロボットの内部構造と、特殊メイクでいかにも人工っぽい質感を表現したサロゲートの表情(フォトショップで加工しすぎたポートレートの実写版といった感じ)が見どころ。後半では、ブルース・ウィリス(とスタントマン)による生身のアクションと、敵対するサロゲートのCG+ワイヤーアクションを対照的に見せるチェイスシーンも面白い。

ディズニー配給なので、SFといってもハッピーエンドのファミリー向け娯楽映画だろう、などと高をくくったら大間違い。派手なアクション、夫婦や親子の愛(と喪失感)といった要素もあるが、哲学的な重いテーマも含む奥の深い作品だ。

なお次回は、本作の冒頭にニュース映像で登場するロボット工学者の石黒浩氏(大阪大学教授)にインタビューした内容をお届けする予定。

(石黒教授インタビューへ)

[作品情報]
『サロゲート』 原題:The Surrogates
2010年1月22日(金)ロードショー
監督:ジョナサン・モストウ
出演:ブルース・ウィリス、ラダ・ミッチェル、ロザムンド・パイク
ウォルト ディズニー スタジオ モーション ピクチャーズ ジャパン配給
公式サイト

[以下は、Wiredによるジョナサン・モストウ監督へのインタビュー。]

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プロフィール

フリーランスのライター、翻訳者としての活動を経て、2010年3月、ウェブ・メディア・地域事業を手がける(株)コメディアの代表取締役に。多摩地域情報サイト「たまプレ!」編集長。ウェブ媒体などへの寄稿も映画評を中心に継続している。

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