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高森郁哉の「ArtとTechの明日が見たい」

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MP3発明家、「レーザー+煙」の高精度マイクを開発中

2009年9月24日

MP3の基礎となった技術を含む音声関連の特許を複数持つ米国の発明家、David Schwartz氏が9月21日(米国時間)、レーザー光と煙を使って音声を記録する新技術『Laser-Accurate』を発表した。ダイアフラム(振動板)を使って音波を電気信号に変換する従来のマイクよりも、原音に近い高精度の録音が可能になるという。

ダイアフラムを使う場合、その大きさや形状に反応速度が制限され、機構上のさまざまな要素が原音に「色」を加えてしまう(それが各メーカーのマイクロフォンの「個性」にもなっているわけだが)。これに対しLaser-Accurateでは、管の中を流れる煙の微粒子が音声によって変化する様子をレーザーで記録して、ソフトウェア上でデータを音声に変換する。入力部分に音波を遮るものが存在せず、音波によって変化する煙の動きをレーザーで精密に測定するため、理論的には音波に干渉するダイアフラムよりも原音に忠実な記録が可能になるとしている。

現在はまだ試作品の段階で、「プロタイプ1」の動画も公開されている。さて、その成果は……。

50秒あたりから始まるパソコン上での再生音を聴いて、思わずずっこけてしまった。高精度どころか、何を言っているかさえ聞き取れない。Schwartz氏は動画の中で、入力感度が低いため声を録音するには「叫ぶ必要がある」と説明している。ただし、10月にニューヨークで開催されるAudio Engineering Society(AES)の第127回コンベンションでは改良した「プロタイプ2」を出展するそうだ。

レーザーを応用したマイクは、これまで主に盗聴用として開発されていて、ワイアードの「教皇選出会議:懸念はハイテク盗聴技術」という翻訳ニュースでも取り上げていた(細かいことだが、「窓ガラスなど硬い物の表面の振動を録音することにより」という部分の原文は"by recording vibrations on window glass or other hard surfaces"で、recordingは「記録すること」と訳すほうが良いだろう)。レーザーを対象物に投射して、反射したレーザーから振動による微妙な変化を読み取る仕組みで、原理としてはアクティブソナーに似ている(こちらは音を発して対象物の位置を知る)。

Wikipedia英語版の「Laser microphone」の項によると、光ビームを音声の記録に応用する技術を最初に発明したのは、おそらくレフ・テルミン博士(電子楽器のテルミンの発明で有名)だろうとのこと。第2次大戦後のソ連政府に協力して赤外線を使った盗聴装置を開発し、これは実際にモスクワ内の英米仏大使館の盗聴に使用されたという。

テルミン博士は波瀾万丈の生涯を送った人物で、楽器テルミンがポピュラー音楽に与えた影響も含めて描いたドキュメンタリー映画『テルミン』はとても面白いのでおすすめ(リンク先のアスミック・エースのサイトには「バーチャル・テルミン」というFlashのコンテンツがあって、これもなかなか楽しい)。

Schwartz Engineering & Design社のプレスリリース

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プロフィール

フリーランスのライター、翻訳者としての活動を経て、2010年3月、ウェブ・メディア・地域事業を手がける(株)コメディアの代表取締役に。多摩地域情報サイト「たまプレ!」編集長。ウェブ媒体などへの寄稿も映画評を中心に継続している。

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