『戦慄迷宮3D』レビュー:邦画初のデジタル3D実写長編映画
2009年8月16日
8月16日夕刻、東京五反田、イマジカ第2試写室。この日の昼にサラウンド音響設計等の最終調整が完了し、まさに出来たてほやほやの状態でマスコミ内覧試写会が行われた。ギネスブックに正式認定されている世界最長の“ウォークスルー型お化け屋敷「戦慄迷宮」”を舞台に、スリラーとアトラクションの要素を融合させたドラマを、3D特有の立体感と奥行きで楽しみ体感する映画がこの『戦慄迷宮3D』だ。『富江 re-birth』『呪怨』『呪怨2』という3本のホラー映画をヒットさせ、ハリウッドリメイク版の『THE JUON/呪怨』で日本人監督の実写映画としては初の全米興収1位を記録(続編『呪怨/パンデミック』でも初登場全米1位を達成)した清水崇監督による、3年ぶりの新作となる。
[ストーリー]行方不明だった少女が、10年後、帰ってきた。ある遊園地の“巨大な廃病院”の姿をしたお化け屋敷から。殺人鬼も霊も存在しない“あの場所”に、ふたたび連れ戻される4人。そこで体感する、10年前の事件のある事実。迷い込んだら出口なし、驚愕の一夜がスタートした。
タイトルの「迷宮」という言葉通り、複雑に入り組んで先行きの見えない展開になっている。主要な登場人物は5人なのだが、10年前の子供時代に起きた事件と、現在の事件(正確には主人公による事件後の語りだけれど)が“時空の歪み”によって錯綜し、干渉し合い、終盤のクライマックスへとつながっていく。
前半は3Dの演出は奥行きを感じさせ、物語の世界に引き込むことに重点を置く。車に5人が乗り込んで移動する場面で、暗い車内の窮屈な状況が長めのシークエンスで描かれるが、これが3Dの映像で示されることで奇妙な閉塞感が生まれていた。
試写後のティーチインで監督が語ったように、アクションやホラー系の3D映画ではこれ見よがしに飛び出し効果を多用する作品もあるが、本作ではそうした飛び出しはあざとくならないよう、ごく控え目。ただし、終盤のクライマックスではCGによるスローモーションの水滴と“恐怖の正体”などの描写が、まさに3D映像ならではの臨場感とクリアな空間美にあふれ、文字通り戦慄を覚えながらもこの美しい映像の世界にずっと没入していたいと思わせる出来だった。
本作は企画段階から、富士急ハイランドのアトラクションを舞台に使うことと、3D映画にすることが決まっていたという。そのためだろうか、登場人物たちの言動のリアリティよりもストーリーの進行を優先させている部分がいくつか目についた。実際にこういう状況なら普通の人はこう反応するけど、謎やスリルを持続させておくためや、話を意外な方向に展開させるために、敢えて不自然な行動をとらせる、という意図が気になったのだ。とはいえ、いろいろと制約もあるなかで邦画初の3D映画に取り組み、あの印象的なクライマックスに至る迷路のような映像体験を提供してくれたことに感謝したい。
ネタバレを避けるためにもストーリーにの紹介は軽めにとどめておいた。とはいえ、正調のミステリーというわけではないので、鑑賞の際は謎解きに気を取られるよりも、物語の世界に没入して自分も迷路に迷い込んだつもりで映像を体感するのがよさそうだ。もちろん、結末を知ったあとで二度、三度と観るとまた違った面白さが味わえると思う。
そうそう、製作・宣伝サイドの意図としては、本作は一応「ホラー」としては売り込みたくないそうで、「日本初・3D立体・ソリッド・アトラクション・スリラー」というフレーズも用意されている。確かにスプラッタや切り株はないし、残酷な暴力や殺人のシーンもないけれど、やっぱりそこは清水監督、ゾクゾクさせる恐怖描写や、音響のダイナミズムを活用してドキッとさせるシーンなどは手慣れたもの。特に、じわじわとボリュームアップする呪術的で不穏な女性コーラスがふっと途切れて無音になる演出などは、たとえば将来DVD化されたものを自宅のガチャガチャした生活空間で観ても効果半減だろうから、ぜひとも劇場でしっかり味わっていただきたいと思う。
[公開情報]
『戦慄迷宮3D』“THE SHOCK LABYRINTH” 10月17日公開
清水崇監督作品
出演:柳楽優弥、蓮佛美沙子、勝地涼、前田愛、水野絵梨奈/松尾スズキ
プロデューサー:小椋悟、谷島正之、宮崎
脚本:保坂大輔
公式サイトhttp://3D-SHOCK.asmik-ace.co.jp
3D技術協力:IMAGICA/プロダクション協力:アグン・インク/原案:富士急ハイランド「戦慄迷宮」
製作プロダクション:小椋事務所/企画・配給:アスミック・エース
(c)ショック・ラビリンス・フィルム・コミッティ2009
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