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高森郁哉の「ArtとTechの明日が見たい」

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『ディズニーネイチャー/フラミンゴに隠された地球の秘密』レビュー

2009年8月20日

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©Anup and Manoj Shah ©Disney Enterprises, Inc. All rights reserved

故ウォルト・ディズニーは数々の名作アニメーションを世に送り出す一方で、1948年~60年にかけて計13本の自然ドキュメンタリー映画を製作、そのうち“A True-Life Adventure”(自然と冒険記録映画)シリーズの『砂漠は生きている』を含む11本でアカデミー賞を受賞した。ウォルトの死とともに、ディズニーの自然ドキュメンタリー映画の製作は途絶えていたが、2004年に共同製作した『皇帝ペンギン』が世界的なヒットを記録したことが後押しとなり、2008年にウォルトの精神を継承した自然をテーマとする新たな映画レーベル、≪ディズニーネイチャー≫が誕生した。

その第1弾として製作されたのが、日本では8月28日から全国で劇場公開される『ディズニーネイチャー/フラミンゴに隠された地球の秘密』だ。舞台は東アフリカ・タンザニアの北部、ケニアとの国境近くに位置するナトロン湖。ほとんどの生物を寄せつけない毒性の強いソーダ塩を含み、乾期に水が干上がると一面が塩で真っ白に覆われる。雨期になると、水中の微生物が繁殖し、真っ赤な炎の湖と化す。この雨期に約10万羽もの大群をなして毎年飛来し、ここで繁殖するフラミンゴたち(コフラミンゴとオオフラミンゴ)がいる。フラミンゴは藻類(植物プランクトン)や小動物(動物プランクトン)を食べ、そこに含まれるカロチン色素が体内に吸収されて羽に取り込まれるため、紅色になるのだという。

隊列をなして飛来したフラミンゴの群れが徐々に高度を下げ、ナトロンの鏡のような湖面に姿を映しながら羽ばたくシーンの美しさにまず心を奪われる。岸辺にたどり着いて間もなく始まる求愛ダンスのシーンは、製作陣の芸術的感性とユーモアがはじける序盤のハイライトだ。アップテンポのラテン音楽をBGMに、フラミンゴの激しくも優雅なステップや羽ばたきがテンポ良い編集で躍動感豊かに描かれていて、あたかもフラメンコの群舞を見ているような楽しさがある(パンフで初めて知ったが、フラメンコの語源とフラミンゴとは同じ由来だという説もあるそうで、ネット上でもたとえばこのページに他の有力な説とともに紹介されている)。

泥を盛った巣に産みつけられた卵から、やがて孵る雛たち。親鳥が口移しで与える最初の食事は、どきっとするような鮮血の赤だ。この“フラミンゴミルク”には、微生物のカロチン色素のほか、親の喉からはがれた組織も混じっているためこのような色になるそうで、これほど鮮明な映像で撮影されたのは初めてだという。

頼りない足取りでちょこちょこと歩き回る雛の姿はかわいいが、過酷な環境ゆえの悲劇もある。塩湖の浅瀬を不用意に歩いているうち、塩分が足の回りに乾いて固まり、もはや外せない「塩の足かせ」ができてしまうのだ。ほかにも、数は少ないながらも外敵がいて、アフリカハゲコウ(大きく長く伸びたくちばしが死神の大鎌のよう)が憎らしいほどに悠然と歩いて雛たちを次々に仕留めていく様子や、ハイエナが長い距離を疾走して獲物をとらえる様子など、痛ましいシーンも「野生動物のありのままの姿」として収められている。

雛たちがある程度成長すると、わずかな大人たちに率いられた群れは水量が豊かで餌の多い場所へと移動する。長い行進が続き、脱落者も出るが、やがて美しく青い湖にたどり着く。この新天地でさらに育ってたくましい翼を得た若いフラミンゴたちは、ついに空へと舞い上がる――。

これまであまり知られていなかったナトロン湖のフラミンゴの生態を追った本作、主役はもちろんフラミンゴたちだが、舞台となるナトロン湖の、藍色、紅色、エメラルドグリーン、そして夕暮れの金色と、さまざまに移り変わる美しい表情も印象的だ。色鮮やかなフラミンゴと愛らしい雛をとらえたドキュメンタリーということで、家族連れで楽しめるのは言うまでもないが、こだわりが感じられる映像美と音楽のおかげで大人の映画ファンや映像マニアにもおすすめできる作品となった。

なお、今後のディズニーネイチャーのラインナップとしては、花粉を運ぶ小さな生き物たちが主役の『HIDDEN BEAUTY』、ライオンやチーターなど大型のネコ科の母親による子育てのドラマ『BIG CATS』、チンパンジーの家族の知られざる生態を追う『CHIMPANZEE』(タイトルはいずれも原題)が挙がっている。

[公開情報]
『ディズニーネイチャー/フラミンゴに隠された地球の秘密』
原題:THE CRIMSON WING:MYSTERY OF THE FLAMINGOS
8月28日(金)TOHOシネマズ六本木ヒルズほか全国公開
監督:マシュー・エバーハード、リーンダー・ワード
音楽:ザ・シネマティック・オーケストラ
ナレーション:宮﨑あおい
ディズニーネイチャー提供
ナチュラル・ライト・フィルムズand クドス・ピクチャーズ 
2008年/アメリカ映画/ドルビーSRD/ビスタサイズ/1時間19分
配給:ウォルト ディズニー スタジオ モーション ピクチャーズ ジャパン
(C)Disney Enterprises,Inc.
公式サイト:disneynature.jp

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©Anup and Manoj Shah ©Disney Enterprises, Inc. All rights reserved

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プロフィール

フリーランスのライター、翻訳者としての活動を経て、2010年3月、ウェブ・メディア・地域事業を手がける(株)コメディアの代表取締役に。多摩地域情報サイト「たまプレ!」編集長。ウェブ媒体などへの寄稿も映画評を中心に継続している。

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