このサイトは、2011年6月まで http://wiredvision.jp/ で公開されていたWIRED VISIONのコンテンツをアーカイブとして公開しているサイトです。

高森郁哉の「ArtとTechの明日が見たい」

アートと技術、オーディオビジュアル、メディアをめぐる話題をピックアップ

ビートルズ2題:9月発売のリマスターCDと、未発表音源入りかも?なゲーム『Rock Band』

2009年4月12日

The Beatlesの全オリジナル・アルバムに初めてデジタル・リマスターを施した計14タイトルのCDが、今年9月9日に全世界でリリースされることになった。EMIミュージック・ジャパンが公式サイトを立ち上げており、タイトルの詳細や価格、ボックスセットの内容などは商品詳細のページで確認できる。

オーディオファイル的に興味をひかれるのは、「ザ・ビートルズのリマスター」のページにある説明の、「[アナログのマスター・テープからデジタルデータへの]トランスファーは、24ビット/192kHzで作動する、プリズムA-Dコンヴァーター経由のプロトゥールスでおこなわれる」という部分。使用機器は、米Digidesign社のデジタル・オーディオ・ワークステーション『Pro Tools|HD』と、おそらく英Prism Sound社のコンバーター『ADA-8XR』だろう。24bit/192kHzと聞いて、「それからまたCD音質の16bit/44.1khzに落とすなんてもったいない……」と感じたのは僕だけではないはず。たとえばBlu-ray Discなら、リニアPCMかDorby True HD、DTS-HD Master Audioのいずれかの音声フォーマットで24bit/192kHzのままステレオ収録が可能で、自宅のBlu-ray再生環境でスタジオ品質に近いサウンドを楽しめるからだ。

あるいはせめて、昨年立て続けに3種類が登場した「高音質CD」で出してくれたらいいのに……。これらはいずれも規格自体は従来のCDと同じだが、いずれもディスク基盤素材への高分子ポリカーボネートの採用などで音質を向上させたもので、EMIミュージックはそのうち「HQCD」と「SHM-CD」でタイトルを出している(残りの1種類はソニーが開発した「Blu-spec CD」)。ただ、これらの新しい高音質CDは従来盤より少し値段も高くなるので、レコード会社としてはまず通常素材のリマスター盤を売れるだけ売ってから、頃合いを見計らって「さらなる高音質版」を出す、といった目論見だろうか。

やや与太話っぽいが、2009年9月9日に発売日する理由について、ホワイトアルバム収録の『Revolution 9』に出てくる「number 9, number 9, number 9..」という言葉(テープリピート)への言及だ、と『Undercover.com.au』が指摘していた(ワイアードのこの記事のタイトルも同曲を意識したもの)。この曲を作ったジョン・レノンが、1940年10月9日に生まれたからか「9」をラッキーナンバーだと考えていたのはよく知られていて、ビートルズ時代はほかにも『One After 909』という曲があるし、ソロになってからは『#9 Dreams』という曲を書いている。


さて話は変わり、リマスター盤リリースと同じく9月9日に米国で発売されるゲーム『The Beatles: Rock Band』について。開発元は米Harmonix Music Systems社(MTV Networks社傘下)で、プレスリリースによるとXbox 360、PLAYSTATION 3、Wiiの3つのプラットフォーム用に59.99ドルで売り出すとのこと。また、『The Beatles: Rock Band Limited Edition Premium Bundle』(249.99ドル)にはメンバー4人の愛用楽器をモデルにした専用コントローラーがバンドルされる。

『Kotaku』の記事によると、公式サイトの画像に徐々に登場している楽器がこのコントローラーの予告になっているという。ただ、リンゴ・スターのLudwig社製ドラムセットはいいとして、奥のギターはKotakuが書いた『Epiphone Casino』ではなく、記事のコメント欄でも指摘されているようにGretsch社製のものだ(ブリッジのデザインをGretschEpiphone Casinoで比較すると分かる)。残りはおそらくポール・マッカートニーのHofner社製バイオリン・ベースと、ジョンの『Rickenbacker 325』が固い線だろう。

ところで、『Billboard 』の記事で、ゲーム制作に協力したジョージ・ハリスンの息子、ダニー・ハリスンが「このゲームは、今まで一度も聞かれたこともなく、リリースされたこともない素材を取り上げる予定」(it will feature "stuff that has never been heard, never been released,")、つまり未発表音源が含まれる、とコメントしている。それが未発表曲であれば、たびたび話題にのぼる『Carnival of Light』がまず思い浮かぶ(昨年にもポールがこの曲について言及している)が、ゲームの内容を考えるとその線はなさそうだ(『Carnival of Light』は先の『Revolution 9』のような前衛音楽だとされている)。

ゲーム使用曲には誰もが知っていて、なおかつバンドのアンサンブルを楽しめる曲から選ばれるだろうから、未発表音源というのは既発表曲とアレンジが異なる別テイクの可能性もある。たとえば、オリジナル盤ではストリングスやブラスのアレンジが印象的に使われている曲(特に後期の作品に多い)だが、そうしたアレンジが乗る前の4ピースによるバンドサウンドの別テイクとか。ただし、アルバム『Let It Be』に関してはすでにオリジナルからストリングスを外した『Let It Be... Naked』が正式にリリースされているので、同アルバム収録曲を除いて考えると、『Something』『I Am The Walrus』『Got To Get You Into My Life』あたりが候補になるだろうか。何になるにせよ、このゲームの詳細も楽しみだ。

おまけで、ダニー・ハリスンが同ゲームについてコメントしている、YouTubeで見つけた動画。先のBillboard記事の写真で父親に似ていると思ったけど、声や話し方までそっくり(笑)。『Spike TV Video Game Awards』でのインタビューで、彼のコメントは2分半あたりから(具体的な収録曲については言及していないが)。ちなみにその前は、『メタルギアソリッド』シリーズの小島秀夫氏が取材に応えている(2分あたりから。日本語で話しているところが早送りされているせいで、通訳の人が主役みたいになってるけど)。

フィードを登録する

前の記事

次の記事

高森郁哉の「ArtとTechの明日が見たい」

プロフィール

フリーランスのライター、翻訳者としての活動を経て、2010年3月、ウェブ・メディア・地域事業を手がける(株)コメディアの代表取締役に。多摩地域情報サイト「たまプレ!」編集長。ウェブ媒体などへの寄稿も映画評を中心に継続している。

過去の記事

月間アーカイブ