『virtual drug ALTOVISION』BD版レビュー:高精細な“CGマンダラ”でトリップ感を楽しむ
2008年12月16日
(C)2008 KATSUKI TANAKA/PONYCANYON INC./Rightning,Inc.
ポニーキャニオンがリリースしてきた『virtual drug』シリーズで初のブルーレイ版として、『バカドリル』『カエルマン』などで知られる映像作家、タナカカツキ氏による最新作『ALTOVISION』が12月17日に発売される。
CGを駆使した色鮮やかな3分間のオリジナルビデオ作品が15本収録されている。映像の雰囲気については、言葉で説明するより、公式サイトで予告編を観ていただく方が良いだろう(ページ上で「Trailer」と表示されたリンク。iPod用やPC用のファイルもダウンロードできる)。万華鏡のような鏡像を多用したきらびやかなパターン、チベット仏教の細密な絵曼荼羅や砂曼荼羅を思わせる表現、ドロステ効果風に同心環の世界が拡大する映像など、手法もバラエティーに富んでいる。
総じて、遠近法で言うところの「消失点」から、映像の各要素が周囲へ拡散する動きが多く、これが特有の「移動する感覚」、あるいは「トリップ感」とか「トランス感」と表現されるような感覚をもたらす(映画『2001年宇宙の旅』の終盤で宇宙船が高速飛行している様子をイメージさせる映像があるが、あれを想起させる作品もある)。頭頂部と尾てい骨のあたりがむずむずして、もしかしてチャクラが開きかけてる?(笑)みたいな、ちょっとジェットコースターに乗っているときのような感じもするし、何か別の体験に近い気もする。
実はこのBDパッケージには、「プリズムグラス」というプラスチックのメガネが2つ付属していて、ジャケットにも「プリズムグラスをかけると3D感覚のまた違った視覚効果が楽しめます」と書かれている。このグラス、率直に言って見た目は安っぽいのだけれど、かけてみると確かに面白い効果が得られる。レンズの代わりにプラスチックの偏光板が張られていて、実像の上下左右斜めに8つの虚像が見える仕掛けで、この虚像の距離感が少し実像とずれているため、映像に奥行きができて、さらに画面のフレームの外にも映像がはみ出して見えるのだ。
このプリズムグラスの効果は、映像の精細感や色の再現性とトレードオフの関係にある(実像の上に、別の実像の虚像が重なってくるため)。そのため、どの作品でも一様に有効というわけではなく、映像のパターンによって効果に差があるようだ(個人的には2番目の『Vetro』で使ったときが特に面白かった)。
音楽は、FAIRCHILDなど多数のバンド活動を経て、現在はプロデューサーや作曲家として活躍する戸田誠司氏による、4.0chサラウンド(2chも選択可、いずれもリニアPCM)。作品によってはパーカッションやアコースティックギターなどがリアのスピーカーに振られていたりするが、基本的にはアンビエント感を重視した音響デザイン。個人的には、回転する映像に合わせて音像をぐるぐる回したり、中心から周囲へ拡散する映像に合わせてフロントからリアへ音像を移動させたりといった、マルチチャンネルを積極的に活用した演出があってもよかったのではと思うが、音楽は脇役に徹するということだろうか。
ちなみに、タナカカツキ氏と戸田誠司氏の共作は過去にも例があり、YouTubeに『馬と蝶 feat.初音ミク』という動画がアップされていたので下に貼りつけておく。
この『ALTOVISION』という作品は、全編を合わせて45分と、数字の上では短いように思われるかもしれない。しかし実際は、1920×1080(60i)のフルHD映像に膨大な情報量のグラフィックスが詰め込まれているため、通して観ると90分以上の長編映画と同じぐらいの満足感がある。もちろん個々の作品は独立しているため、気に入った映像を選んで少しずつ観たり、メニューで「シャッフル」を選んでBGV(環境ビデオ)的に流して楽しむのもいいだろう。ブルーレイのスペックを活かした非常にクオリティーの高い作品で、今後もこうした高品位のアート系BDコンテンツが数多くリリースされることを期待する。
◇タイトル: virtual drug ALTOVISION
◇発売元: ポニーキャニオン/ライトニング
◇販売元: ポニーキャニオン
◇発売日: 2008年12月17日
◇価格: ¥5,229(税抜価格¥4,980)
◇商品ページ(Amazon.co.jp):virtual drug ALTOVISION (Blu-ray Disc)
(C)2008 KATSUKI TANAKA/PONYCANYON INC./Rightning,Inc.
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