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高森郁哉の「ArtとTechの明日が見たい」

アートと技術、オーディオビジュアル、メディアをめぐる話題をピックアップ

Googleの仮想空間『Lively』:メタメディアとしての可能性

2008年7月13日

Googleが7月8日、仮想空間『Lively』を立ち上げました。多くのニュースメディアも取り上げ、当然のごとく『Second Life』と比較しています。ただ、意外に言及されていないのが、これがGoogleのエンジニアに義務付けられている20%タイム(就業時間の20%を、自分の関心のあるプロジェクトに使うというルール)を利用したNiniane Wang氏を中心に開発され、まだGoogle Labsの中に置かれる実験的なサービスであるということ。したがって、通貨がない、アイテムなどを自分で作れない、各ユーザーの部屋が孤立していて仮想世界の中でつながっていない(アバターが外の世界を移動して別の部屋に行くことができない)といった点を並べて、Second Lifeより劣る、期待外れなどと評価するのは時期尚早でしょうね。

それより注目すべきは、既存のウェブとの連携で新たな試みが見られることでしょう。まず、独立したソフトを立ち上げるのではなく、ブラウザーの中で利用できること(最初にアプリのインストールは必要ですが)。そしてもう1つ、ブログなどのウェブページに部屋のフレームを埋め込めること。Livelyのユーザーは、そのウェブページから移動することなく、ページ上に張りつけられた部屋に入室できるのです。実例として、執筆時点で入室者の多かった『Lively: Google Room』を下に埋め込んでみました。

アカウントがなければサインインできず、非ユーザーだと確認できないので(現在OSはWindows Vista/XP、ブラウザーはIEとFirefoxのみ対応)、入室後の様子をキャプチャしておきます。

CapD20080713_3.jpeg

こうして見ると、Livelyトップページのヘッダーに「Experience another dimension of the web」と書かれているように、ウェブに新しい、別の次元を追加するという意図、(Second Lifeのように閉じた世界でなく)ウェブを拡張するバーチャルスペースとしての方向性が感じられます。

CNETの取材を受けたWang氏によると、Googleでは現在、通貨とプログラマビリティの導入、Mac OSへの対応が優先的に検討されているとのこと。また、すでにYouTubeの動画とPicasaの画像をLivelyの部屋で表示できることから、こうした自社の既存サービスとの連携も今後広がりそうです。たとえば、3次元CGという点で共通する『Google Earth』の中をLivelyのアバターで移動して楽しめるようになれば、と期待している人も多いのでは。

そんなことを考えているうち、Livelyはウェブコンテンツ/ウェブメディアの利用方法を変えていくポテンシャルを秘めているのではないか、という気がしてきました。Livelyのルーム検索で「theatre」や「gallery」を入れると数十件ヒットしたことからもうかがえるように、動画や写真といったメディアを他のユーザーと一緒に見て、チャットしたりジェスチャーで反応するといった楽しみ方がすでに始まっています(※1)。ブログやSNSのページに自分のLivelyルームを埋め込んでおけば、自分の最新の日記をたった今読んだ人たちとアバターでチャットできるでしょう。オリジナルアイテムの作成や照明などのカスタマイズが可能になれば、来室したアバターたちにインタラクティブに反応するインスタレーションを作るアーティストが出てくるかもしれません。

これはつまり、「メディア体験のリアルタイムな共有」の可視化ということです。YouTubeなどの人気動画は実質的にリアルタイムで共有されているけれど、見た目にはわからない。画面上の動画と観ている自分の1対1なわけです(擬似的なリアルタイム共有体験を演出しているのが『ニコニコ動画』だとも言える)。それが、仮想空間とアバターによってメタ構造化されることで、同時に一緒に体験しているのが見えるようになる。メディアをメタ化して媒介するという意味で、Livelyはメタメディアとして機能するのです(もっとも、インターネットテレビやインターネットラジオ、新聞サイトが存在するように、既存メディアを媒介しているインターネットがそもそもメタメディアだという議論もありますが※2)。

希望的観測ではありますが、「メディア体験のリアルタイムな共有」の可視化に、何かしら新しい価値や意味合いを付加するようなアイディアが出てくれば、それがウェブサービスであれ、マーケティングであれ、アート作品であれ、面白いものが登場するのではないかと思うわけです。(※3)


※1 Second Life内でもすでに動画や写真の鑑賞は可能なので、これがLivelyで初めて始まったという意味ではない。Second Lifeとアート/メディアの関係は、近いうちに改めて書いてみたい。

※2 現在はブラウザー内にLivelyが表示されるが、Livelyの中にブラウザーを表示させるという「ネットのメタ化」は実現しないだろうか。たとえば、グーグルの達人が自分の部屋で高度な検索テク・情報管理術を披露し、集まったアバターたちが「すげー」と驚嘆したり、「いや俺の方が」とか言うのだ。オフ会すればできるじゃん、と言われればそれまでだが。

※3 現在チャットのテキスト入力窓は日本語の直接入力に未対応だが、テキストエディタなどからのコピペが使える。さらに、rakune氏という方が早速『Lively日本語入力ツール Lively JP Chat Tool』を作って公開し、コピペの手間をなくしてくれた(一般のフリーソフトと同様、導入は自己責任で)。いずれLively本体が多言語化するまでのつなぎではあるが、便利に使わせてもらっている。

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プロフィール

フリーランスのライター、翻訳者としての活動を経て、2010年3月、ウェブ・メディア・地域事業を手がける(株)コメディアの代表取締役に。多摩地域情報サイト「たまプレ!」編集長。ウェブ媒体などへの寄稿も映画評を中心に継続している。

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