第22回 METECツアー同行記(4)
「ソックモンキーの手作り教室」が終わった後、METECの現場で働いている人たちに話をうかがうことができた。忙しい中時間を割いて取材に応じていただいたのは、METEC開発部部長の冨田和之さん、本社生産革新本部からMETECに駐在している内海省吾さん、テレビラインのリーダーである秋國博文さんだ。
METECで働き始めて6年という秋國さんは、リーダーとして、正しい手順で安全に作業ができるよう作業員のフォローをしながらラインを見て回ることが仕事だという。経験とカンを駆使しながら、アドバイスをしたり不測の事態の予兆を見つけ出し回避するのだ。当然のことながら、この仕事は経験豊かなベテランでないとできない。「テレビの解体作業」と一口にいっても扱うテレビは、メーカーや大きさによって形も構造もまちまちだ。ということは、きっと作業のコツも無数にあるはずだろうし、新人とベテランでは、ずいぶんと仕事の仕方に差が生じるはずである。
「もちろん作業を習熟するには時間もかかりますし、道具を扱うセンスも必要です。我々としては1人で3工程ぐらいできたら一人前だと言っています。自分の前の行程を知っていたら、前の行程の担当者の大変さがわかり、後ろの行程を知っていれば後ろの行程の担当者の作業を楽にさせる工夫ができる。ライン全体のスピードアップにつながりますし、品質も上がります」(秋國さん)
また、METECは「トレジャーハンティング」(宝探し)というスローガンを掲げ、現場からの積極的なラインの改善案や意見を推奨している。現場の提案は、どのように会社に取り入れられているのだろうか?
「なにげない会話から意見が取り入れられることもありますし、ラインのミーティングで意見をまとめることもあります。社長宛の意見箱がいろいろなところに置かれているので、そこに意見用紙を直接投函することもできます」(秋國さん)
そして、秋國さんら現場の人々の要望を受け入れながら、ラインの改善を担当するのが、冨田部長率いる開発部門だ。
「現場の改善は開発部門のミッションのひとつです。働く人に負担をかけないで作業効率を上げるために、製品を持ち上げる高さなど、微調整を日夜繰り返しています」(冨田部長)
現場の改善とともにリサイクル技術の先行開発も開発部門のメインミッションのひとつだ。製品のリサイクル率を少しでも上げるために、分離手段などの研究を続けている。また、今後、家電リサイクル法の改正によって、新たにリサイクルが義務づけられる薄型テレビや乾燥機の解体研究も急ピッチで進められているそうだ。
「とくに薄型テレビは、解体するのに新しい工法が必要なので、あらゆるケースを想定し、試行錯誤しながら実証試験を続けています」(冨田部長)
これまでにMETECは、ブラウン管の高速分割、コンプレッサーの常温破砕、熱交換機の銅・アルミ高純度分離など68件もの特許出願を行っている。2月26日に発表されたばかりの画期的な「触媒反応による有機物リサイクル技術※」も、METECの独自技術のひとつだ。
そして、日々繰り返される研究開発から生まれたこれらの技術やノウハウは、松下グループ全体に積極的にフィードバックされている。そのパイプ役を担っているのが、本社生産革新本部から駐在している内海さんだ。
「『解体実証活動』と私たちは呼んでいるのですが、グループ内の製品設計者に来社してもらい、担当している製品の解体実証や、ライン作業を経験してもらっています。設計者の方に身をもって解体作業の大変さを実感してもらうんです。我々が先方に出向いて実証をすることもありますよ。こういった活動を通じて、開発・設計者のリサイクルに対する意識も変わってきていると思います。かつては10種類以上の樹脂がテレビの原材料に使われていましたが、現在では3~4種類まで減ってきていますし、分離不可能な金属とプラスチックの混合物も徐々に減ってきています」
METECは、家電製品を分解して再利用するのみならず、商品開発設計部門へのフィードバックをおこなうことで、松下グループ全体のリサイクル効率性をさらに高めている。秋國さんの言う「自分の前の行程を知っていたら、前の大変さがわかり、後ろの行程を知っていれば後ろの作業を楽にさせる工夫ができる」というのは、ラインの話であるとともに、モノづくりの基本でもあり、さらに大きく言えば、消費者が循環型社会をつくるために常に意識しなくてはならない課題でもあるのだ。
- 前のありがたさと後ろの大変さを理解する
※この技術によって、樹脂で覆われた配線や金属が混入した樹脂から金属だけを回収するとともに、焼却や埋め立て処理されていた混合プラスチック材を安全にガス化できるようになった。しかも、自己反応熱で処理されるため、外部からのエネルギー供給もほとんど不要だという。
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それは現場で起きている。
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