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第13回 「黄海エコリージョン支援プロジェクト」とは!?

世界自然保護基金(WWF)と松下電器産業株式会社が、昨年9月26日に発表した「黄海エコリージョン支援プロジェクト」。日中韓の3カ国が、国境を越えて黄海周辺の環境活動に長期的に取り組むプロジェクトだ。期間は2007年から2014年までの7年間。黄海周辺約46万平方キロメートルの海域「黄海エコリージョン」内の海洋生態系の保全と沿岸に住む人々の暮らしを豊かにすることを目指している。

このプロジェクトは、中国ではWWF中国と中国国家海洋局(SOA)が、韓国では韓国海洋研究院(KORDI)が中心となって活動をおこなっている。そして、日本からは、WWFジャパンとともに、黄海沿岸に約50の生産拠点を持つ松下電器が、WWFのコーポレートサポーターとして参加している。同社は、約1億7000万円の資金支援とともに、同プロジェクトの広報・啓蒙活動などの分野で協力していく予定だ。WWFジャパンが実施している「有明海プロジェクト」の支援経験(2002年~2005年)もあり、そこから生まれた信頼関係が、今回のプロジェクトへの参加にもつながったという。

それにしても中国大陸と朝鮮半島に囲まれている黄海とは、どんな特徴を持った海域なのだろうか?

黄海の最も大きな特徴は、世界最大級の大陸棚と広大な干潟が存在することだ。大陸棚は底引き網漁の絶好の漁場であり、干潟はカニやゴカイ、魚の稚魚など、豊富な水産資源を産み出す源となっている。また、アジアでも有数の渡り鳥の中継地域で、韓国のセマングム干潟や東津川河口、中国の鴨緑江河口などで10万羽~15万羽単位のシギやチドリが観測されている。

ところがここ数年、黄海地域の深刻な環境汚染が報じられ、沿岸の干潟も、埋め立て工事や干拓、養殖産業の拡大により激減している。WWFの発表によれば、中国では1950年当時と比べ、干潟が約37%減少、韓国でも1917年時と比較して、43%の干潟が失われてしまったという。 また、過度の漁獲による資源の枯渇も深刻で、1960年と比べ、現在の漁獲量は10分の1にまで減少してしまっているそうだ(昨年12月には韓国の「エコリージョン」内で原油流出事故も発生してしまった)。

そんな危機に瀕した黄海の環境保全対策として、「黄海エコリージョン支援プロジェクト」が掲げている目標の一つは、「地元地域の人々に環境保全の取り組みの主役になって環境保全を推進してもらう」ことだ。

「このモデル・プログラムでは、地域の自治体や学校、そして漁業などに関わる人々と、黄海の大切さ、豊かさについて意識や考え方を共有し、自主的に環境の保全に取り組んでもらうことを目指します。これは同時に、資源の保全や、その持続的な利用の方法を確立する取り組みです。そして、これらの取り組みを、地域振興策として定着をはかり、他の沿岸の地域にも広めてゆくことで、海域全体の保全に活動を拡大してゆくのです」(WWFジャパンホームページより)。

7年という長い期間を通して、沿岸に住む人々の意識改革につなげていく。たとえ、スピードがゆっくりであっても地域の人々に環境意識が根付けば、次の世代にも、また次の世代へも、その活動は受け継がれていくはずだ。

また、経済のグローバル化が進み、商品の「川下」と「川上」の距離が物理的にすごく遠くなり、心理的にも「川上」の現場感を「川下」に位置する我々日本人は、ほとんど感じることができなくなっている(そういえば、そんなテーマのテレビ番組が昨年報じられていた)。もちろん、日本人の我々にとっても黄海は大きな存在だ。ハマグリやタコなど、黄海産の海産物は大量に輸入され我々の食卓に上っている。黄海沿岸で部品が製造されている工業製品もたくさんある。しかし、日本人消費者としての我々が、その現場となる「黄海」周辺の環境やそこで暮らす人々の情報に接する機会は少ない。ただし、流通がボーダーレスになったということは、見方を変えれば、他国の環境対策の遅れを、もはやよその国の問題だとして批判(あるいは無視)することができなくなりつつあるということでもある。では、具体的にはどうしたらいいのだろうか? その回答の一案が、3カ国の国家機関や企業、研究団体が参加したWWFのこのプロジェクトなのだと思う。環境というフィルターを通してみると、通常の国境で区切られた世界地図からは見えてこない別の地図が見えてくる。そしてその新たな地図を意識する努力を、今の時代に生きる我々はし続けなければならないのだ。

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プロフィール

小林ミノル

スタッフライター。1975年大晦日生まれ。30歳を過ぎ、エコの大切さに遅まきながら気づきはじめる。取材を通して、ニッポン企業の“縁の下の力持ち的”な環境対策を世に広めたいと考えている。