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第11回 スターリングエンジンの開発現場に潜入! 其の弐

eスターの赤澤社長によれば、そもそもこの船舶スターリングエンジンのプロジェクトは、東京湾に停泊している船舶の排ガスを削減することを目的に開始されたのだという。船舶は、停止中もさまざまな活動をしなければならないため、エンジンを切らないまま停泊していることが多い。しかしそれが東京湾の大気汚染の大きな原因になってしまっていた。そこで、運行中に生じる排ガスを元にスターリングエンジンを使って蓄電し、停泊中はエンジンを止めて活動できるようにしようということで、今回のプロジェクトが生まれたのである。2005年度から1年に1台づつ、計3号の試作機を製作し、今年9月、ついに研究棟での公開実験に到達。さらに来年09年1月には、船に搭載しての実験が行われるそうだ。

しかし、スターリングエンジンの原理とは、いったいどんなものなのだろうか? 「外側からの熱によってシリンダー内部の空気を膨張・収縮させてピストン運動を行うエンジン」とはいうものの、実物を見たことがないため、いまいちピンとこない。自分の頭の上に浮かんだそんな“クエスチョンマーク”が読み取られてしまったのか、ここで平田先生があるものを取り出した。

「お見せたほうが早いですよね。これが模型なんですが…」

百聞は一見にしかず。平田先生に模型のスターリングエンジンで実験してもらう。

登場したのは、平田先生が自分でつくられたミニチュア版のスターリングエンジン。15センチぐらいの高さで、上部には円柱と洗濯板のように刻みの入った鉄板(中央に穴があいている)が左右それぞれに置かれている。そしてその下から、中にピストンが入っているシリンダーが2本伸びていて下でホイールとつながっている。

平田先生が、この模型の円柱部分にバーナーの炎をブウォーっと当てること5~6秒。一気に左右のシリンダー内のピストンがカンカンカンと音を立てながら上下に動きはじめ、下のホイールがグルグルと高速で回り始めた!

向かって左側の円柱にバーナーをあて、シリンダー内の空気を膨張させる。右側は冷却装置。

「この円柱の部分を温める一方で、板のほうからは冷たい空気を送り込んでいるわけです。そうすると、円柱の下のピストンは空気の膨張圧力を、板の下のピストンは空気の収縮圧力を受け、2つのピストンが上下し続けます。その運動によって車輪も回転するわけです。これはガスバーナーの熱ですが、温かければどんなものでも動くので、船舶の場合は、ディーゼルエンジンの温かい排気ガスを上部に流しこんでピストンを動かし、発電させます。シリンダーの中の気体も空気ではなくヘリウムを封入し、より効率を高めています」

それにしても、ガスバーナーを当てただけで、こんなに早く車輪が回転するなんて…。正直エネルギーの大きさに驚いてしまった。そして、この10倍はあろうかという大きさの船舶用スターリングエンジンの試作機が3機、隣の実験場に置かれているのである。(続く)

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それは現場で起きている。

プロフィール

小林ミノル

スタッフライター。1975年大晦日生まれ。30歳を過ぎ、エコの大切さに遅まきながら気づきはじめる。取材を通して、ニッポン企業の“縁の下の力持ち的”な環境対策を世に広めたいと考えている。