第2回 気分はもう戦争・そのII
2007年8月 6日
(小田中直樹の「バック・トゥ・ザ・フューチャー」第1回より続く)
というわけで「モロッコ」である。「モロッコ」といえば、かつて炭鉱でみられた軽便鉄道みたいなやつでしたっけ? あれは「トロッコ」! それじゃ男の子を指す仙台弁? あれは「ヤロッコ」! ローカルなネタですみません。
あれっ、なんの話だっけ……そうそう、「気分はもう戦争」くんに対して、個人主義的で出羽守的な回答をみつけたぞ、そのヒントが「モロッコ」でね、という流れだった。では、なぜモロッコなのか。答えを考えてトラックバックを送ってくださった方がいらっしゃったとしたら、ありがとうございます。直接お礼が申上げられず、すみません。
【1】
さて、個人主義というスタンスをとる場合、大切な点が2つある。
第1に大切なのは、本人の気持ちを優先することだ。当たり前にみえるかもしれないが、「個人」主義っていうんだから、なによりもまず個人が尊重されなきゃいけない。それじゃ、かの「気分はもう戦争」くんの気持ちはどんなものか——。
よく見るがよい! 耳をそばだてるがよい! なーんて、そんなことしなくても、彼らの主張をちょっとみれば、すぐにわかるはずだ。戦争を願う彼らの発言の背景には、こんな生活はいやだ!、リセットして新しい人生を始めてみたい!、夢と冒険の日々を!、という、かなーり悲痛な叫びがある。彼らの気持ちの根底には「新しい人生を始めたい」という切実な願いがあるわけだ。
もうひとつ、第2に大切なのは、ほかの人に迷惑をかけないようにすることだ。ほかの人だって「個人」なんだから、ちゃんと尊重されなければならない。そうだとすると、たとえば「気分はもう戦争」くんの希望をかなえ、日本で戦争を始めるという選択肢はダメだ。これだったら、本人の気持ちを優先するという第1の点はクリアできるけど、世の中には戦争はいやだって考える人も多いはずだから、彼らに迷惑をかけるので第2の点はクリアできない。
ここで、そろそろ出羽守らしく、日本のそとに眼をむけよう。ぼくはフランスのことくらいしかわからないので、「フランス『では』」……あれ、モロッコじゃなかったっけ?
かくして、なぜか「モロッコ」である。
【2】
でもね、ここでいう「モロッコ」は、国名ではなく映画の名前である。おっ、そういうとピンときた人もいるかもしれない!
そう、マレーネ・ディートリヒ主演のこの映画(1930年)、お相手のゲーリー・クーパーの役どころは……フランス外人部隊だぜ。そして、外人部隊(レジオン・エトランジェール)のうたい文句は、といえば、泣く子も黙る「出自、宗教、国籍、学歴、家柄、職歴のいかんにかかわらず、新しい生活を始めるための新しいチャンスを与えよう」である。どうだ「気分はもう戦争」くん、外人部隊は?
外人部隊は、だれでも入隊を志願する資格があるし、入隊試験があるが、合格して入隊するに際しては(なぜか)本名以外を名乗ることが義務づけられている。ついでに、3年勤務すると、希望すればなんとフランス国籍まで取得できる(希望しない場合でも、除隊後にフランス滞在許可証がもらえる)。ちなみに「外人」じゃなきゃいけないので、フランス人が入隊する場合は別の国籍を自称すればOKらしい。どーだ、これだったら「新しい生活を始めたい」という深層心理にピッタリじゃないか?
さらに、外人部隊はフランス陸軍の正式部隊であり、しかも最前線に投入されることで知られている。21世紀に入ってからだけでも、旧ユーゴスラヴィア、ハイチ、コートジボワール、アフガニスタンなどなど、各地で戦闘に従事している精鋭部隊だ。現在は、たとえばジブチ政府の要請により、ジブチとソマリアの国境警備にあたっているらしい。これだったら「わたしの戦争への意思は、単なる脅しやレトリックではない」という決意表明にもドンピシャじゃん。
それに、これだったら「気分はもう戦争」くんが日本で戦争を起こし、平和を愛するぼくらの迷惑になることも、たぶんないだろう。
さらにいえば、給料もすごいぞ。最初は当然二等兵から始まるが、それでも最低で月額1156ユーロ(1ユーロ160円で計算すると約18万円)、ジブチ駐留の第13外人部隊準旅団だと、海外勤務手当がつくので3329ユーロ(約53万円)。夢のようではないか、きみ! プレカリアートよ、さようなら、生活苦も、さようなら、である。
かくのごとくして、外人部隊は「気分はもう戦争」くんが直面しているすべての問題を一挙に解決する特効薬である。しかも、本人の気持ちを優先し、ほかの人に迷惑をかけず、外国に行けるという、個人主義的で出羽守的という基準にもピッタリとマッチしている。
もっとも、「エヴリバディ・ウェルカム」をうたうにしては、外人部隊に入隊するのはけっこう大変らしい。試験があるし、そもそも入隊受付けの場所は11箇所あるんだが、これが全部フランス国内なんだよなあ……フランスまで行く交通費は自腹なので、このハードルが高いかもしれない。
ちなみに不肖小田中は、かつて、パリから日本にもどる途中、トランジットしたモスクワから成田にむかう(貧乏だったので他に選択肢がなかった)アエロフロート機はイリューシン62型の機中で、外人部隊帰りの日本人青年と隣合せになったことがある。ほかにすることもなかったので、数時間にわたって彼の経験談に耳をかたむけた……のだが、そりゃもう想像を絶する世界ではあった。
【3】
ただし、丸山眞男が生きていたら「気分はもう戦争」くんに外人部隊を勧めただろうか、といえば、まぁそれはないだろう。個人主義者で出羽守だった丸山は、同時に熱烈な平和主義者でもあったからだ。それは、おそらくは、彼の軍隊経験のなせるわざだろう。
外人部隊は、実際に殺す(し、それより可能性は低いだろうが殺されるかもしれない)実戦部隊だ。「気分はもう戦争」くんに殺す勇気はあるか? 少なくともぼくにはないのだが、まぁ「それは既得権益をもっている大人だからだろう」といわれるかもしれない。しかし、そのうえで言を継ぐとすれば、ぼくとしては殺すことは勧められませんね、やっぱり。
それにしても、外人部隊というのは、ちょっと考えると不思議な軍隊だ。わざわざ「外人」をうたうってのも不思議だけど、たとえば、なんでフランス人の入隊者は別の国籍を自称しなきゃならないんだ? ほかにも色々あるが、こんな不思議さのヒントは、その歴史にある……って、これが今回のメインテーマだったんだけど、前口上をひっぱりすぎたのでTo be continued。
これって、われながら計画性なさすぎじゃん。まぁしかたがないか、んで、フランス人入隊者が別の国籍を自称しなきゃならない理由だが、ヒントは
「徴兵制」
関心をおもちの方は、予想回答をトラックバックで寄せられたい。では次回に続く……のか、本当に?
本日のまとめ……人生いくらでもやり直せる
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小田中直樹の「バック・トゥ・ザ・フューチャー」
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