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木暮祐一の「ケータイ開国論II」

通信事業者のための情報サイト「WirelessWire News」から話題をピックアップし、モバイルサービス業界を展望する。

定額制パケット通信料見直しのきっかけになるか、b-mobile Fair

2011年4月13日

(これまでの 木暮祐一の「ケータイ開国論II」はこちら

 日本のケータイ料金は、各種プランや割引サービスが乱立し、正直なところ一般のユーザーには非常に分かりづらいものになっている。ソフトバンクモバイルは月額980円のホワイトプランで分かりやすいケータイ料金の見本を示したものの、その後解約に違約金を設けるなど、また混迷に走っている。

 さらに疑問を感じているのは、パケット通信料だ。パケット通信という概念が登場したのは、NTTドコモがパケット従量課金のデータ通信サービスを始めた1996年からである。このときは第二世代方式のムーバでパケット通信を可能とさせ、最大28.8Kbpsの速度でデータ通信が利用できるようになった。このときに定められたパケット通信料が、1パケット=0.3円。その後、1999年開始のiモードサービスにおいてもこのパケット通信料は継承され、より大容量のデータを扱うことが考えられるFOMA(当時、最大384Kbps)においては、1パケット=0.2円に引き下げられたものの、FOMAで下り最大7.2Mbpsとなった現在においてもベース料金はそのままである。

 通信時にやり取りされるデータの量は、その通信速度が250倍になったことを考えても、通信料の設定が現実的でないことが想像できる。実際には、各通信事業者とも各種パケット割引サービス、定額通信サービスなどを申し込むことで、パケット通信料の単価は0.042〜0.084円(税込)と安価になることが説明されているが、それでも通信速度の向上率に比べると、パケット通信の単価は決して現実的なものといえない。

 現在は定額制パケット通信料を選択するユーザーが大半なので、パケット通信料の単価などは考える必要もないのだろうが、それでも毎月の電話料金のうち大きな割合を占めるようになってきたパケット通信料の根拠に、疑問を感じているユーザーは少なからず居るはずだ。

 そんな中、データ通信MVNOを手がける日本通信が、プリペイド式のデータ通信用SIMカード「b-mobile Fair(ビーモバイル・フェア)」を発売開始した。日本通信に言わせれば、「Fair」とはもちろん「祭り」という意味ではなく、「公明正大」のほうのFairだそうだ。

 このSIMカードは、音声通話はできないがNTTドコモのスマートフォンのほかSIMロックフリーのスマートフォンやデータ端末などでの利用が可能で、データ通信は下り最大7.2Mbpsの高速通信が利用可能となっている。プリペイド式のSIMカードを身分証の提示なく気軽に購入できる(音声通話サービスが無いため)ことも目新しいが、あえて月額定額制ではなく、利用するデータ量で課金される従量型のプリペイド方式にしているところが画期的といえそうだ。

 同社の説明会にも参加してきたが、三田聖二社長は2段階定額制パケット通信料の料金設定に疑問を投げかけていた。すなわち、2段階定額ではごく少ないデータ通信量の利用であっという間に上限金額に達してしまい、平均的な利用量のユーザーもすぐに上限金額に張り付いてしまっているという。本稿で前述したとおり、これはパケット通信料の単価自体が現状のデータ通信速度に見合っていない高額なものである点からも想像いただけるだろう。

 こうした定額制パケット通信料の存在によって、大量のトラフィックを発生させるヘビーユーザーが同額の通信料で済んでいることにも疑問を投げかけていた。NTTドコモの辻村副社長の過去の発言によれば「上位1%の超ヘビーユーザーがトラフィック全体の30%」を占めるという。同様にソフトバンクモバイルの松本副社長も「3%のユーザーが、トラフィック全体の50%を使っている」と発言されていたそうだ。海外でも同様で、実際に海外の通信キャリアが定額制パケット通信料の廃止に動いたところもある。

 日本通信では「月間に300MB以下の通信量のユーザーが65%を占める」ということで、月間250MBあれば平均的なユーザーの利用はまかなえる上、月間754MBまでなら3大キャリアの2段階定額通信料よりも安く利用できるサービスを展開できると判断したようだ。従量制とはいえ、平均的なユーザーならばNTTドコモの定額制パケット通信料よりも安価に利用ができる。しかも、速度制限はない。画期的な製品といえそうだ。

 また、日本通信はパケット通信料を、パケット(1パケット=128バイト)という分かりにくい単位ではなく、「MB」「GB」という現実的な単位を使っている。海外のデータ通信料の多くは、MB単位で従量単価が表示されることが多い(日本でも、NTTドコモのXiサービスでようやくKB、GBという単位が使われるようになった)。こうした「料金を分かりやすく」している点も大いに評価したい。日本通信のこうした製品が認知を高めていくことで、よりユーザーの利用実態に即したパケット通信料単価や、定額制パケット通信料の見直しなどが進められるきっかけになるかもしれない。

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プロフィール

1967年東京都生まれ。携帯電話研究家、武蔵野学院大学国際コミュニケーション学部准教授。多数の携帯電話情報メディアの立ち上げや執筆に関わってきた。ケータイコレクターとしても名高く保有台数は1000台以上。近著に『図解入門業界研究 最新携帯電話業界の動向とカラクリがよ〜くわかる本』(秀和システム)など。HPはこちら

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