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木暮祐一の「ケータイ開国論II」

通信事業者のための情報サイト「WirelessWire News」から話題をピックアップし、モバイルサービス業界を展望する。

SIMロック解除、考えられるメリットは?

2011年4月 4日

(これまでの 木暮祐一の「ケータイ開国論II」はこちら

 東日本大震災の影響が色濃く残る中、いよいよ新年度がスタートした。この4月は、わが国の携帯電話業界においても、ケータイサービスオープン化に向けた大きな転換点となる動きがある。すなわち、SIMロック解除が公式なこととして認められるようになったという点だ。そして、NTTドコモでは今後販売開始する端末に関してはSIMロックを解除するための機能を盛り込み、ユーザーからの要望があれば、手数料3,150円でSIMロック解除に応じてくれる。NTTドコモはSIMカードのみの契約も可能となり、microSIMカードの提供も始めた。他の通信事業者も追従することだろう。

 こうした動きは、わが国におけるケータイ史上画期的なことと考えている。しかしながらSIMカードのみの契約で期待されていた、さらに安価な特別料金プランなどの設定はアナウンスされなかった。本来、販売奨励金のメリットを受けない「SIMカードのみ」の契約になるのだから、より安価に利用可能な料金プランが出てきても良いと思っていたのだが...、残念。また、SIMロック解除で私が一番期待していたのは、回線契約を伴わない端末購入が可能になることだった。しかし、こうした販売の仕方を表明してくれた通信事業者は今のところ無い。

 SIMロック解除の議論は、2007年に総務省で議論されていた「モバイルビジネス活性化プラン」で本格的に議論が始まり、昨年春に一定の結論が導き出され、本年4月から各通信事業者が実施することとなった。SIMロック解除の是非については、これまで私もさまざまなジャーナリストや関係者と意見交換したが、最終的に導き出されるのは「ユーザーにも業界側にもメリットが見出せない」という結論だった。

 はたして、本当にメリットはないのか?

 確かに、メリットは分かりにくいかもしれない。端末価格がより高騰する可能性もあり、また端末メーカーもSIMロック解除のための機能など、余計な仕様を搭載する必要も出てきて、ユーザーにも業界側にもデメリットしか見出せないような話ばかりになってしまう。

 しかし、そう考えてしまうのは日本特有のモバイルビジネスが「常識」として定着し、ユーザーにも業界関係者にもそれが当たり前として認識されてしまって、新たなビジネスモデルの発想ができない状態にあるからなのではないか。中国などではSIMフリーの端末のほうが一般的で、街中で気軽にケータイを購入することができる。ノーブランドのおもちゃのようなケータイ端末が(品質や保証はともあれ)露天で販売されていたりする。ケータイを購入するのにいちいち回線契約の手続きをする必要もない。おもちゃと同じように、レジでお金を払えばそのまま持ち帰ることができる。どうして日本では、こうしたケータイの手軽な販売ができないのだろうか。

 冒頭で申し上げたように私が期待していたことは、SIMロック解除とSIMカードだけ購入する契約形態(これは実現)に加え、契約を伴わない端末だけの購入の実現である。現在、ただでさえ料金プランや端末の購入方法が複雑で、一般のユーザーには難解なものとなってしまったが、ここを少し整理していただいて、端末だけ、SIMカードだけ、あるいはSIMカードと端末がセットになった販売(回線契約付き販売)ぐらいに分けていただいたら、端末価格や料金面でユーザーにはとても分かりやすくなるのではないかと感じている。そして、こういう販売が実現することで、ようやく端末と回線の分離が実現され、モバイルビジネス活性化プランが目指していた本来の「分離プラン」が実現できるのではないか。

 改めて、SIMロック解除で「何のメリットがあるのか」と突っ込まれそうだ。確かに現状は具体的なメリットが見出せてこないように思える。しかし、従来のわが国のモバイルビジネスにとらわれず、発想を転換して考えてみると、新たな需要の掘り起こしも可能と考えている。

 たとえば、私の勤める大学では今年度の新入生からタブレットPC(今年度はiPad)を全員に無償貸与することにした。大学側としては端末は大学負担で提供するが、3G等の回線契約の負担までは正直なところ厳しい。そのため、現在の販売の仕組みでは選択肢として「iPad Wi-Fiモデル」にせざるを得なかった。本音を言えば、「iPad 3Gモデル」を回線契約なしで一括購入できるならこれを選択し、回線契約は学生個人に委ねる形を取りたかった。学生にしてみても、すでにPocket WiFiなどの無線LANルータを持っている学生もいるし、SIMカードを自身のスマートフォンと共有して回線契約を最小限に抑えたいという学生もいるはず。中には、通信料を抑えるためにWi-Fiしか使わないという学生もいて当然だ。

 タブレットPCに始まり、今後はモバイル端末の多様化が進んでいく。こうした流れの中で「端末だけ購入する」というスタイルは、法人等を中心にそれなりに需要が増えていくのではないかと見ている。今回のSIMロック解除議論では、こうした端末のみの販売まで話が踏み込まれていないが、ぜひともどこかの通信事業者が先陣を切って開始してくれることを期待したいものだ。

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プロフィール

1967年東京都生まれ。携帯電話研究家、武蔵野学院大学国際コミュニケーション学部准教授。多数の携帯電話情報メディアの立ち上げや執筆に関わってきた。ケータイコレクターとしても名高く保有台数は1000台以上。近著に『図解入門業界研究 最新携帯電話業界の動向とカラクリがよ〜くわかる本』(秀和システム)など。HPはこちら

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