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木暮祐一の「ケータイ開国論II」

通信事業者のための情報サイト「WirelessWire News」から話題をピックアップし、モバイルサービス業界を展望する。

ケータイ業界にユーザーの意見を届けたい

2011年3月22日

(これまでの 木暮祐一の「ケータイ開国論II」はこちら

 震災に伴う計画停電は、首都圏の経済活動に大きな影響を及ぼしている。「電気がない」「交通機関が止まる」ことがどれほど不便なことかを改めて痛感させられた。一方で、動けないために通信インフラを有効活用し、テレワークを積極的に試みている。フル充電したタブレットPCなどを活用すれば、計画停電中も仕事を継続できる。改めて、日本は通信インフラが充実し、とくにモバイルの利用環境が整っていて素晴らしい国だと痛感した。

 ところで、このほど日経BP社の『日経トレンディネット』内に開設された「300万人編集会議」というコーナーにて、「ガラケーは生き残れるか?」と題したネット上の編集会議における特命デスクに任命され、読者同士の情報交換におけるリーダー役を務めさせていただくことになった。

 私が携帯電話関連の記事執筆を始めたのは1997年。じつはそれ以前から、当時パソコン通信最大手だったNIFTY-Serve(現在、@nifty)内に開設されていた通信系のフォーラム(パソコン通信内の掲示板)に出入りし、携帯電話関連の情報交換を行っていた。そうしたフォーラム内に常連として意見を書き込んだり、他のユーザーから携帯電話関連の各種情報を得たりして、携帯電話関連の知見を高めていった。

 1996年よりPHSを皮切りにショートメッセージ系サービスが誕生し、携帯電話にも1997年ごろのモデルから順次搭載されるようになった。さらにパソコン通信やEメールを単体で利用可能な携帯電話等も順次発売されるようになり、これらの画期的な携帯電話機能を多くの方に伝えたいと考え、記事執筆を始めたのだ。当時の私は健康・福祉系の出版社に勤める編集記者だったが、その本業とは切り分けて、夜な夜な携帯電話関連の記事を趣味の延長で執筆し、各種媒体に寄稿していた。

 その後、iモードをはじめとしたIP接続サービスが標準搭載され、さらにカメラやおサイフケータイ、ワンセグなど、多機能化が図られていったケータイだが、次々に登場する新機能を見ていく中で、少々疑問に思うことが出てきた。これらケータイの各種機能や、サービス、さらに各種料金施策から行政の通信政策に至るまで色々な動きがある中で、これらにきちんとユーザーの声が反映されているのかどうか疑問に感じられることが増えてきたのだ。

 業界内には各種業界団体が存在し、それぞれの立場で意見が集約され、政策や通信サービスに反映されていると思われる。電気通信事業者協会などの通信事業者の団体、情報通信ネットワーク産業協会などのメーカーやベンダー系の団体、モバイル・コンテンツ・フォーラムなどのコンテンツプロバイダーの団体、モバイルコンピューティング推進コンソーシアムなどの技術課題の解決や標準化を行う団体、日本Androidの会など開発者系の団体など、色々な組織が存在する。しかしながら、利用者であるユーザーの声を取りまとめる団体というのは残念ながら存在しない。消費者を代表する組織として、たとえば主婦連合会などもあるが、ケータイに特化しているわけではなく、ケータイ業界を理解した上での専門的意見を取りまとめることはなかなか困難であろう。

 そのようなこともあって、ユーザーの意見をしっかりと業界側に伝える仕組みが必要であると常々考えていた。

 かつてパソコン通信時代のNIFTY-Serveのフォーラムは、ここで議論される内容がユーザーを代表する声として、しっかりと業界に届いていたと思われる。当時、NIFTY-Serve内に開設されていた「移動体通信フォーラム」は最盛期には8万人のユーザーが利用登録をし、情報を閲覧したり、意見を書き込んだりしていた。また、当時のIDO(日本移動通信)や、ツーカーホン関西、アステルなどの通信キャリア、京セラなどの端末メーカーがNIFTY-Serve内に積極的に意見交換のための掲示板を開設し、ユーザーの意見を吸い上げようとした試みを行っていた。

 しかし、その後パソコン通信からインターネットへとネット利用のトレンドが移り変わり、ケータイ関連の情報交換はインターネット掲示板へと移行していった。さらに最近ではSNSを通じて議論されることもあれば、Twitterで本音を語るユーザーも多いと思われる。これはこれで素晴らしいことであるが、同時に情報が散漫し、業界関係者も情報の収集が一層困難になっているのではないかと感じている。

 かつてパソコン通信時代のフォーラムのような、ユーザーによる積極的な議論が展開できる場を作り、さらにそこで集約された意見をしっかりとケータイ業界に提案できる環境が必要だ。

 なぜ、NIFTYのフォーラムにおけるユーザーの意見が信頼を得ていたか? 会員規模も大きかったが、それよりも利用するにあたりNIFTY-Serveへの入会と、さらにフォーラムを利用するための利用登録が必要だったことで、ネット会議室上ではハンドルネームで参加するにしても、個々のユーザーが自身の発言に責任を持っていた点が挙げられよう。さらにフォーラムには必ずシスオペというボードリーダーが存在し、議論の交通整理がなされていた。いわゆる編集長的な役割を果たす管理者が必要なのだ。

 日経トレンディネット「300万人編集会議」は、コメントを書き込むに当たって利用登録が必要である。利用される皆様には手間をかけて申し訳ないが、しかしこれによってかつてのNIFTY-Serveのフォーラムのように、コメントの信頼性を高めるきっかけにもなるだろうと期待している。さらに、こうしたユーザーの皆様からのコメントを取りまとめ、交通整理していくのが私の役割となる。そうして、ユーザーの皆様が責任を持って発言される内容をきちんと整理していくことで、かつてのNIFTY-Serveのようにケータイ業界にも影響力を持つものになると確信している。

 わが国のケータイ業界をより素晴らしいものにするために、そして端末メーカーや関連サービスプロバイダーが一層の活気を持って事業を行えるよう、多くのケータイユーザーと意見を交わしていきたいと考える。

日経トレンディネット・300万人編集会議「ガラケーは生き残れるか?」

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プロフィール

1967年東京都生まれ。携帯電話研究家、武蔵野学院大学国際コミュニケーション学部准教授。多数の携帯電話情報メディアの立ち上げや執筆に関わってきた。ケータイコレクターとしても名高く保有台数は1000台以上。近著に『図解入門業界研究 最新携帯電話業界の動向とカラクリがよ〜くわかる本』(秀和システム)など。HPはこちら

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